【3】甘い余韻ー僕を食べてくださいー

 

 

手のひらで湯面をなでる音だけが、狭い浴室に響く。

 

半日前の出来事は、夢みたいだったけれど、熱いお湯にしみる胸の先端が、あれは現実だったと教えてくれる。

 

透明なお湯の中で、赤く色づいたそこは自分のものなのに色っぽい。

 

腫れあがってひりひりする痛みすら、甘い余韻だ。

 

「あ」

 

疼きを覚えて股間に目をやると、ゆらめくお湯の中で僕のものが、軽く勃ちあがっていた。

 

あの時の余韻を思い出しただけで、これだもの。

 

強烈過ぎた。

 

我慢できずに、ゆるゆるとしごいていた。

 

彼女の手の感触を思い出そうとする。

 

僕のものを握った、ひんやりとした白い指を思い出す。

 

彼女は僕の背後から手を伸ばしていたから、姿は見えなかった。

 

巧みに指をうごめかせて、僕のものを前後させていたあの手を思い出す。

 

「はぁ...」

 

刺激が足りなくて、湯船から上がる。

 

大きく張り詰めたものを、ボディソープを広げた手の平で上下する。

 

滑りがよくなって、快感が増した。

 

「あ...」

 

あの時の刺激を再現しようとした。

 

目をつむって、思い出す。

 

身をよじって、はしたない声を漏らしていた僕を。

 

彼女の爪先が、僕の乳首にひっかけられて、きゅんと走った疼きを。

 

叩かれた尻の熱さを。

 

「可愛いよ」

 

「チャンミンは...いやらしい子」

 

耳元でささやかれた言葉。

 

ゾクゾクした。

 

往復するごとに、大きく硬く育ってきた。

 

「は...あ...」

 

ワンピースに覆われていた身体を想像する。

 

ワンピースを脱がせてあらわになった、彼女の裸を想像した。

 

僕の動きに合わせて揺れる胸と、つんと尖って固くなったその先端を僕は口に含む。

 

僕を舌なめずりするかのように見ていた目が、快楽に酔ってとろんとしたものに変化して。

 

彼女の両足を大きく割った箇所に、僕のものを深くうずめる...。

 

「んっ...」

 

往復する僕の手の加速が増した。

 

「ふっ!」

 

目をつむって天井を仰ぐ。

 

無音の浴室では、僕の股間からたてる、くちゅくちゅいう音だけが響いている。

 

しごく手の速度が、もっと増す。

 

「あっ...あぁっ...!」

 

絶頂の末、精液を吐き出した。

 

「はぁはぁ」

 

肩を揺らして、息を整えた後、シャワーで泡やら白濁した粘液やら洗い流していると、

 

突然、脱衣所から声をかけられた。

 

「チャンミン、着替えを置いとくよ」

 

一気に現実に引き戻された。

 

「あ、ありがとう」

 

「はあ」

 

前髪から汗混じりの水が、ぽたぽた落ちていた。

 

駄目だ。

 

まだまだ、足りない。

 

全然、足りない。

 

 


 

 

突然帰省してきた僕に、ばあちゃんは目を丸くした後、くしゃくしゃにした笑顔で僕を家に招き入れてくれた。

 

ばあちゃんの家は、すぐ側まで木々が迫る山すそにある。

 

褪せたトタン屋根と、ペンキの剥げた羽目板壁の古い建物だ。

 

ばあちゃんの家でもあるし、僕の家でもあるこの古い家が、子供の頃恥ずかしかった。

 

僕は、18歳でこの家を出るまでばあちゃんと2人暮らしだった。

 

僕が小学生だった時、両親を交通事故で亡くして以来、ばあちゃんが僕を育ててくれた。

 

ばあちゃんが唯一の家族だ。

 

「チャンミン、口をどうした?」

 

「あ...」

 

僕の唇を指さすばあちゃんの心配そうな表情を見て、ちょっとした罪悪感に襲われた。

 

「ぶつけたんだ。

大丈夫だよ」

 

まさか、女の人に噛まれたなんて言えないよ。

 

キキに噛まれた唇は、血は止まっているけれど、喋るたびピリッと痛みが走る。

 

 

 


 

 

「ごめんなさいね」

 

そう言って、帰り際、キキが唇に軟膏を塗ってくれたんだっけ。

 

僕の唇に触れる、彼女の薬指が色っぽくて、ごくりと喉を鳴らしてしまった。

 

湿ったままの洋服を身に着ける間、キキはマットレスに腰かけ、じーっと僕を観察していた。

 

テーブル代わりのケーブルドラムの上に置いた、紙カップのストローを時おりくわえていた。

 

ごくごくと動く白い喉に目を離せなくて、僕の方もちらちらと彼女のことを観察していた。

 

いくつ位だろうか。

 

僕と同じくらいか、ちょっと上か。

 

身体が泳ぐくらいだぼっとしたワンピースを着ているけれど、裾から伸びる手首や足首の感じから、きゅっと引き締まった身体をしているに違いない。

 

僕に触れさせなかった身体。

 

僕と視線がぶつかると、キキはあでやかな笑顔を見せた。

 

「そんなに見つめられると溶けちゃうよ」

 

つい30分前まで、このマットレスの上で行われていたことが、夢みたいだった。

 

それくらい、彼女の表情は穏やかだった。

 

あの時の、獰猛なぎらついた目が信じられない。

 

今の瞳の色は、青みがかった墨色。

 

最中の時、もっと明るい青色だったような...気のせいだったか?

 

彼女を見て、異常なまでの性欲に襲われて押し倒そうとして、

 

僕ひとりが裸で、大の字になって、四つん這いにされて、

 

僕ひとりが、嬌声をあげて、彼女に導かれるまま射精した。

 

あられもない姿を晒した。

 

めちゃくちゃ興奮した。

 

とにかく気持ちよかった。

 

「気をつけて帰りなさいね」

 

シャッター前まで見送りに出たキキは優しくそう言って、何度もふり返る僕に手を振ってくれた。

 

 

 

雨は上がっていた。

 

時刻はまだ夕方前だったから、廃工場にいたのはわずか3時間ほどか。

 

ばあちゃんの家への続く、下草はびこる小道を湿ったスニーカーで歩きながら、思いを巡らす。

 

廃工場の外に出て、そこが近所の見知った建物であったことを知った。

 

何年も前に廃業した鉄工所で、山道から繋がる砂利道が生い茂る雑草で覆われている。

 

彼女はここに住んでいるのか?

 

まさか。

 

電気も通っていないはず。

 

野宿するよりも、雨露しのげるここを一晩の宿代わりに?

 

わざわざここに?

 

クエスチョンが、次々と湧いてくる。

 

今になって、常識的な思考が戻ってきた。

 

キキって一体、何者なんだ?

 

彼女が言っていたように、

 

「美味しそう」だったから拉致して、

 

僕を弄ぶという形で「食べた」のか?

 

じゃあ、「育てる」って?

 

僕の中に潜むマゾっ気を育てるってことかな。

 

まさか!

 

なんだか、頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。

 

ひとつだけはっきり言えるのは、

 

このことを、僕が望んでいるってことだ。

 

もう一度、味わいたい。

 

キキに触られ、舐められて、僕は恍惚の世界を縁から覗きこんだ。

 

身を乗り出して、その世界に飛び込んで、底まで沈みたい。

 

そんな考えを悶々と巡らしているうちに、ばあちゃんちの前にたどり着いていた。

 

 


 

 

「急だったから、何もご馳走を用意してやれなくてごめんな」

 

「ばあちゃんが作ったカレーは好物だよ」

 

ばあちゃんの作ったカレーは、大きめに切った野菜がごろごろ入っていて、肉の代わりにツナ缶を入れた素朴な味だ。

 

大食いの僕のために、大きな鍋いっぱいにカレーを作ってくれた。

 

「明日、ビールでも買ってこようかね?」

 

「いいよ、わざわざ」

 

ばあちゃんも年をとった。

 

前回帰省した時から3か月も経っていないのに、また小さく縮んだように見える。

 

「明日、僕が買いに行ってくるよ.

車を貸して」

 

ばあちゃんが買い物に使う軽自動車のことだ。

 

この辺りは、車がないと生活が出来ない。

 

「ありがとね」

 

「あと4日間はいるからさ、僕にできることはやるよ。

何か、力作業はある?」

 

「そうだねぇ、

車庫の中を片付けているんだよ。

雨漏りがしてね、屋根が。

車庫ん中に置いてたものが濡れるから、家ん中に移してる途中なんだよ」

 

「わかった。

僕に任せてよ」

 

「そうだ。

Sさんから猪肉をもらったんだよ。

冷凍庫にあるから、明日の夜、鍋にしようか?」

 

「猪肉?

この季節に、鍋?」

 

「猟師の有志で、処理場を建てたんだとさ。

最近は、ジビなんとかが流行りだそうだよ」

 

「ジビエ?」

 

「そうそう、ジビエ料理。

観光客を呼ぼうと、町も必死なんだよ」

 

「そうなんだ」

 

ばあちゃんと会話を交わしながら、僕の頭の中はセックスのことでいっぱいだった。

 

僕くらいの年の男なんて、こんなものなんだろうけど、今夜は度が過ぎている。

 

 

やばい。

 

スウェットパンツを、僕のものがくっきりと押し上げてきた。

 

ばあちゃんに気付かれないよう、背を向けて席を立ち食器を片付けると、まっすぐ自室へ向かった。

 

自慰では、足りない。

 

全然足りなかった。

 

 


 

 

翌朝、そそくさと朝食を終えると、僕はあの廃工場へ向かっていた。

 

雨の山道で、突き倒された時の僕はまさしく獲物で、

 

廃工場で、指だけでイかされた僕も、やっぱり彼女の獲物だった。

 

恐怖におののくどころか、滅茶苦茶にされたいと望んでいた。

 

僕は、喜んで彼女に身体を差し出すよ。

 

貪られたかった

 

快楽に狂いかけていた。

 

 

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