(13)僕を食べてください★

 

上では互いの舌を出入りさせ、下では僕のものが出入りする音をたてている。

 

キキと繋がっている感動と、昼間の屋外で行為に至っているふしだら感が合わさって、僕は興奮の真っ只中だった。

 

それでも、昨日のように無我夢中になり過ぎないよう、快感を逃しながら腰を振る。

 

「んっ...んっ...」

 

加減してはいても、ひと振りごとに声が漏れ出てしまう。

 

僕の背に回されたキキの手が、僕のTシャツを握りしめる。

 

爪先立ちのキキの片脚に気づいて、彼女の腰ごと抱え上げた。

 

彼女は軽い。

 

キキは全体重をを僕に預けて、僕の首の後ろで両手を組んでしがみついている。

 

僕の腰の律動に合わせて、キキの身体がガクガクと揺さぶられる。

 

小柄なキキの身体を、僕みたいな大柄な男がこんなにも揺さぶって、中を貫いてしまっていいんだろうか。

 

遮二無二に肉欲をぶつける自分の、濫(みだ)りがましさを軽蔑する。

 

日常の僕は、常識的で大人しくて、できるだけ道徳的な人物であろうとしていた。

 

とりわけ女性には礼儀正しく、優しくあろうとしてきた。

 

冷静沈着さを装うごとに、醒めた表情を取り繕うごとにむくむくと、密かに育ててきたものや、

 

心の奥の襞と襞の間に、ひた隠してしてきた濫りがましさを、今ここで吐き出せる自分に悦んでいた。

 

真昼間に、屋外で、ガードレールから身を乗り出して見下ろせば見られてしまうかもしれない状況にも興奮した。

 

僕はキキに耽溺していた。

 

絶頂の際に口をついて出てしまった「好きだ」の言葉。

 

その返答は得られず、逆に諌められた。

 

にもかかわらず、僕の色欲を煽って、浅ましい僕のものの侵入を許す。

 

混乱する。

 

宙ぶらりんとなった僕の気持ちの始末に困っていた。

 

ぽっかりと空いた心の隙間を埋めたかった。

 

言葉で通じないのなら、僕の身体をもって恋情を伝えるしかない。

 

 

前戯のイロハを知らない僕だった。

 

やみくもに突き立てることしかできない、自分の青臭さと不器用さにつくづく呆れる。

 

僕の中に渦巻く不安と焦燥、そしてキキへの恋情をぶつける方法が、今はこれだけしか思いつかない。

 

 

僕の喉から、くぐもったうめき声が漏れる。

 

キキのバレエシューズの片方が脱げ、僕の足元の川砂に落ちた。

 

「んっ、んっ、んっ」

 

のけぞったキキの白い喉に、僕は吸い付いた。

 

その肌のきめ細かさと、静脈が透けて見える薄い皮膚を間近にすると、赤い痣でいっぱいにしたくなる。

 

キキの喘ぎ声を聴きたくなった。

 

抱えていたキキの身体を下すと、擁壁に押し付けた。

 

「好きだ」

 

 

キキの両脚を、僕の腰に巻きつかせた。

 

ワンピースの下から手を差し込むと、キキの乳房を荒々しく揉みしだいた。

 

3日前、キキにされたように彼女の乳首を執拗に攻める。

 

もう片方の手で、ショーツを履いたままのキキの柔らかい尻を撫でまわしたり、爪をたてたりした。

 

抜けるギリギリまで腰を引いたのち、ずんと一番奥まで刺し貫いた。

 

「ふ...っ」

 

背筋に強すぎる快感の電流が走る。

 

がくんとキキの身体から力が抜け、そむけたその顔が堪えるように歪んでいるのを目にして、僕の雄が刺激された。

 

キキの感じている表情を見るのは初めてで、勇気づけられ、肉欲が煽られた。

 

前後に動かすだけでなく、円を描くように回転させて、キキの膣内をかき回した。

 

 

ここは屋外で、川石がゴロゴロ転がるところで横たわることもできない。

 

限られた体位でしか繋がることができない点がもどかしくて、かえって興奮材料となった。

 

「あ...」

 

キキの喘ぎを聴いた気がして、僕は同じ動きを繰り返してみた。

 

「好きだよ」

 

目の前が真っ白になって、つむったまぶたの裏で星がチカチカする。

 

奥深く突き刺したまま、キキの腰だけ小刻みに揺らした。

 

僕の肩に頭をもたせかけたキキの頭もがくがくと揺れ、キキの熱い吐息が僕の首筋にかかる。

 

キキの吐息が、僕のひと突きごとに不規則に乱れる。

 

「好きだ」

 

感じるキキを見たくて、キキのサングラスを取り上げた。

 

眩しいのかキキは、固く目をつむって顔をそむけた。

 

こんなにも綺麗な人を、例え同意のもとのものだったとしても、凌辱しているんだと想像すると、たまらなくなる。

 

想像した途端、僕のものがぐぐっと膨れ上がって、キキの膣内が窮屈に感じる。

 

「んっ」

 

Tシャツが汗で背中に張り付き、僕の前髪からしたたり落ちる雫が、キキのワンピースを濡らした。

 

キキが真横に顔を背けているせいで、唇を奪えない。

 

キキの耳たぶを食み、耳を頬張った。

 

耳の穴に、溝に舌を這わせ舐め上げた。

 

キキの鼓膜に僕の言葉がダイレクトに伝わるといい。

 

「好きだ」と繰り返しつぶやいた。

 

キキの両手が、僕の髪をかき乱す。

 

キキの指が触れた頭皮から、ぞくぞくとしたさざ波が背筋へと下りる。

 

ぴったりと僕の唇がふさがれた。

 

同時に舌が強めに吸い上げられた。

 

「んっ...」

 

息が苦しい、だから余計に気持ちがいい。

 

 

ぎゅうっと僕のものが圧迫された。

 

「...キキっ、駄目だ...!

 

そんなに...締めないで...!」

 

 

他の体位を試す間もなく、僕の絶頂は間際まで来ていた。

 

「締め...っ過ぎ」

 

キキの中が、うごめきながら僕のものを締め上げている。

 

「はぁ...っ」

 

 

気持ちが良すぎる...。

 

 

歯を食いしばって、やり過ごそうとしたが、もう限界だ。

 

「好きだ」

 

抱え上げなおしたキキの腰も揺らし、僕の腰も揺らした。

 

 

心臓が痛いくらいに打つ。

 

 

「イキそう...!」

 

 

水浴びをした後のように、ずぶ濡れに汗をかいていた。

 

 

「んっ、んっ...」

 

 

こんなところで、何やってんだ。

 

 

両親の事故現場なんだぞ。

 

 

罰当たりな。

 

 

でも、いいんだ。

 

 

全然、構わない。

 

 

「キキ...っ!」

 

 

股間の底が張り詰めてきた。

 

 

「イキそ...う...」

 

 

額をキキの肩にあずけ、僕は目をつむる。

 

 

「キキ...っ...

 

キキっ...。

 

好き...だ...好き。

 

はっ、んっ、はっ...」

 

 

 

最後のひと突きで絶頂を迎え、ドクドクとキキの中へ精液が注ぎ込まれた。

 

くっくっと腰が痙攣し、最後の一滴まで、キキの中へ放った。

 

僕のものが収縮しきるまで繋がったまま、キキの肩に頭をもたせかけていた。

 

「はあ、はあ、はあ...」

 

 

自身の荒い呼吸音が鎮まるにつれ、周囲を包むセミの声と川音が戻ってきた。

 

ずるりと引き抜いて、擁壁に押し付けていたキキの身体を起こしてやる。

 

そして、互いの粘液だらけなのにも構わず下着におさめた。

 

 

立ち上がったことでキキの太ももから、つーっと白い粘液が伝い落ちた。

 

 

なんて光景だろう。

 

 

艶っぽく、厭らしい眺めだった。

 

 

僕のものでキキを汚した証を目にして、征服欲が満たされた

 

 

ところで...。

 

キキは「妊娠しない」と話していたけれど、鵜呑みにしていいのだろうか。

 

ナマで挿入し、膣内で射精をしている。

 

コンドームの用意すらしていなかった。

 

何回も。

 

キキは、内ももをつたう僕の精液を、ハンカチで拭いている。

 

「心配しないでいいのよ。

妊娠することはないから、本当に」

 

僕の考えが読めたのか、キキはそう言った。

 

「...そうか」

 

きっぱりとそう言い切れるのはなぜだろうと疑問が浮かんだけれど、追求する言葉が見つからない。

 

 

川砂に投げ捨てられたキキのサングラスを拾い上げた僕は、ふざけてかけて見せた。

 

橋げた下の日陰のキキが、微笑んだ。

 

つくづく、美しい人だと思う。

 

僕は水際まで近づきしゃがみこんだ。

 

川水に浸した手で、火照ったうなじを冷やした。

 

「キキ」

 

背後のキキに、川面を眺めながら語りかける。

 

「僕らは知り合って未だ4日だ。

 

『好き』と口にするには、早すぎるのかもしれない。

 

でも、好きだと言わずにはいられなかったんだ。

 

僕は明後日には戻らなくちゃいけない。

 

もし...もしもだよ。

 

キキがよければ...もし、僕のことが嫌じゃなければ、

 

これからも僕に会って欲しい。

 

ここまで会いにいくから。

 

僕らはこんなことばかりしてるけれど、

 

本当は、キキと話がしたいんだ。

 

キキのことを知りたい」

 

 

 

「知る必要がある?」

 

 

 

僕の真後ろからキキの声がした。

 

汗ばんだ僕の首筋に、ひやりとしたキキの指が触れた。

 

いつの間にか、足音なく背後にまわっていたらしい。

 

「あるよ!」

 

振り向くと、キキのワンピースの裾と、細くて白いふくらはぎが視界に入った。

 

 

「どんな人なんだろう、って知りたくなるのは当然だろ?」

 

「愛し合うのに、そういう知識は必要なのか?」

 

「え...?」

 

 

「ねえ、チャンミン。

 

あなたは、私と抱き合っている間は、私のことしか考えていないでしょう?

 

それで十分じゃないかしら?

 

初めに言ったように、私はチャンミンのことが気に入った。

 

今も、チャンミンのことが気に入っている。

 

初めて会った時から、チャンミンには私の気持ちを伝えていたはずでいたのに、ちゃんと伝わっていなかったのかしら?」

 

 

穏やかな口調で、同時に冷静で淡々とした言い方だった。

 

 

それが寂しかった。

 

 

僕とキキとの間に、大きなすれ違いが横たわっている。

 

 

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