【4】見られながらー僕を食べてくださいー

 

 

僕は車を停めると、廃工場に向かって大股に歩く。

 

自宅から徒歩で20分、車だと5分もかからなかった。

 

繁殖力旺盛なつる草が、割れた窓ガラスから工場内に侵入している。

 

1メートルほど開いたシャッターの下を、僕はひざをついてくぐって入った。

 

(自分はどうかしてる。

もの欲し気に、訪れたりして)

 

「キキ!」

 

(でも、自分を抑えられないんだ)

 

僕の声だけが、広い空間に響く。

 

床はコンクリート張りで、鉄骨に吹き付けた際に漏れた塗料が赤く染めている。

 

「キキ!」

 

もう一度大声で叫ぶと、

 

「こっちだよ!」

 

声がした工場の裏手に回る。

 

「おはよう」

 

サングラスをかけたキキが、僕に向かって手を上げた。

 

この日のキキは、長い黒髪をうなじでひとつでまとめ、ひざ丈の赤いワンピースを着ていた。

 

血の気のない肌がワンピースの色のおかげで、心なしか血色があるように見えた。

 

洗濯ロープに、真っ白なシーツがはためいていた。

 

「昨日、チャンミンが汚しちゃったでしょ?」

 

「ごめん」

 

恥ずかしくなってうつむいた。

 

工場の裏手は谷になっていて、下には谷川が涼し気な水音をたてている。

 

風に飛ばされないよう、シーツを洗濯ピンチで止め終えたミミが、僕のそばにゆっくりとした足取りで近づく。

 

「私に会いたかったの?」

 

キキは僕の真ん前に立つと、見上げた。

 

サングラスが瞳の色と、目の下の隈を隠していた。

 

僕は頷いた。

 

キキを前にすると、僕はとたんに無口になってしまう。

 

事実、昨日も喘ぐ声しか漏らしていなかった。

 

僕ののどがごくりと鳴る。

 

これから何が始まるのか期待が膨らんだ。

 

それも、エロティックな期待に。

 

キキは、僕の全身を上から下へと眺めまわすと、腕をすっと持ち上げた。

 

僕の視線は、キキの指先に釘付けだった。

 

キキの指先が、僕の手の甲から二の腕に向かって撫で上げる。

 

腕の産毛だけをかするような、羽のようなタッチで、それだけで僕はぞわっと鳥肌がたち、ため息が出てしまった。

 

僕の胸が大きく上下した。

 

「ここじゃなんだから、中に入りましょうか?」

 

キキは僕の腕から手を離すと、親指を立てて工場裏手のドアの方を指した。

 

「......」

 

明るい外から室内に入ったため視界は暗く、僕は戸口に立って目が慣れるのを待つ。

 

キキは歩調をゆるめることなく、あちこちに放置された鉄骨の間をすり抜けて行った。

 

サングラスを外したキキは、遅れて近づいた僕に対面した。

 

(やっぱり...)

 

気が動転し、欲情に支配されていた昨日は、後回しにしていた疑問。

 

(キキとどこかで会ったことがある)

 

キキに襲われた時、僕の胸をかすめた考えが確信に変わる。

 

(どこで会ったんだろう...?

そんなことより、今は...)

 

これから何が始まるかは、分かりきっている。

 

僕の胸に、欲の炎がともる。

 

身をかがめキキの片頬に手を添えると、唇を重ねた。

 

今日は拒まれなかったことに安心しながら、彼女の唇の柔らかさを楽しんだ。

 

触れた時はひやりとしていた彼女の唇は、何度も顔の向きを変えてキスをしているうちに、温かくなってきた。

 

半分閉じられた彼女の長いまつ毛や、短い前髪の下の形のいい眉毛が間近に迫っている。

 

(美しい人だ)

 

うっすら開けたキキの唇の隙間から、僕は舌を侵入させた。

 

キキの舌を追いかけながら、これも拒まれなかったことに安堵していた。

 

口腔を舌先でくすぐられるたび、僕の下腹に熱い疼きが走る。

 

ねっとりと舌をからめ合い、味わい尽くす。

 

キキとのキスは甘い味がした。

 

キキは僕の首に、腕をまわす。

 

興奮で火照った首筋に、キキの冷たい腕が心地よかった。

 

ふっとあの甘い香りが漂ってきた。

 

その香りを胸いっぱいに吸い込んだ僕の頭に、陶酔の壺に後ろ向きでダイブするイメージが浮かんだ。

 

いつしかキスは激しくなり、僕の全身はますます熱く火照ってきた。

 

キキは耳元に唇をよせ、ささやいた。

 

「こんなに勃たせちゃって」

 

(あ...)

 

僕の股間は、デニムパンツの中で圧迫されてはちきれそうだった。

 

痛いくらい窮屈だった。

 

僕らはキスを再開する。

 

(たまらない)

 

僕らはもつれるように、隅に敷かれた真っ白なマットレスに倒れこんだ。

 

マットレスの上を壁際まで下がった僕に、キキがのしかかる。

 

ねっとりとしたキスと同時進行に、ワンピースの上からキキの胸に手を這わせた。

 

これも拒まれなかった。

 

小ぶりの乳房を、手の平でもんでその柔らかさを楽しむ。

 

ところが、ワンピースの下に手を差し込もうとした時、手首をつかまれ耳の高さに押さえつけられた。

 

男の腕でも、抗えないほどの鋼鉄のような力。

 

もう片方の手も、同じように押さえつけられた。

 

キキは手首から手を離すと、僕のベルトを外し、パンツのファスナーを下げた。

 

キキの拘束から解かれても、僕の両手は万歳のポーズのままだ。

 

パンツを脱がされる。

 

そしてキキは、下着の上から僕の膨張した部分に手を当てた。

 

腰が、かすかにぴくりとする。

 

「今日もこんなに濡らしちゃって」

 

下着の一点が、ジュクジュクに濡れているのが分かる。

 

キキは満足そうに口角を上げると、僕の最後の場所を覆っていた下着を、一気に引き下ろした。

 

のどが鳴る。

 

僕は、上はTシャツを着たまま、下半身はむき出しの裸にされた。

 

こんな恥ずかしい恰好も、僕の興奮を煽った。

 

そして、これからはじまるであろうことを思うと、それだけで猛々しくなってしまう。

 

「脚を広げて」

 

「え?」

 

壁にもたれた状態の僕の両膝を、キキは軽く押す。

 

素直に従い、僕の両腿は大きく開かれた。

 

欲の色が浮かんだキキの瞳は群青色に輝いて、そこから目がそらせなかった。

 

行き止まりまで追いつめられ、あとは襲われるのを覚悟して待つ被捕食者のように。

 

「どこを触ってほしい?」

 

「え...?」

 

「触って欲しいところを教えて」

 

(そんなこと...恥ずかしくて言えないよ)

 

僕は目を反らす。

 

大股を広げた僕の前に、キキは横座りした。

 

陶器のようななめらかな白い頬をゆがませて微笑する。

 

「言えないの?」

 

横座りをしたキキは、僕の睾丸を手のひらにのせると、やさしくもみほぐした。

 

「は...あぁ...」

 

深い吐息を漏らす。

 

やわやわと壊れやすいものを扱うように、その動きは優しい。

 

キキの手が、僕の陰毛を逆立てるように指ですく。

 

キキは身を伏せると、僕のふくらはぎに唇をつけた。

 

そして、膝裏からつつーっと舌を這わせ、脚の付け根に到達すると、内ももに戻る。

 

その道筋から、さざ波のような震えが広がった。

 

膝裏から内ももをたどり、脚の付け根まで舌を這わせると、ふくらはぎに戻る。

 

キキの舌がふくらはぎから膝裏、内もも、脚の付け根に到達すると、再びふくらはぎに戻った。

 

「もっと...」

 

焦らすような動きに、耐えられなくなった僕は口走ってしまった。

 

「もっと...上」

 

「ここ?」

 

「そう、そこを」

 

キキは、そそり立った僕のものに人差し指を当てると、揺らした。

 

指を離した弾みで、バネのように下腹を叩く。

 

「触って」

 

「ふふふ」

 

「あっ...駄目っ」

 

シャワーを浴びていないことに気付いて、自分の股間に顔を近づけたキキを押しとどめた。

 

「汚いから...」

 

「可愛いね」

 

くすっと笑うとキキは僕の先端に、チュッと音をたてて軽いキスをした。

 

「うっ」

 

快感がはじける。

 

昨日から僕が求めていた行為が始まった。

 

キキはゆっくりと、根本から上に向かってゆっくり舌を動かしていった。

 

「は...あっ...」

 

全身が粟立つ。

 

次は、僕の硬さを楽しむようについばむように、唇を動かした。

 

キキはまだ、咥えない。

 

僕の先からは、とめどなく先走りが流れ出る。

 

根元から這ったキキの舌が、先端に戻った。

 

「うっ...」

 

尿道口をちろちろと、舌先で遊ぶ。

 

「あっ...はぁ...」

 

僕の淫らな声が、しんとした工場内に響く。

 

キキの舌先が離れた瞬間、唇から糸がひいて、僕の興奮は増していった。

 

「可愛い...チャンミン、可愛いよ」

 

先走りとキキの唾液で、僕のものはてらてらと光っている。

 

「いやらしい...濡れ過ぎよ」

 

その言葉に煽られて、全身の血流が沸騰しそうだった。

 

(たまらない。

 

僕は...はしたない男だ)

 

ふとキキは顔を上げると、身を起こした。

 

首をそらして喉をみせていた僕は、顔を戻す。

 

途中で止められて、お預けをくった僕は、恨めしそうな表情をしているに違いない。

 

「ここからは、自分でやって」

 

「え...?」

 

「続きはチャンミンがやるの」

 

キキは僕の手をとって、握るよう促した。

 

「私に見せて」

 

(なんて恥ずかしいことを...)

 

 

「オナニーしているところを、私に見せて」

 

(!)

 

キキに射すくめられた僕は、拒めない。

 

おずおずと、熱く硬く脈打つものを握る。

 

僕の先走りとキキの唾液が合わさって、とろとろと滑りが良かった。

 

普段、自分でそうするように上下にしごく。

 

キキは僕の脇ににじり寄ると、耳の穴に舌先を差し込んだ。

 

「あ...」

 

温かい舌の感触と、柔らかく吹き付けられた息に、背筋まで震えが走った。

 

キキは僕の耳たぶを甘噛みした。

 

一瞬噛まれるか、と覚悟したが、今日は違った。

 

ピストン運動の速度が増す。

 

キキは僕の唇を塞いだ。

 

ぴったりと唇が合わさって、僕は息継ぎが出来ず次第に苦しくなってきた。

 

首を振って逃れようとしたが、キキは許さない。

 

目もくらむほどの快感に支配されていた僕は、キキの口の中へ喘ぎ声を注ぐ。

 

(苦しい。

でも、気持ちが良すぎて、狂いそうだ)

 

「うっ...」

 

(快感を生んでいるのは、自分自身の手だということ。

 

自慰の姿が、キキの視線にさらされていること。

 

熱っぽくかすれた、自分自身の甘い喘ぎ声。

 

下半身だけをさらした羞恥の姿。

 

この状況が興奮を呼んで、たまらない)

 

キキは僕のつんと勃った乳首を吸った。

 

「あぅっ」

 

「真っ赤になってる。

昨日はいじめ過ぎて、ごめんなさいね」

 

腫れた左乳首の先を、愛おしそうに舌全体で舐め上げた。

 

亀頭が膨らみ固くなってきた。

 

射精の時は近い。

 

僕はたまらず、キキの手を取ると、自分のものを握らせた。

 

キキの手を覆って、一緒にしごく。

 

「チャンミン...いやらしい子」

 

僕はキキの後頭部を勢いよく引き寄せて、唇を奪う。

 

呼吸もままならなく苦しくなると分かっているのに、自分をもっと極限まで追い込みたい欲求に突き動かされていた。

 

(息が出来ない。

苦しい。

なんて気持ちがいいんだ)

 

頭が真っ白になる。

 

僕の目はうつろで、どこにも視点を結んでいない。

 

「まだイかないで」

 

「無理っ」

 

目をつむって頭を反らす。

 

呼吸が荒くなる。

 

「我慢して」

 

「む...りだ...!」

 

歯をくいしばる。

 

「あっ...」

 

快楽から気をそらせようとしたが、限界だ。

 

「い...くっ...」

 

下腹がびくびくと痙攣した。

 

握ったキキの指の間から、精液が勢いよく飛び出る。

 

「っく!」

 

キキの上腕に、白濁した粘りが跳ね跳んだ。

 

 

僕はまた、キキの手で達してしまったのだった。

 

 

 

下半身だけ露わにして、大股を広げて、胸を大きく上下させて呼吸が荒い。

 

キキは、僕のまぶたにキスをし、汗で張り付いた僕の髪をかき上げると額にキスをした。

 

僕はキキの胸にもたれ、彼女に髪を撫でられるままでいた。

 

虚脱感いちじるしいのに、僕の心は幸福感に包まれていた。

 

 

(美しいこの人にすべてを見られ、

欲望を吐き出し、

受け止められ、

僕は、幸せだ)

 

息が整いつつある僕は、キキの腕の中で問う。

 

「キキ...君は、誰だ?」

 

順序が逆になっていた。

 

キキにすべてを見せる前に知るべきだったこと。

 

キキは、腕の中の僕を覗き込む。

 

「知る必要がある?」

 

その目は墨色で、平坦で固い声だった。

 

 

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