ふりかえるといるよ(5)

 

ナナが浴室から出てくるまでの間、僕はカーテンを閉め、シーツを伸ばし、くずかごの中身を空けと、そわそわしていた。

なに緊張してるんだ。

 

こんな展開、慣れているはずだろ?

 

待ちきれなくて、シャワー中の女の子がいる浴室へ乱入する僕なのに。

 

だめだ、アルコールの力が必要だ。

 

落ち着かない気持ちを鎮めるため、買ってきたばかりのワインを開ける。

ふわっと温かい湿気とシャンプーの香りが漂ってきて、僕は振り向いた。

 

「チャンミン、お先」

 

「ナナ...」

 

浴室から出たナナを見て、僕はまた息が詰まる。

 

「服を着てきてどうするんだよ?」

 

「駄目だった?」

 

「駄目じゃないけど」

 

これまでナナは、僕んちでシャワーを浴びていくことも、泊まっていくことも何度もあったから、湯上りのナナを見るのは初めてではない。

意識し出すと、どうしてこうもナナが色っぽく見えるんだろう。

 

濡れた髪から、タイツを脱いだ素足まで、僕は上から下まで舐めるようにナナを見てしまった。

 

「バスタオルを巻いてくればいいの?

それとも、あんたのTシャツだけ着ればいいの?

それってやり過ぎじゃない?」

「いいよ、それで。

僕もシャワー浴びてくるから、待ってて」

 

狭いユニットバスで壁に手足をぶつけながら、手早く服を脱ぎ、勢いよく出したシャワーの下に立った。

 

床に転がり落ちた歯ブラシを拾い上げようと、身をかがめた時、洗面台の下に落ちているものに気付いた。

 

ナナの奴...。

 

余計な装飾のない、つるりと機能的な黒のブラジャーだった。

 

きっちりニットまで着込んでたくせに...小技を使うなよ。

 

僕も迷った末、着てきた服をそのまま身に着けて浴室を出た。

ナナはベッドにもたれて床に座っている。

 

僕も、ナナの横に、ナナにぎりぎり触れるか触れないかの距離に腰を下ろす。

「......」

参ったな...。

めちゃくちゃ緊張するじゃないか。

 

シム・チャンミン!

 

いつものペースを思い出せ。

 

僕はナナの耳の下からうなじへと手を差し込んで、ナナの顔をこちらに向かせた。

 

口紅を塗り直したナナの唇が赤く、僕を誘う。

 

「ホントにいいのか?」

 

コクリとナナが頷いたのを合図に、僕は頬を傾けてナナの唇にそっとキスした。

ヤバい...。

まだ、キスの段階で...。

ナナはじっとしている。

 

ナナも緊張しているんだろうか。

 

唇を合わせながら薄目を開けると、ナナの閉じたまぶたとまつ毛が間近で見えた。

 

僕の心臓はもう、爆発しそうだった。

ナナのニットを脱がせると、ベッドに横たえた。

 

怖がらせないように、ゆっくりと優しく。

「ん?」

抵抗もせず、僕にされるがままのナナ。

 

ナナの胸に手を這わせても、反応がない。

「ナナ?」

うっとりと半分閉じられた目は、うつろだ。

 

テーブルの下に空のボトルが転がっていた。

 

「ナナ、これ全部飲んだのか?」

コクリと頷くナナ。

 

いくら酒に強いナナでも、この量は多すぎだ。

「ナナ、やめようか?

酒の力を借りないとできないんだろ?」

 

そう言いながらも、僕の高ぶりは引き返せないくらいレベルに達していた。

 

「怖くないよ」

ナナの答えを聞く間もなく、僕はTシャツを脱いでベッドの向こうに投げ捨てた。

 

顔を向きを何度も変えながら、さっきより荒く口づけ、その唇を徐々に首筋から鎖骨へと滑らす。

首の付け根に強く吸い付いた。

ナナの反応はない。

ナナの口から、強いアルコールの香りが漂う。

 

横たわったナナの上に四つん這いにまたがった僕。

 

枕元についた僕の両手の間の、ナナの寝顔を見下ろしていた。

あごや頬に伸びた口紅の跡、意外に華奢な鎖骨や肩、僕が強く吸い付いてできた赤い痕から、僕は目をそらす。

「......」

僕は、ナナの上からひきはがすように降りた。

 

このまま進めてしまってもよかった。

 

でも、酔いつぶれた子とヤる趣味は、僕にはない。

 

もしナナが素面だったとしても、僕はできなかったと思う。

めくれあがったスカートの裾を直してやり、下ろしたファスナーを上げる。

 

エアコンの温度を上げ、眠るナナを毛布でくるんでやる。

ナナにお願いされたからヤるなんて、そんなの嫌だと思った。

 

僕はいいさ。

僕は好きなコとヤれるんだから。

 

ナナはどうなんだよ?

僕のことを信用できるからだって?

 

ナナの恋人は、僕じゃないだろう?

 

今みたいに簡単に、自分を差し出すなよ。

未経験なことでドン引きするSだったら、そんな奴やめてしまえ。

僕は毛布にくるまるナナに沿うように、隣に寝そべった。

 

夢をみているのか、かすかに震えるナナのまぶたに、僕は唇をそっと落とす。

ナナを守ってあげたかのような、妙な達成感に満たされていた。

何やってんだか、僕は...。

 


 

この夜、ナナを抱いてあげればよかった。

 

ナナと相思相愛になってからなんて、軽い男がこの期に及んで、綺麗ごとをならべたてるなんて。

 

僕ならうんと、うんと優しくナナを扱ったのに。

 

僕は、後悔している。

 

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