【7】ハグを邪魔されてーチャンミンの忘れ物ー

 

 

さっきのキスで、火がついていた二人。

 

車内におさまると、高ぶる気持ちが抑えられず、吸い寄せられるようにキスを再開した。

 

初めての深い深いキスにとまどっていたチャンミン。

 

自分の口の中で踊るミミの舌に、ぎこちなくからめていただけだったのが、ミミを味わっているうちに、勢いがついてきた。

 

(ヤバいです。

ミミさんがエロいです)

 

チャンミンはミミに両頬を挟まれたまま、ミミはチャンミンにうなじを引き寄せられて。

 

途中息継ぎをしながら、顔の角度を変えて唇を重ね直す。

 

(ミミさん...

 

僕はどうにかなっちゃいそうです...)

 

チャンミンもミミの口内に、舌を伸ばす。

 

(気持ちが...いいです...)

 

 

「ぷはっ」

 

ミミが、チャンミンから唇を離した。

 

(え?)

 

チャンミンの目はとろんと夢心地なものになっていた。

 

そんな顔がミミには色っぽくみえてしまう。

 

「もっと、もっとキスしたいです」

 

ねだるチャンミンの口調は子供っぽい。

 

ミミを引き寄せようと伸ばすチャンミンの手を、ミミは押しとどめた。

 

「ミミさーん」

 

チャンミンは、頬を膨らませる。

 

「ほらね、こんなところだし!

また見られちゃうかもしれないし」

 

ミミはキョロキョロと辺りを見回してみせて、チャンミンもつられて対岸を確認する。

 

あの中学生たちはいなくなっていて、代わりに祭り太鼓と旗竿を積んだ軽トラックが通り過ぎていっただけだった。

 

山を貫く高速道路の橋げたから、高速で行き交う車の音が山々に反響している。

 

平和な田舎風景。

 

明日はお祭り、町中がうかれていた。

 

 

甘い雰囲気を消すかのように、ミミは

 

「お母さんを手伝わなくっちゃ!」

 

と言った。

 

(危なかった。

こんなキスしてたら、止められなくなる!)

 

ミミは乱れた後ろ髪を整え、火照って紅潮した頬をパシパシと叩いた。

 

「僕も、テツさんを迎えにいかなくちゃ、です」

 

(危なかった!

車の中でいたすには、僕の経験値が圧倒的に不足してます!)

 

チャンミンは、グシャグシャと何度も髪をかき上げた。

 

「今、何時?」

 

チャンミンに強引に引っ張られてきたミミは、手ぶらだった。

 

「えっとですね...1時半です」

 

後ろポケットからスマホを取り出して、時刻を確認した。

 

 

「......」

 

「まだ時間がありますね」

 

「うん...」

 

「......」

 

 

二人の視線が 同じ一点で止まっていた。

 

高速道路のインターチェンジ脇の、ショッキングピンクの建物。

 

 

(『気まぐれバナナ男爵』...。

 

なんて...ストレートな...!)

 

チャンミンの喉がごくりとなった。

 

「......」

 

(行く?

 

あそこに行っちゃう?

 

どうしよう!)

 

 

(初・ラブホですか!?)

 

 

「...ミミさんは、あそこに行ったことあるんですか?」

 

「なっ!

なんてこと言うのよ!

あるわけないでしょ!」

 

「ホントですかぁ?」

 

チャンミンは目を細めて、ニヤニヤする。

 

「もしそうだったら、生々しいですね」

 

ミミの顔が、一気に赤くなる。

 

「馬鹿!」

 

ミミは、チャンミンの耳を引っぱる。

 

「痛いです」

 

ミミの手から逃れようと身をよじるチャンミンに、ミミはのしかかる。

 

「痛い痛い!」

 

短く刈りあげたもみあげから、ぴんと立つ耳が可愛らしくて仕方がないミミ。

 

「ミミさんったら、じゃれつかないでくださいよ!」

 

 

 

「おーい!」

 

 

 

「!」

「!」

 

 

二人は弾かれたように離れた。

 

チャンミンたちの車の脇に、一台の軽トラックが横付けされた。

 

助手席側から、テツが顔を出している。

 

 

「俺は乗せてってもらうから。

迎えはいらんからな」

 

 

テツは、チャンミンの隣に座るミミに気付く。

 

「ミミ!

こいつに手取り足取り教えてやれよ!」

 

「!」

 

ガハハハと笑うと窓から手をひらひらさせ、テツの乗った車は走り去ってしまった。

 

「......」

 

「テツさんにも、バレてるのね」

 

ぼそっとつぶやくと、ミミは肩を落とす。

 

 

(手取り足取りって...。

恥ずかしくて、穴があったら入りたい...)

 

 

「そう...みたいですね」

 

チャンミンはとぼける。

 

(実は、僕からバラしたなんて言ったら、ミミさんに殺される)

 

 

「あのですね、ミミさん」

 

「ん?」

 

「ここじゃ狭いですし、

2時間じゃ足りないんで」

 

 

チャンミンは、キリっと表情を引き締めた。

 

 

「今夜、夜這いにいきます!」

 

 

「!」

 

 

「絶対に行きますから、ミミさん、待っててくださいね」

 

 

「わ、わかった」

 

ミミが頷いたことに満足したチャンミンは、

 

「それじゃあ、おうちに帰りましょう」

 

エンジンをかけて、シフトレバーとクラッチペダルを確認した後、車を発進させた。

 

「シートベルト!」

 

「ごめん!」

 

「ミミさーん。

えっちなことで頭がいっぱいなのは分かります。

しっかりしてくださいよ」

 

「こらっ!」

 

「ぐふふふ。

楽しみですねー」

 

ウキウキと鼻歌を歌いながらハンドルを操作するチャンミンの耳は、また真っ赤になっていた。

 

(チャンミンったら、可愛いんだから)

 

 


 

 

午後4時。

 

台所は戦場だった。

 

ミミ、祖母カツ、母セイコは、煮物の鍋を焦げ付かないよう火加減に神経をつかい、赤飯用の小豆を水に浸し、大量の天ぷらを次々と揚げていた。

 

チャンミンもビールケースの運搬や、広間に座卓を広げ、座布団を並べたりと、率先して手伝った。

 

(楽しい!)

 

チャンミンの心はウキウキ弾んでいた。

 

(みんなが忙しそうで、文化祭の前日みたいだ。

 

それに...それに...

 

ぐふふふ。

 

今夜は...今夜は...!)

 

チャンミンの脳裏に浮かんだイメージ図はあまりにも大胆で、敷いた座布団に突っ伏してこみあげる笑いを閉じ込めた。

 

(そうだ!)

 

チャンミンはむくっと頭を上げると、荷物を置いてある仏間へ向かう。

 

 

 

 

(ない!)

 

リュックサックの中を、逆さにしてみても探しているものは見つからなかった。

 

(ない!)

 

常日頃、持ち物を絞り込めずにバッグをパンパンにしているミミをからかっていたチャンミンだ。

 

絞り込むどころか、一番大事なものを置いてくるなんて。

 

チャンミンの顔色がさーっと青ざめた。

 

(どうしよう...

 

荷物を入れるバッグを、行きがけに取り換えたんだった。

ボストンバッグにするか、リュックサックにするか迷ってて。

多分その時、置き忘れてきたんだ!)

 

わーっと泣き出したい気持ちを抑え「よし!」と声を出すと、台所にいるミミの元へ向かった。

 

 

 

「ミミさん」

 

コンロの前に陣取って、山菜の天ぷらを揚げるミミの耳元でチャンミンはささやく。

 

「何?」

 

額に汗をかきかき、油の匂いに酔ったミミは不機嫌そうだ。

 

「ミミさん!」

 

チャンミンは、ミミの袖を引っぱる。

 

「危ない!

火傷しちゃうじゃない!」

 

「ミミさんに、相談があります」

 

「相談?

聞いてあげるから、どうぞ」

 

「いや...ここではちょっと...」

 

隣に立つチャンミンは、もじもじしている。

 

「ここでは、話せないんです」

 

「えー?」

 

「お願いです、ちょっとだけ」

 

申し訳なさそうに手を合わせるチャンミンを、ミミは放っておけない。

 

「おばあちゃん、ここお願い。

すぐに戻ってくるから」

 

カツに火の番を頼むと、ミミは渋々チャンミンについて台所を離れた。

 

 

 

 

「相談ごとって何?」

 

「ミミさん、そんな怖い顔をしないでください」

 

勝手口まで連れてこられたミミは、なかなか話し出そうとしないチャンミンにイライラする。

 

「ミミさん、

近くに薬局ってあります?」

 

「薬局?

やだ、チャンミン。

お腹が痛いの?

食べ過ぎないで、ってあれほど言ったじゃない」

 

 

空腹だったチャンミンは帰宅するなり、セイコが作り置いたおにぎりを5個も平らげていた。

 

「違いますって」

 

チャンミンはずいとミミに顔を近づけた。

 

「念のため、ミミさんに聞きますが、

ミミさんって、もしかして、もしかしてですよ。

アレって持ってませんよね?」

 

「アレ?」

 

ミミはきょとんとする。

 

「アレです」

 

「アレ?」

 

「そうです、アレです」

 

「アレじゃ分かんないわよ」

 

「そのー、『今夜』使うものです」

 

「......」

 

「持ってませんよね?」

 

チャンミンの言う「アレ」が何だかを、ミミは悟る。

 

「も、持ってるわけないでしょう!」

 

「ですよね。

持ってたら、ちょっと嫌です」

 

チャンミンは腕を組んで、うーんとうなって目をつむる。

 

「困りました。

アレがないと、できません」

 

「相談事って、『そのこと』?」

 

「はい、そうです」

 

「信じられない!

薬局って、『そのこと』?」

 

「はい、そうです。

忘れてきたんです。

ずっと前から用意していたのに、うちに置いてきちゃったみたいです」

 

「信じられない」

 

「悪いですか?」

 

心外だと言わんばかりに、チャンミンは鼻にしわをよせた。

 

「ミミさんのお父さんって、持っていないですよね?」

 

「馬鹿!

チャンミンの馬鹿!」

 

ミミは真っ赤になって、チャンミンの腕をつかんで揺する。

 

「冗談ですってば」

 

「チャンミン!」

 

はははっと笑ったチャンミンは、すぐに真面目な表情になってミミの耳元でささやく。

 

 

「今から、調達してきます。

車を貸してもらえますか?」

 

「チャンミンってば、『そのこと』しか考えていないわけ!?」

 

「はい、そうです。

僕は若くて健康な男ですので」

 

しれっと答えるチャンミン。

 

「アレがないと、今夜できないんですよ?

ミミさんも困るでしょう?」

 

ミミはため息をつくと、額に手をのせてしばらく天井を見上げる。

 

(相談事っていうから、何だろうと思ったら。

まさか、そんなことだとは...。

この子ったら、

予想外なことを言って私を慌てさせるんだから!)

 

「お母さんの車を使ったら?

鍵はついたままだから。

薬局は、ショッピングセンターの裏にあるよ」

 

「助かります」

 

ひゅっと口笛を吹くと、チャンミンはミミの額にキスをした。

 

「すぐに戻ってきますからね」

 

「はいはい、ごゆっくり」

 

勝手口から外へ出たチャンミンが、すぐに戻ってきた。

 

「忘れ物?」

 

「1箱で足りますかね?」

 

「チャンミン!」

 

「冗談ですってば。

いくら若くても、12回は無理です」

 

目を半月型にし、緩んだ口元をこぶしで隠したチャンミンは、可笑しくてたまらないといった風だ。

 

 

(やっぱりチャンミンのペースに振りまわされてる!

年下のくせに!

年下のくせに!)

 

 

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