【2】ハグを邪魔されてーミミの夜這いー

 

 

「頭をぶつけるなよ!」

 

チャンミンは素っ裸のまま、ミミの父ショウタ、母セイコ、祖父ゲンタ、兄嫁ヒトミに抱えられていた。

 

おろおろしたミミは、彼らの後をついていく。

 

「えらく大きい奴やな」

 

チャンミンの両脇を抱えた父ショウタは苦しげだ。

 

「丸太を運んでるみたいやぜ」

 

と、チャンミンの両足首をもった祖父ゲンタ。

 

「今どきの子は、大きいんやって」

 

チャンミンの生尻を下から抱え込んだセイコが答える。

 

「ピーポーピーポー!」

「救急車!」

 

甥っ子ケンタ、ソウタは、大人たちの周囲を面白がって駆けまわっていた。

 

二人の兄カンタは、金打ちの練習で留守にしている。

 

「あんたたちがずっと遊んでいるから、お兄さんはのぼせちゃったのよ!」

 

兄嫁ヒトミは、子供二人を叱りつけた。

 

ミミは股間に載せただけのタオルが、落ちやしまいかと冷や冷やしていた。

 

(まさかこんな形で、チャンミンの裸を見ることになるなんて!)

 

初対面のミミの家族に、醜態をさらしてしまったチャンミンを気の毒に思う。

 

「お、おっ!滑る!」

 

「お父さん!」

 

「あともうちょっと!」

 

「む、無理だ!」

 

チャンミンの脇が汗でぬるついているせいで、ショウタの指が脇から滑ってしまった。

 

「きゃぁぁっ!」

 

どたーんと音をたてて、チャンミンを頭から落としてしまった。

 

「チャンミン!」

 

「す、すまん!」

 

「頭を打ったか!?」

 

「お父さんったら、もう!」

 

憤慨したミミは、チャンミンの頭を膝に乗せた。

 

「大丈夫?」

 

「ううぅぅ...」

 

うめき声をあげて、チャンミンが目を開ける。

 

「星が...星が飛んでます...」

 

(よかった)

 

「ここは...天国ですか?」

 

「!」

 

わずかに隠していたタオルが落ちたはずみでずり落ちて、総勢7人の面々にさらされていることにミミは気づく。

 

「タオル!」

 

母セイコが素早くタオルで隠す。

 

「おじちゃん、毛がぼーぼー」

 

大喜びのケンタとソウタ。

 

ミミは額に手を当て、大きくため息をついた。

 

(チャンミンったら、可哀そうに)

 

 


 

 

その夜。

 

ミミは忍び足で廊下を歩いていた。

 

築50年を超す田舎家だったから、足を踏み出す度きしむ音にヒヤリとし、周囲に耳をそばだてた。

 

(私が夜這いをかけてどうするのよ!)

 

チャンミンは仏間に寝かされている。

 

(一番の難所は、おじいちゃんたちの部屋)

 

祖父母の枕元を通らないと、仏間へは行けない。

 

すーっと障子を開ける。

 

ミミは息を止めて、抜き足差し足で彼らの布団の脇を通り過ぎる。

 

途中、寝返りを打った祖父にビクリとしたが、熟睡しているようでミミは胸をなでおろした。

 

建付けの悪いふすまを小刻みに開けると、常夜灯だけの薄暗い部屋で、仏壇の前に延べた布団が真正面に見えた。

 

「ふうっ」

 

息を止めていたミミは、ここでようやく息をつくことが出来た。

 

(あれ?

チャンミンが寝ているはずの掛け布団が、平らなような気が...?)

 

『チャンミン?』

 

そろそろと、布団に近づき、掛け布団をめくろうとしたら...。

 

「ひゃっ!」

 

突然、ミミの肩が叩かれた。

 

『くくくく...』

 

ふりむくと、チャンミンが口を押えて笑いをこらえている。

 

『ちょっと!』

 

ミミは、きっとチャンミンを睨みつける。

 

(心臓が止まるかと思ったじゃないの!)

 

どうやらチャンミンは、ミミを驚かそうと、ふすまの陰に隠れていたらしい。

 

(やることなすこと、子供みたいなんだから!)

 

隣室で、「なんだ、今の悲鳴は?」という声とともに、ごそごそと祖父母が起き出す物音がする。

 

「!」

「!」

 

「お父さん、もしかして...?」

「泥棒か?」

 

がたがたっとふすまが開いて、祖父ゲンタが部屋に飛び込んできた。

 

「こんばんは...です」

 

ゲンタの目前には、正座をしたチャンミンが。

 

「僕です。

チャンミンです。

ゲンタさん、そんな物騒なものは下げて下さいな」

 

「なんだ、チャンミン君か...」

 

ゲンタは振り上げた竹刀を下すと、仏間を見回す。

 

ゲンタの背後から、祖母カツが首をのぞかせている。

 

「さっきの声はなんだ?」

 

「すみません。

祭りの掛け声の練習をしていました」

 

「練習?」

 

「はい。

僕の役目は重要です」

 

「熱心なのは感心するが、真夜中だぞ。

明日一日あるんだ、昼間にやりなさい!」

 

ゲンタは吐き捨てると、竹刀を引きずりながら仏間を出て行った。

 

チャンミンの布団にもぐり込んだミミは、チャンミンとゲンタのやりとりをびくびくしながら聞いていた。

 

ゲンタたちが寝入るまでたっぷりと待ってから、チャンミンは布団をめくる。

 

『ミミさん、大丈夫ですよ』

 

できるだけ平らになるよう、ミミはうつぶせで大の字になっていた。

 

『危なかったねー』

 

すると、チャンミンが布団の中に滑り込んできた。

 

『チャンミン!』

 

『ミミさ~ん』

 

チャンミンの腕が伸びて、ミミの腰に巻きついた。

 

『ずっとこうしたかったです...』

 

ミミは、自分の胸に頬をこすりつけるチャンミンの頭をなでる。

 

『...ミミさん』

 

『なあに?』

 

『我慢できなかったんですね?

だから、夜這いに来ちゃったんですね?』

 

『違うわよ!

チャンミンが心配だったから、様子を見に来ただけ。

ほら、頭を2回も打ったでしょ?」

 

『嘘ですね』

 

『う、嘘じゃないわよ』

 

『ミミさんの胸...ドキドキしてますよ』

 

『!』

 

(だって、だって。

チャンミンの脚が私の脚にからまっているんだもの。

こんなに密着するのは初めてだし)

 

ミミの身体はぐんぐん火照ってくる。

 

『興奮してるんですね?』

 

『馬鹿!』

 

チャンミンの脚を蹴飛ばした。

 

『痛いなぁ』

 

『この脚をどかしなさい!』

 

『嫌です。

ぎゅー』

 

チャンミンは、ミミの背中にまわした腕に力を込めた。

 

『痛い痛い!』

 

(ミミさん...辛いです)

 

ミミの柔らかい身体を抱いているうちに湧いた、抜き差しならぬ欲求とチャンミンは闘っていたのであった。

 

 

ヤバいです!

 

ミミさん、ヤバいです!

 

僕のが暴発しそうです!

 

止められません!

 

でも、止めなきゃです。

 

せっかくのチャンスなのに!

 

ここがお仏壇のある部屋じゃなければ、とっくにミミさんを襲っているのに!

 

場所が悪すぎます!

 

 

『うっ、うっ...』

 

 

(やだ。

もしかして...泣いてるの?)

 

 

胸にしがみついたチャンミンの頭を引きはがして、ミミはチャンミンの顔を覗き見る。

 

『ミミさ~ん』

 

薄闇の中で、潤んだチャンミンの目が光っていた。

 

『たんこぶ、できたでしょ?』

 

ミミは、チャンミンの前髪をかきあげてやる。

 

チャンミンは昨日、鴨居に一度、床に一度、頭をしたたか打ち付けている。

 

『たんこぶが2個できてます』

 

『可哀そうにね』

 

ミミは、腫れた箇所に触れないよう、チャンミンの頭をなぜてやった。

 

『ミミさん...キスしたいです』

 

ミミの手が止まる。

 

『......』

 

すがるようなまなざしで胸元から見上げるチャンミンに、ミミの胸がキュンとなる。

 

(参ったなぁ。

そんな可愛い顔をしないでよ)

 

『軽くね、1回だけだよ』

 

『えー。

ディープがいいです』

 

もぞもぞと下から這い上がってきたチャンミンは、ミミの頬を捉えると一気に唇を重ねてきた。

 

男っぽい強引さに、ミミはくらくらする。

 

ミミもチャンミンの両ほほをはさんで、キスに応える。

 

(止められない!)

 

勢いづいたチャンミンの手が、ミミの胸に回った。

 

『チャンミン!』

 

驚いたミミは、チャンミンの頭をはたいた。

 

「いでっ!」

 

ミミの打ち下ろした手が、チャンミンのたんこぶに直撃してしまったのだ。

 

 

「うるせぇ!」

 

ガタっとふすまが開いた。

 

「!」

「!」

 

とっさにミミは布団にもぐりこむ。

 

「練習は、昼間にやれって言っただろうが!」

 

チャンミンは、今しがた起きたといった風を装って、目をこすりながら、

 

「...ゲンタさん...ですか?

僕は寝言がすごいんです」

 

と言って、大あくびをしてみせた。

 

「起こしちゃいましたね。

申し訳ないです」

 

「ったく。

騒がしい奴だ」

 

ぶつぶつ言いながら、ゲンタはふすまをぴしゃりと閉めた。

 

 

ふすまの向こうに耳をそばだてて、ゲンタのいびきを確認する。

 

『それじゃあ、部屋に戻るね』

 

布団から出ようとするミミの手首を、チャンミンが捕まえた。

 

『ここで寝てください』

 

『駄目ったら駄目!

チャンミンを刺激しちゃうから、駄目!』

 

『あうぅ』

 

チャンミンの手を手首から引き離すと、ミミは部屋を出て行ってしまった。

 

「はぁ...」

 

チャンミンは、キスの余韻に浸りながら枕を抱きしめ、布団の上を右へ左へと寝返りを打った。

 

(拷問です!

若くて健康な男にとって、これは拷問です!)

 

 

(全く、私たちったら高校生みたいなことしてるんだから!)

 

一方、ミミは暗い廊下を忍び足で歩きながら、高校時代を懐かしく思い出したりしていたのだった。

 

 

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