(3)秘密の花園

 

「チャンミン...本気で質問してるの?」

 

「ああ」

 

丸っこい目で私をじぃっと見つめるのはチャンミン、私の男友達だ。

 

何でもおごるからと呼び出され、こうしてチャンミンの相談事にのることになった。

 

チャンミンの口から飛び出した内容が突拍子もなくて、ずっこけそうになる。

 

「...でさ、なんでまた急に、そんなことを知りたいのさ?」

 

「それは、その...」

 

顔を赤くしてもじもじしているチャンミンは、友人の私の目から見ても、かなりの「いい男」だ。

 

整った顔をしているし、背も高いし、賢い頭も持っている。

 

モテて当然だが、いかんせん押しが弱いというか、超恥ずかしがり屋なうえに、生来の礼儀正しさが邪魔をして不器用な恋ばかりしている。

 

大学入学以来、そんなチャンミンのよき友人として、よきアドバイザーとして、付かず離れずチャンミンを支えてきたつもりだが、今回の相談事には口をあんぐりと開けるしかないのだ。

 

「だからその...『痛い』...のか?」

 

「うーん...、そうだなぁ...」

 

私は腕を組んで、勿体ぶってみる。

 

チャンミンをからかうのは非常に楽しいが、面持ちが真剣過ぎるから遠慮しておいてやろう。

 

「ズバリ...痛いよ、すっごく」

 

「うそ...」

 

チャンミンは片手で口を覆い、青ざめている。

 

「すっごく、って、どれくらい?」

 

「人それぞれじゃないかな。

私の友達の場合は、2日くらい歩き方が変だったって」

 

「えっ...そんなに?」

 

チャンミンの顔色がますます青くなった。

 

「私のときは...うーん、中学生のときだったからなぁ、どうだったっけ?」

 

「ええぇぇっ!

タマちゃん、中学生の時だったの!?」

 

「正確に言うと、中学の卒業式の後だから、高校生未満?

ほとんど覚えていないよ」

 

私はハンバーガーの最後のひと口を放り込んだ。

 

チャンミンは、中身のなくなったジュースをしつこく吸い込んでいるから、ずずずっと音をたててうるさい。

 

「あのさ、どうしてそんなことを聞きたいのよ?」

 

「えっと、それは...」

 

今度は頬を赤らめて下を向いてしまうから、青くなったり赤くなったりと忙しい奴だ。

 

「チャンミン、私に隠し事なんて100年早いよ。

ほら、とっとと白状をおし。

いよいよ『童貞』を卒業するんだろ?

コングラチュレーション!」

 

エア・クラッカーを鳴らしてやった。

 

「しぃーーー!

タマちゃん!

声が大きい」

 

私の口をすっぽり覆うと、チャンミンは周囲をキョロキョロと見回した。

 

「タマちゃんは嬉しいよ。

坊やだったチャンミンが、やっとでひと皮むけるんだねぇ。

 

...で、どんな子なの?

分かった!

 

その子も初めてなんだね。

そうかそうか、

心優しいあんたは、彼女がどれくらい痛がるかを心配したんだね。

 

童貞と処女同士なんて、これはまたなかなかハプニング要素がたっぷりだねぇ...。

いやいや、お互いが初めて同士ときたら、感激もひとしおってことか。

 

いいか、チャンミン!

スムーズな挿入を果たすには、『躊躇するな』だぞ。

どんなに彼女が痛がろうが、チャンミンは引っ込めたりせずに、ぐいっと侵入し続けるべき!だぞ」

 

 

そこまで一気に話すのを、メモを取らんばかりに耳をすまして聞いていたチャンミン。

 

「痛いのが、いつから気持ちいいに変わるわけ?」

 

「初回から気持ちいい人もいるし、何回か数をこなさないと駄目な場合もあるし...」

 

チャンミンは、「何回も数を」の辺りで顔をしかめている。

 

「おほん。

大事なのは、お互いの愛と相性よ」

 

「初めては『痛い』けど、『躊躇はするな』。

何度かやってるうちに、気持ちよくなる...だね」

 

「チャンミン、頑張れよ。

あとで、感想きかせてな。

ごちそうさま」

 

腕を組んで考え事をしているチャンミンの肩をぽんと叩いて、次の講義の時間が迫っていた私は、席を立った。

 

前もってそんな知識を仕込んでおかなくても、その場の雰囲気でどうにでもなるのにね。

 

チャンミンの彼女がどんな子か、今度紹介してもらおう、っと。

 


 

~チャンミン~

 

 

僕とユノは「交際」している。

 

ユノは「男」だ。

 

僕の恋愛対象は「女」だったから、「男」と付き合うなんて初めてのコト。

 

大学の実習で同じグループになった。

 

マスクから覗いたユノの黒くてつやつやとした瞳に、一発でやられた。

 

僕の全部を持っていかれた。

 

ユノも同様だってさ。

 

ユノも「男」に惚れたのは初めてなんだってさ。

 

その日のうちに、ユノと「関係」を持った。

 

「関係」と言っても、深いやつじゃなくて、互いのペニスを見せあいっこして、しごき合っただけ。

 

腰が抜けるほど気持ちがよかったし、ものすごく興奮した。

 

僕は早く、ユノと一つになりたいんだけど、ユノは尻込みしているみたい。

 

「やりかた」が分からない。

 

僕だって分かんないよ。

 

僕もユノも一人暮らしだから「場所」の確保はOK。

 

実習を別にして、3年になって必修講義数も減っているから、「時間」もOK。

 

あとは、ユノの「ヤル気」だけだ。

 

ロッカールームでのこと(ちなみに、僕とユノが初めて関係を持ったのが、ロッカールームだったんだ)以来、ユノは僕といい雰囲気になるのを意識して避けているようなんだよね。

 

ユノは恥ずかしがり屋さんなんだよね...。

 

 

と、ここまで語っておいて、白状する。

 

僕は嘘をついていました。

 

 

恥ずかしがり屋なのは僕の方、尻込みしているのは僕の方です。

 

 

ユノの方は、ヤル気満々なんだ。

 

僕も興味津々だよ。

 

でも、怖い。

 

痛いのは嫌だよ。

 

女の子も、初めての時は痛いと聞くから、その辺りの経験談を聞きたいところだ。

 

そういう訳で、友人のタマちゃんに「どれくらい痛い」のか教えてもらったんだ。

 

分かってるって。

 

女の人のアソコの痛みと、男同士がガチでヤる時のアソコの痛みが違うだろうってことは。

 

異物の侵入を許したことのない箇所へ、初めて受け入れた時に痛みが生じる点は共通しているかな、と。

 

僕は友人がそう多くないし、デリケートな質問を気軽にできる人となると、タマちゃんしかいなかった。

 

まさかタマちゃんは、僕の相手が「男」だなんて想像もしていないだろう。

 

僕とユノのコト始めにあたって、真の経験者の話を聞いてみたいものだ。

 

こんな風に頭でっかちじゃなくて、その場のムードに流されていつの間に...ってのが理想的なんだろうけど、やっぱり怖い。

 

 


 

~ユノ~

 

 

「チャンミン!

端っこに座っていないで、近くに寄れよ」

 

「う、うん...」

 

時刻は13:00。

 

チャンミンは俺の部屋にいた。

 

「おやおや、チャンミン」

 

チャンミンの首筋の匂いをくんくんと嗅いだら、ボディーソープのいい香りがして嬉しくなる。

 

「風呂に入ってきただろ?」

 

チャンミンの首筋が、ボッと赤くなる。

 

「ヤル気満々じゃないか」

 

「違っ!

暑かったし、汗いっぱいかいたし」

 

かいてもいない汗をぬぐうフリをするチャンミンが、可笑しいったら。

 

「残念だなぁ。

俺はチャンミンの匂いが好きなのになぁ」

 

照れ隠しなのか、チャンミンが俺の脇を嗅ごうと鼻を寄せてきたから、腕で押しのける。

 

チャンミンと一緒にいて知ったのは、チャンミンは匂いフェチなところがあるんじゃないかって。

 

季節が夏だということもあるが、長い実習を終え、丸一日分の汗と皮脂をたっぷりとまとわせた身体を寄せると、チャンミンはうっとりとした表情を見せて、たちまち股間を固くさせるんだ。

 

潔癖気味のチャンミンが、俺の匂いに感じているのを見て、俺も感じてしまう。

 

 

俺とチャンミンが相互に「恋人」だと認識し合って、はや一か月。

 

蒸し風呂状態のロッカールームで、キスをして、2本まとめてしごいて2人同時にイッた以来、それらしいことをいたしていない。

 

互いの部屋には行き来していて、いくらでも2人きりになっているのに、チャンミンの肩を抱き寄せたりすると、びくっと身を引いて「バイトがあるから」とか、「腹が痛い」とか、あれこれ理由をつけて帰ってしまう。

 

 

何度もそういうことが続くと、鷹揚な俺でも不安になる。

 

「女の子の日か?」とふざけて聞いたら、湯を沸かすぐらい真っ赤になって怒ったっけ。

 

3日くらい口を聞いてくれなかったが、結局は寂しくなったのか「ユノの家に行っていい?」と電話があって、こうして今、チャンミンが目の前にいる。

 

 

チャンミンは、俺の胸の谷間に犬みたいに鼻づらをくっつけている。

 

「やめろよ!

いやらしい奴だなぁ」

 

「匂いを嗅ぐのが、なんでいやらしいになるんだよ」

 

チャンミンの頭をつかんで引き離したら、チャンミンの奴、頬を膨らませて俺を見る。

 

小悪魔的な魅力が駄々洩れなんだって。

 

「お前さ、わざとなのか?」

 

「何が?」

 

「ほっぺをぷぅ、って。

可愛すぎるんだよ。

小動物みたいな顔をされたら、俺は...」

 

たまらなくなって、チャンミンの首根っこをつかんで強引に唇を奪う。

 

「ユノ!」

 

「押し倒したくなるじゃないか」

 

「んー!」

 

じたばたと抵抗しているが、しょせんは「フリ」だ。

 

さっきまで抵抗していた腕が、がしっと俺の背中に回る。

 

チャンミンは、俺の下唇がお気に入りなんだ。

 

舌を入れないキスであっても、チャンミンにふにふにと甘噛みされたり、舌先でなぞられたりすると、ぞわぞわっとした痺れが下半身に向かって走る。

 

下唇を丹念に味合われていたら、俺の欲望は急加速し、チャンミンのパンツの前に手を這わすと...。

 

「!!!」

「やー!!!」

 

チャンミンに力いっぱいはねのけられ、その勢いで俺は後ろにすっ飛び、椅子の角で頭を打ち付けた。

 

「いってぇな!」

 

取っ組み合いの喧嘩じゃないかよ、これじゃあ。

 

チャンミンは「ユノ、ごめん」と眉を下げ、ひっくり返った俺に手を差し出す。

 

「ロッカールームではあんなに積極的だったのに。

急にどうしたんだよ?」

 

後頭部をさする俺は、やや不機嫌だ。

 

全力で拒否られたら、やっぱり傷つく。

 

チャンミンとの肉体的な距離を縮めようとする試みは、ドキドキの緊張しまくりなんだから。

 

チャンミンは目を伏せて、ぼそっと「だって...」とつぶやいた。

 

「怖いのか?

俺に任せろって。

それなりに、リサーチしたんだ」

 

ごたごたと物が置かれたデスクに置いたノートPCを、スリープ状態から目覚めさせる。

 

PC画面には、それはそれは、な画像が並んでいる。

 

「え!?

どこのサイト?」

 

しゅんとしてたチャンミンが、目を輝かせてこれらの画像に見入っている。

 

なんだかんだ言って、興味津々なんじゃないかよ。

 

「ハードルが低いやつからいこうと思うんだ」

 

「うん...そうだね」

 

俺の間近で、チャンミンの喉ぼとけがごくりと動いた。

 

チャンミンが画面にくぎ付けでいる隙に、俺はチャンミンのパンツのファスナーを素早く引き下ろした。

 

「ユノ!」

 

チャンミンの抵抗の手をかわして、下着の合わせから中身を引き出す。

 

間髪入れずに、そいつを口に咥えた。

 

「あん...」

 

「怖い」とか言っているやつが、ここまで元気に育ててるのがおかしいだろう?

 

風呂に入ってきたばかりだから、口の中いっぱいに石鹸の香りと、それから青臭さ。

 

「なあ、チャンミン」

 

「な...に?」

 

俺を見下ろすチャンミンの目は潤んで、口は半開きだ。

 

「ここに来る前に、抜いてきただろ?」

 

「う...ん」

 

「違う!」と否定しそうだったから、拍子抜けした。

 

2本の指で根元を握り、喉の奥まで深く咥えこむ。

 

亀頭だけ口に含んで、竿をしごいてやる。

 

「あっ、あっ、あっ」

 

しごきに合わせて、チャンミンは喘ぐ。

 

ふさふさのチャンミンの陰毛を指ですいてやると、くっとチャンミンのペニスが反応する。(意外に毛深い奴なんだよ)

 

チャンミンの両手が、俺の髪をかき乱す。

 

男のモノを口にするなんて、初めてのことだ。

 

これまで、女の子にフェラチオされて悦んでいたくせに、よくもまあ、『こんなモノ』を口にできるもんだと感心していたのに...。

 

「ひゃ...あっ...」

 

喉の奥で亀頭をぐいと挟んだら、チャンミンの腰がぐらっと揺れた。

 

チャンミンの喘ぎは、妙に女っぽい。

 

かすれた声が、非常に色っぽい。

 

突っ立ったチャンミンの前で膝立ちし、チャンミンのペニスが俺の口を出入りしている。

 

俺の口の中でチャンミンのペニスが、ぱんぱんに膨張してゆき、小さく痙攣したりする。

 

「んーっ...んっ」

 

ここをこうすると滅茶苦茶気持ちがいいんだよな、って想像しながら裏筋を舌全体で舐め上げたら、触れられていない俺のものまでビクリと反応するんだ。

 

俺の下着の中は先走りでぐちょぐちょで、力強く勃起したもので前が苦しい。

 

ちゅぽんっと口から離したら、チャンミンの元気なペニスが弾んで下腹をぺちっと叩いた。

 

「あん」

 

だからさ、声が色っぽいの。

 

 

俺の唾液でてらてら光るチャンミンのペニスを、とっくりと観察する。

 

すげえな...血管がドクドクいってる。

 

俺のモノより若干、色が濃いかな...亀頭は一回り小さいか...。

 

「恥ずかしいから...」

 

そろそろとチャンミンの手が下りてきて、自身のペニスを覆い隠そうとする仕草が可愛いったら。

 

 

「...もう、終わり?」

 

恥ずかしがってる奴が言う台詞じゃないんだよ。

 

「何が?」

 

にかっと笑顔で、チャンミンを見上げる。

 

「これ」

 

もの欲し気なとろんとした目付きで、チャンミンが続きを催促している。

 

「例えば、今みたいにハードルの低いやつから始めようかなぁ?

チャンミンはどう思うかなぁ?って」

 

「え?」

 

「怖がりのチャンミンだったら、できる?」

 

こみあげてくる笑いを抑えてチャンミンに質問したら、

 

「できるに決まってるだろ!」

 

ぷぅっと頬を膨らませてリスみたいな顔をするんだって、この男ときたら。

 

 

(つづく)

 

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