【3】1/3のハグー僕らの誕生日ー

 

昼食は、ミミがバスターミナルで買ってきた牛肉弁当で済ませた。

ミミは文庫本を読みふけり、

チャンミンは部屋付きの浴室でシャワーを浴びて、さっぱりとしていた。

「ミミさん、のど飴下さい」

「はい、どうぞ」

「ミミさん、ここに座ってください」

チャンミンは広縁の椅子に腰かけた膝をぽんぽんと叩いた。

「前向き?

後ろ向き?」

「前向きの方が嬉しいですが、

ちょっといやらしいので、後ろ向きでお願いします」

「わかった」

チャンミンに促されるまま、ミミはチャンミンに抱えられる格好で後ろ向きに座る。

チャンミンはミミの膝ごと腕を回した。

「ミミさん」

「ん?」

「今日は何の日かわかりますか?」

チャンミンの唐突な質問を受けて、ミミは考え込む。

(チャンミンの誕生日はもう済んだし、私の誕生日はまだまだ先。

チャンミンと付き合いだして未だ半年も経たないから、

何かの記念日でもない)

「分かんない」

「でしょうね」

チャンミンは、ふふふと笑った。

「今日は、3分の1誕生日なんですよ」

「3分の1?」

「僕の誕生日とミミさんの誕生日の間の、3分の1の日なんです」

ミミは指を折って計算する。

「ホントだ」

チャンミンは、ミミの肩に自分のあごをのせた。

「僕とミミさんが付き合い始めた時には、もうミミさんの誕生日は過ぎていたでしょう?

僕の誕生日のときは、ミミさんが盛大にお祝いしてくれました。

僕も早く、ミミさんをお祝いしたかったんですよねぇ。

待ちきれなかったから、3分の1誕生日を思いついたんです」

チャンミンは頬を、ミミの頬にぴたりとくっつける。

チャンミンがほお張ったのど飴のミントの香りがする。

「この日めがけて日程を合わせたの?」

「ミミさん、思い出してくださいよ。

僕らの予定を合わせるのだけでも、大変だったじゃないですか」

「そうだったね」

「旅行の日にちがいつだろうと、

25%誕生日や、7分の3誕生日や、

いくらでもこじつけられますよ」

「いつでも誕生日になるね」

ミミの胸に、じわじわと熱いものが湧き上がってきた。

「そうです。

アクセサリーとか、バッグとか、レストランとか...。

何がいいだろうって、たくさん考えました。

 

ミミさんは大人だから、これまでいろいろなものを贈られてきていると思うんです。

ミミさんが今までプレゼントされたことのないものを、僕は贈りたかったんです。

だからこその『ぬいぐるみ作戦』だったわけです」


 

まったく、この子ったら。

この子ときたら。

涙が出そう。

心根の優しい年下の彼氏。

私の可愛い、可愛い恋人だ。


 

「ねぇ、チャンミン」

「はい」

ミミは、チャンミンが組んだ手の甲の骨をひとつひとつなぞる。

微熱のあるチャンミンの手は熱かった。

「今日は私の3分の1誕生日なんでしょ?

ってことは、

貴方にとっても、3分の1誕生日になるわね」

「わぁ、そうですね!」

ヒゲ剃り後のチャンミンのあごが、ミミの頬にあたる。

ミミの髪のいい香りや、触れたやわらかなミミの頬を感じると、チャンミンが勢いづく。

チャンミンは、自分の方を振り向かせようとミミのあごに手を添える。

「だ~め」

間近まで寄せた唇がミミの手で阻まれた。

「えぇ...」

「風邪が伝染るからダメ!」

「のど飴で殺菌したから大丈夫です」

「のど飴は、そのつもりだったのね」

「ぐふふ」

「チャンミンの風邪が治ってからね」

「僕は、健康な若い男なんですよ。

もう我慢できません」

「“不”健康でしょ」

「うるさい、です」

チャンミンは、強引に、けれども優しくミミの唇を塞いだ。

ミミも、チャンミンの熱い頬に手を添える。

「ミミさんが熱を出したら、僕が看病してあげます」

唇をようやく離すと、チャンミンは片目を細めてニヤリと笑った。

「めちゃくちゃワガママな病人になってやるから」

「そんな感じですね」

「さっさと寝てなさい!」

「もう一回、キスしたいです」

「ダメ!」

 

「あうぅぅ...」


見るはずだった。

観光客が少ない早朝を狙って、ひたひたと静かな水面に鏡面反射した山を。

手を浸すはずだった。

川底の丸石も、泳ぐアユもくっきりと見えるほど透明な冷たい水に。

頬に受けるはずだった。

つり橋を吹き抜けるひんやりと清らかな風を。

僕のせいで、ミミさんに体感してもらえなかったあれこれ。

困った顔をしながらも、甲斐甲斐しく僕の我がままに付き合ってくれて、くすぐったい気持ちになりました。

ミミさんのことが、ますます好きになりました。

シロクマを見た時の、ミミさんの真ん丸の目ときたら。

可愛かったです。

僕の可愛い、可愛い年上の彼女です。

実は、観光に行くより、こうやって部屋で過ごす方が僕は好きです。

次は、僕の部屋に遊びに来てくださいね。

 

(「1/3のハグ」おしまい)

 

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