(4)秘密の花園

 

 

「出来るに決まってるだろ!」と言い切ったチャンミンは、パンツのボタンを外し下着ごと引きずりおろすと、パンツの裾から両足を抜いた。

 

上から脱げばいいのに...。

 

上はTシャツ姿で、下だけすっぽんぽんで、やたら恥ずかしい恰好をしていることにチャンミンは気付いていないらしい。

 

無駄な筋肉をつけていないすんなりとした脚で、薄めのすね毛や小さな膝の皿をしているくせに、ゴリゴリに勃起したものをぶら下げているから、いやらしい。

 

ほおっと眺めていたら、チャンミンにぎろりと睨まれた。

 

目がこえぇ。

 

チャンミンのヤル気を煽るつもりで、寸止めしたのがいけなかったのか?

 

「ユノ...」

 

目はすわっているし、額には玉のような汗が浮かんでいるし、息もはあはあと荒い。

 

「暑い!」

 

チャンミンの前髪から汗がしたたり落ちて、「ひとりで何熱くなってんだよ?」と突っ込みながら俺は、

 

「エアコン、入れるよ!

えっと、リモコンはどこだ?」

 

取り込んだまま積み上げた服や雑誌の下を探していたら、チャンミンの両腕がにゅうっと伸びて羽交い絞めにされた。

 

「リモコン...っ!

チャンミンっ...落ち着けって」

 

「ユノ...」

 

首にチャンミンの熱い息がかかり、俺の腰にゴリゴリになったモノを押しつけてくる。

 

「ユノと...したい」

 

「わかった!

分かったから、手を離せ...苦し...」

 

俺のみぞおちに巻き付いたチャンミンの腕の力が半端なくて、そうだった、俺の相手は男だったんだと、今さらながら気づかされた。

 

「こんな姿勢じゃ出来ないから、いったん手を離そう、なっ?」

 

「......」

 

チャンミンの腕という緊縛から解かれて俺は、深呼吸をした。

 

危なかった...絞め殺されるかと思った。

 

「ユノ...」

 

うるうるの瞳が生まれたての小鹿みたいな可愛い顔をしているくせに、視線を下に落とすと、Tシャツの裾から皮下脂肪の気配ゼロの固く引き締まった腹が覗いていて、れっきとした男の身体だ。

 

「上の服、脱げよ」

 

「そうだったね、ごめん」

 

もぞもぞとチャンミンがTシャツを脱ぐと、床に投げ捨てた。

 

ワンルームの狭い部屋にスウェットの上下を着た俺と、一糸まとわぬチャンミンの2人が対峙する格好となった。

 

以前より心なしか、逞しくなっているような。

 

「で...?」

 

俺は、この後の展開を見失ってしまって、ポリポリと頬を掻いていたら、

 

「どうして僕だけ、裸ん坊なんだよ!」

 

「待っ!!」

 

チャンミンにタックルされて、俺はまたしても後ろへ突き倒された。

 

ゴツンといい音がして、俺の後頭部が壁に打ち付けられる。

 

「いってぇ...な!」

 

「...ユノ...ゴメン...」

 

眉毛をハの字に下げたチャンミンが、四つん這いになってにじりよってくる。

 

積極的なのは嬉しいが、興奮したデカい奴に力任せに突進されたら、ちょっと引く、というか。

 

チャンミンの勢いに任せていたら、大事な部分も怪我をしかねない。

 

普段のチャンミンは温和で大人しいキャラなのに、今の彼は欲望でギラギラしていて、ギャップが大きい。

 

こんなにガッツいていて、女子とヤる時は大丈夫だったのか?

 

「チャンミン、深呼吸しろ。

息を吸って―...吐いて、吸って―...吐いて」

 

俺の言う通りに呼吸するチャンミンの素直さに、俺の胸がぐっとくる。

 

「......」

 

荒々しかった息遣いがおさまると、床にぺたりと座り込んだチャンミンは項垂れたまま静かになった。

 

あれだけ猛々しかったものも、しゅんとしている。

 

「勢い任せじゃないと...」

 

「わかってるよ」

 

チャンミンの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。

 

「俺もシャワー浴びてくるから、ちょっと待ってろ」

 

浴室に向かおうとしたら、俺の片足にチャンミンがしがみついてきた。

 

「危っぶねーな!」

 

「行くな」

 

俺の太ももを抱きしめたチャンミンは、

 

「僕のヤル気と勇気が消えちゃうから、僕を独りにするな!」

 

「......」

 

「それから...シャワーを浴びないで。

ユノの匂いが好きだから...っんっ!!」

 

たまらなくなった俺は、チャンミンに荒々しく唇を押しかぶせる。

 

そういう可愛いことを言うなって。

 

「んっ...ふっ...」

 

チャンミンに舌を吸わせて、ぐるりと口内を掻きまわした。

 

ひとしきりキスを交わして、ぷはっと唇を離した俺たちは微笑み合う。

 

「ユノ」

 

俺がベッドにあぐらをかいて座ると、チャンミンはリュックサックを引き寄せた。

 

「僕の方も、いろいろと調べてきたんだ」

 

バッグの中から取り出されたのは厚みのある書籍で、そのタイトルを見て俺は絶句した。

 

 

『男色と歴史』

 

 

まじか...。

 

「......」

 

優等生タイプのチャンミンの「勉強」の仕方は、これ...か。

 

「過去の歴史から鑑みても、僕らみたいなのは別に珍しくないみたい」

 

パラパラとページをめくるチャンミンのつむじを見ながら、俺は心の中で大きくため息をついた。

 

目の前で呆れて見せたら、チャンミンが傷つくだろうから。

 

「チャンミン。

間違えるな。

俺たちは男色、じゃない」

 

チャンミンの両肩をつかんで揺らした。

 

「え、そうなの?」

 

「他の男のなんて、気色悪いよ。

チャンミンだから、好きなの

今でも俺の肴は女だし」

 

「僕も...同じ」

 

「だろ?

俺たちは、アブノーマルなことをしようってんじゃない。

プレイの1つだ。

女子相手でも挿れるだろ、そこに?」

 

「う...」

 

「経験ない?

俺も、ない。

あいにく俺たちは、男同士で無駄に棒が1本多いもんだから、そこにとまどってるわけ。

どう?

チャンミンも同じだろ?」

 

「うん」

 

「...ということで」

 

チャンミンの肩を押して仰向けにして、チャンミンにまたがった。

 

「無理無理無理無理!」

 

抵抗するチャンミンの両手首をつかんで両脇に押しやり、チャンミンの首筋に吸い付いた。

 

「やっ、無理!

僕が下、なんて、無理!」

 

「キスするだけだよ」

 

「あっ...」

 

チャンミンの耳元でそう囁いて、首筋から鎖骨へジグザグに舌を這わした。

 

「ぅん...んっ」

 

抵抗していた腕が俺の背中にまわされ、ガシっと抱きつかれる。

 

とろんとした目で、半開きにした口から甘い声を漏らすチャンミンを見て、俺は興奮する。

 

チャンミン、色気が駄々洩れなんだよ、全く。

 

俺の方も、首をもたげてきた。

 

鎖骨から下へつーっと舌を滑らせて、乳首を口に含んだ。

 

「ひゃん」

 

チャンミンの身体が小さく跳ねた。

 

右の乳首を吸い上げながら、左胸の筋肉の弾力を確かめるように揉みしだく。

 

くすんだ赤みの乳首を、丹念に舌で愛撫してやる。

 

俺の口内で固く尖ってくるそれを、尖らせた舌先で弄ぶと、チャンミンの身体は素直に反応する。

 

すげ...男の乳首も勃つんだ...。

 

「あー...あっ...」

 

ふぅっと息を吹きかけたり、舌全体で舐め上げたりすると、ビクビクとチャンミンの腹が波打つ。

 

いちいち反応してくれて...チャンミン...すまない......面白い。

 

「ひっ...んっ...!」

 

身体を反らしたチャンミンは、喉をむき出しにしている。

 

もしかして...乳首攻めが好きなのか...?

 

指先で転がし続けて焦らした末、きゅっと摘まんだら、身体を痙攣させてベッドが派手にきしんだ。

 

「やめて...やめ...やめて...!」

 

止めてと言われて、止める男はいない。

 

「チャンミン...」

 

「な...なに...?...あぁん」

 

「鍛えただろ?」

 

「......」

 

「俺のため?」

 

「......」

 

「俺にいい身体見せたくて、筋トレしちゃった?」

 

「......」

 

真っ赤になった顔を見られたくないのか、横を向いたチャンミンは無言のままだ。

 

「筋肉付けた『いい身体』を、俺に見てもらいたかったんだ?」

 

「悪いか...」

 

ぷぅっと頬を膨らませている。

 

可愛い奴だなぁ。

 

「チャンミン...いい身体だよ」

 

耳元で低い声で囁いたら、チャンミンの首筋に鳥肌が立つのが確認できた。

 

女にするみたいに両手の平で、ゆっくりと両胸を揉んでやる。

 

「あ...は...」

 

胸筋をすくい上げるようにして、その頂でピンと尖らせたものを口に含んだ。

 

軽く歯を当てる。

 

「ひゃぁっ...あん...あっ...ん」

 

のけぞったチャンミンから、悲鳴じみた声が発せられる。

 

ドンドンドンと、隣室から壁を叩く音がする。

 

「!!!」

 

学校は違うけど男子大学生が住んでたんだ、平日の昼間っから部屋にいるなんて、サボりかよ(俺たちも似たようなものか)。

 

「チャンミン!

うるさいってよ。

もう少し、声を抑えられないわけ?」

 

俺はチャンミンの喘ぎ声が好物だから、敢えて正反対なことを言った。

 

「え...だって...声...我慢できない」

 

俺が乳首の愛撫を再開したら、片手で口を覆うくらいじゃチャンミンの声は、やっぱり駄々洩れなんだ。

 

「ひゃっ...あっ...あぁ...」

 

右へ左へと頭を振って快感を逃がしているらしいチャンミン。

 

「しーっ。

声を抑えろって」

 

「...でもっ...出ちゃう...」

 

駄目だと思えば思うほど、余計に感じてしまうんだろ?

 

俺の尻にさっきから当たっているチャンミンのアレが、証明している。

 

「ユノのせい...んんーっ!」

 

チャンミンの口を俺の口で塞いだ。

 

「俺の口の中で喘げよ」なんて、ベタな台詞を吐いてしまう。

 

チャンミンに深く口づけながら、執拗に乳首をいたぶる。

 

もう片方の手を、後ろ手に伸ばしてチャンミンのブツを握ってしごき出したら

 

「あ...あ...ん...ユノ...待って...待って」

 

しごく俺の手をよけたチャンミンは、ベッドの下に落ちたバッグを引き上げる。

 

そして、手探りでバッグの中をかきまわした末、取り出されたものに、俺はフリーズした。

 

「これ...これを使って」

 

 

マジかよ。

 

無理、とか奥手ぶっておいて、ヤル気満々じゃねーかよ。

 

「やだな、ユノ。

初心なんだね」

 

「アホか!?

準備ナシでいきなりできるかよ!」

 

「うっそ。

今日は、そのつもりじゃなかったの?」

 

「ハードルの低いやつから順番に、って言っただろう?

いきなりは無理だって!」

 

「ユノは手順を踏むんだ、へぇ...」

 

「へぇぇ、じゃないって!

 

チャンミン、今、ぶち込まれたらどうよ?」

 

「え...!?

やっぱり、僕が挿れられる方なの?」

 

「やっぱり、ってことは、そっちの方向性でいいわけだ」

 

「無理無理無理無理!」

 

チャンミンは、マジな顔して首をぶんぶん振る。

 

「ユノが先!」

 

「いやいや、チャンミンが先、だ!」

 

「ヤだ!」

 

「お前裸だし、ちょうどいいじゃん」

 

チャンミンの両手首を締め上げて、もう一度馬乗りになる。

 

全身で抵抗するチャンミンを、腰を落として抑え込み、太ももで挟み込んだ。

 

「やめろー!」

 

「ほら!

ケツを出せって!」

 

「イヤだー!」

 

「こんなもの用意してきやがったのはお前の方だろ?」

 

「やっ」

 

「じっとしてろったら!」

 

手にしたものを開封しようとしたら...。

 

 

「やー!!!」

 

 

チャンミンの強烈な張り手が俺のみぞおちにヒットした。

 

「うぐっ!!!」

 

その勢いで俺はベッドの下にどすんと転げ落ちた。

 

「ううう...」

 

腹を抱えてうずくまる俺に、チャンミンは「ごめん」と恐々近づいてきた。

 

今日で一体、何度目だよ。

 

力有り余る男同士だから、押しも抵抗も力づくの取っ組み合いになるんだって。

 

「ジョークに決まってるだろ?

本気で嫌がるなよ」

 

俺は顔をしかめて腹をさする。

 

「ごめん...」

 

「チャンミンがそんな風だから、順を追ってやろうって提案したんだってば」

 

「ごめん...」

 

「あちーな」

 

俺はスウェット生地の服を着ているから、暑いったら。

 

素っ裸のチャンミンでさえ、浅黒い肌に汗が光っている。

 

俺の視線にチャンミンはハッとしたようだ。

 

「どうして僕だけ裸ん坊なんだよ!」

 

「ヤル気の差、じゃないの?

すごいねー、チャンミンは。

俺に全てを見てもらいたかったんだ」

 

「......」

 

チャンミンの目が三白眼になって、口が真一文字に引き結ばれている。

 

やべ。

 

からかい過ぎて怒らせたか?

 

「チャンミンの裸、いい感じだよ」

 

チャンミンに軽くキスをしてやった。

 

「ユノの裸...見せて」

 

「うーん..。

一緒に風呂に入るか?

お前、汗かき過ぎ!」

 

「次は涼しいところでヤろうって、言ったのに」

 

「エアコン付けようとするのを邪魔したのはチャンミンだろ?」

 

「ユノの部屋は汚いんだよ。

リモコンを無くしたユノが悪い」

 

「ブツブツ言ってないで、風呂に行こ行こ」

 

 

俺はチャンミンの腕を引っ張った。

 

(つづく)

 

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