【9】縛られるー僕を食べてくださいー

 

 

「痛いか?」

 

キキは僕の腕に触れて言った。

 

割れた窓ガラスから見える外は真っ暗で、月明かりがほのかに場内に差し込んでいる。

 

マットレスに仰向けになって、一糸まとわぬ僕らは寝ころんでいた。

 

「少しだけ...痛いかな。

でも、平気だよ」

 

実際はズキズキと痛かった。

 

裂けた箇所を、医療用テープで止めてあるだけだから、もしかしたら傷口が開いているかもしれない。

 

マットレスの下に転がり落ちた懐中電灯を、手探りで拾い上げてスイッチを入れた。

 

何枚かのテープが剥がれてしまった箇所から出血し、それが二の腕から脇までこすれた痕を作っていた。

 

隣のキキの身体に灯りを向けると、彼女の腕にも、乳房にも、内ももにも真っ赤な血筋が付いていた。

 

今さっきのセックスで重ねた身体同士で、塗り広げてしまったみたいだ。

 

白く柔らかく滑らかなキキの肌が、僕の流した血液で汚された光景を、官能的だと感じた僕は異常だろうか。

 

「ごめん...汚してしまった」

 

白いシーツにも、赤い痕がところどころにある。

 

「どうってことない。

シーツを洗えばいい」

 

半身を起こした僕は、横たわるキキに問いかける。

 

「ねぇ。

君は不思議な身体をしているね」

 

「どこが?」

 

「肌はこんなに冷たいのに...」

 

キキの下腹に手の平を載せ、そうっと撫で上げた。

 

キキの乳房を手の平のくぼみに収めて、手のひらに当たる乳首を転がすように柔く揉んだ。

 

キキの肌はやっぱり冷たくて、僕は自分の手の平がいかに熱くなっているかがよく分かる。

 

「死体みたいに?」

 

「僕は死体とヤッてることになるんだ」

 

つんと勃った乳首を突いたら、キキがくすぐったそうにして、僕は少し嬉しかった。

 

「もし、死体とセックスしているんだとしたら、

チャンミンはどうする?」

 

「どうするも何も、キキの中は温かいし」

 

僕はキキの唇の中に、人差し指を押し入れた。

 

「温かいから、キキは死体じゃない」

 

キキの舌が僕の指に絡みついた。

 

キキの口内の粘膜を、ぐるりとなぞった。

 

その指をキキの舌が追って、軽く指の付け根が甘噛みされた。

 

それから、指の股をくすぐられ、口をすぼめて僕の指を舐め上げたり、出し入れしたりした。

 

「はぁ...」

 

かと思うと、ちゅるっと指先だけが吸われて、ちろちろとくすぐられた。

 

(指一本で、こんなに感じてしまうなんて...)

 

まるで自身のものを、口で奉仕されているんだと錯覚してしまう。

 

僕の下腹部が重ったるく痺れてきた。

 

僕のものが、首をもたげて勃ちあがってきているのが分かった。

 

キキの両頬をとらえようとしたら、手首をつかまれた。

 

(あいかわらず、なんて力だ...)

 

僕は、これ以上逆らわず両手をマットレスの上に落とした。

 

「待ってて」

 

キキは立ち上がると、何かを持って戻ってきた。

 

僕の両手首をぐっとつかむと、万歳の恰好で頭の上に持ち上げられた。

 

「!」

 

キキが僕の手首に何か硬いものを巻き付けている。

 

カチャカチャという音と手首に冷たい金属が触れて、僕のベルトだと分かった。

 

「キキ!

何をするんだ!」

 

「さっき後ろから襲ったお仕置きよ」

 

そう言うと、僕にぴったりと寄り添うように横たわった。

 

巻き付けられたベルトを外そうとしたが、びくともしない。

 

「もがくと手首を怪我するよ」

 

そう言うとキキは、僕の手首の内側にキスをした。

 

手首から二の腕の怪我をした箇所に向かって、ついばむようにキスをしていった。

 

「はぁ...」

 

そして、傷口には決して触れないよう、ぺろぺろと周囲を舐めた。

 

「ふっ...」

 

ズキズキ痛む傷と、その周囲のくすぐったい感触の対比に、腹の底からぞわっとした痺れが生まれた。

 

二の腕の内側に軽く歯があてられるだけで、ふっと全身の力が抜ける。

 

脇の下からどっと汗が噴き出した。

 

キキの唇が、二の腕の内側を通って僕の脇に到達した。

 

ペロリと僕の脇が舐められた。

 

身体が跳ねる。

 

「やっ...!

汚いから...駄目...だって」

 

両腕を下ろそうとしたら、すかさずキキに押さえつけられた。

 

ふふっとキキは笑うと、舌でとんとんと叩いたり、行ったり来たりさせる。

 

くすぐったいけれど、下腹がじんと痺れる。

 

「はぁ...ぁん...」

 

かすれた喘ぎが漏れる。

 

そんな僕の反応を、キキは面白がっているようだった。

 

「チャンミンは感じやすいね」

 

喘ぐたび、キキは僕の唇に軽いキスをする。

 

(脇をいじられるのが、こんなに気持ちがいいなんて...)

 

「チャンミンの匂いがする」

 

「あ!」

 

キキは僕の脇に鼻を押し付けて、思いっきり吸い込んだ。

 

「駄目...!

臭いから...やめ...て!」

 

一日の終わりで、たっぷりと汗をかいた後で、さぞかし匂うだろうと、恥ずかしくてたまらない。

 

キキがふうっと息を吹きかけると、僕の体毛が震える。

 

「ふ...ん」

 

僕はぎゅっと目をつむる。

 

股間に血流が集まっているのが分かった。

 

今夜は2度も達したのに、僕の精は尽きていないみたいだ。

 

いやらしい。

 

僕は性欲に支配された男だ。

 

両腕を緊縛されていたため、快感によじる動きを制限されてしまっていた。

 

こんな状況が、かえって興奮した。

 

縛られて、身動きできなくて、キキにいじられるがままで、熱い吐息を漏らすだけで。

 

自由になる両膝を立てて、寄せた両腿をこすり合わせることで、快感を逃す。

 

両脚をよじるたび、膨張した僕のものが弾んで揺れる。

 

キキの視線が、僕の股間に注がれているのが分かる。

 

見られていると意識したら、ますます怒張していく。

 

キキの人差し指が、僕の唇をなぞる。

 

「口を開けて」

 

彼女の細い指が、口内に侵入する。

 

彼女の指に舌を絡め、指全体を舐め上げる。

 

「そんなんじゃ駄目。

もっといやらしく舐めて」

 

僕が知っている精いっぱいの方法で、彼女の指を舌で愛撫する。

 

「下手くそ。

チャンミンは、まだまだね」

 

僕の額にキスすると、キキはくすくすと笑った。

 

キキは僕の腰の上にまたがって膝立ちした。

 

マットレスに転がした懐中電灯の灯りが、キキの身体をぼんやりと照らしている。

 

キキの肩からウエスト、腰をつなぐカーブを描いたシルエットが、綺麗だった。

 

乳房のふくらみの下、へその周りになだらかな影を作っている。

 

視線を下に辿ると、キキの両太ももの付け根に濃い影があって、ぐんと鼓動が早くなった。

 

僕は今、裸の女性と対面している。

 

美しい、裸の女性が、僕の上にまたがっている。

 

性急過ぎた2回のセックスの際は、じっくりとキキの身体を視的に愛でることができなかったから、感動した。

 

キキに触れたい。

 

でも、僕の腕は自由を奪われている。

 

キキが、僕の乳首を2本の指でぎゅっとつまんだ。

 

「は...ん」

 

ぴくりと僕の腰が浮き上がった。

 

「そうだったね。

チャンミンは、乳首が弱いんだったね」

 

親指で押しつぶされた。

 

「んっ...」

 

両手を強く握る。

 

僕の唇から、たらたらと唾液が流れる。

 

「縛られて、興奮してるね」

 

キキは、僕の首筋に軽く吸い付いた。

 

ぞわっと下半身に向かって鳥肌がたつ。

 

ついばむように、僕の耳の下に、鎖骨の上にと軽いキスを降らした。

 

膝を立てて腰を持ち上げることで、僕の上に膝立ちしたキキの尻に、僕のものをこすり付けた。

 

腰をゆらすと、ちょうど僕のものの先がキキのやわらかい尻に当たる。

 

「いやらしいね、

チャンミンはいやらしい子だ」

 

キキは後ろ手に、ぴくぴくと小さく震える僕のものを握った。

 

「ふっ...」

 

キキの親指が、亀頭の上をくるくると円を描く。

 

ぬるぬるとしているから、さぞかし先走りがあふれているのだろう。

 

今すぐ自分の腰をキキの中に打ちつけたい衝動に襲われていた。

 

腰を浮かせようとすると、キキの両腿で制される。

 

僕の内面に暴れる肉欲が高まり過ぎて、耐えられない。

 

拳の中で、爪が手の平に食い込む。

 

じれったくて、焦らされて、苦しい。

 

「...がい...」

 

「なあに?」

 

「お願い...だ」

 

「何が?」

 

「お願いだから...」

 

キキが僕の頬を優しく撫でた。

 

乏しい灯りの元、キキの1対の眼がぎらっと光った。

 

見入られて、快楽と焦燥の間で僕の眼は潤んでいるだろう。

 

「挿れたい...」

 

「何を?」

 

「僕の...ものを...」

 

「僕のものって...なあに?」

 

分かっているくせに、キキは分からないふりをしている。

 

「僕の...これ...を」

 

(そんなこと...恥ずかし過ぎて言えないよ)

 

でも、ここではっきりと言わないと、キキは僕のお願いをきいてくれないに決まっている。

 

「恥ずかしいのね...可哀そうに」

 

呆れたような表情をしたキキは、僕の口元に耳を寄せた。

 

「何を、挿れたいの?

教えてチャンミン」

 

...もう駄目だ...。

 

キキが欲しい。

 

僕はキキに逆らえない。

 

 

キキの小さな耳にむかって、囁いた。

 

 

 

「わかったよ。

いい子ね、チャンミン」

 

キキは僕の髪を優しく撫でる。

 

僕の目尻から、涙がつーっと流れ落ちたのが分かった。

 

 

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