【9】ハグを邪魔されてーチャンミンの夜這いー

 

 

右にケンタ、左にソウタ。

 

間にチャンミン。

 

カンタは、ソウタの隣で行儀よく布団をかぶってすーすーと寝息をたてている。

 

(どうしてどうして、みんな僕の邪魔ばかりするんだ!)

 

 

発端は、就寝前のこと。

 

灼熱の痛みから回復したチャンミン。

 

「“お兄さん”、ごめんなさい...」

「“お兄さん”にキックしてごめんなさい!」

 

チャンミンの急所を蹴り飛ばしたことを申し訳なく思ったのか、二人は泣いて謝った。

 

(おー!

初めて“お兄さん”って呼びましたね)

 

「もう謝らなくていいよ。

(僕は優しい男だから)もう怒ってないよ。

でも、二度とあんなことをしないように!」

 

ところが、いつまでも泣き止まない彼らをなだめようと、チャンミンは

 

「TVゲームしよっか?

“お兄さん”は強いんだぞー」

 

と、誘ってしまった。

 

そうやって始まった、ゲーム対戦。

 

ところがうっかり、チャンミンは本気を出してしまい、彼らをこてんぱんにやっつけてしまった。

 

再び大泣きした彼らの機嫌をとらなくなってしまったチャンミン。

 

結果、チャンミンは、子供部屋で就寝することになってしまったのだった。

 

(こんなことで、僕はめげませんよ)

 

ぐずぐずと起きていたソウタが寝入ったのを確認すると、チャンミンは布団を抜け出す。

 

子供部屋は1階、ミミの部屋は2階。

 

(僕が大事に守ってきた“純潔”を、ミミさんに捧げにゆきますから)

 

チャンミンは3人を起こさないよう、ふすまを開けて廊下へ出た。

 

 


 

 

(チャンミン遅いなぁ)

 

落ち着かなくて横になったり、起き上がったり、時計を見たり。

 

(もう11:30じゃない!

明日は早起きしなくちゃいけないのに!)

 

ミミはチャンミンを待っていた。

 

(髪は下ろしてた方がいいよね。

靴下は脱いでた方がいいよね。

唇がカサカサ!

リップクリームを塗らなくっちゃ!)

 

ミミはパジャマのズボンを上げて、ふくらはぎを確認した。

 

(ムダ毛処理...OK!)

 

それから、パジャマの袖をまくって腕を確認していると、すすーっとふすまが開いた。

 

(チャンミン!)

 

「ミミさん」

 

開いたふすまの隙間からチャンミンが顔を出した。

 

「お待たせ、です」

 

素早く部屋に滑り込む。

 

チャンミンは、ゆるっとしたTシャツとハーフパンツ姿だった。

 

「遅くなってごめんなさい。

ソウタ君がなかなか寝てくれなくて...」

 

そう言うと、パジャマ姿のミミから1m離れて、ベッドに腰かけた。

 

(この微妙な距離はなんなの!?)

 

(パジャマのミミさんが、可愛いんですけど!)

 

「あの...」

 

隣のミミを直視できないチャンミンは、もじもじ動かす足の指を見ながら声をかける。

 

「眠いですか?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「ミミさんは、疲れているんじゃないですか?

準備で忙しかったし」

 

「チャ、チャンミンこそ、眠いんじゃないの?

ほら、今日はいろいろあったし」

 

「......」

 

(き、緊張します...

ミミさんにえっちなことを言って、困らせていたのに、

今の僕には、その勢いと余裕が枯れています!)

 

(参ったな。

こんなシチュエーション、初めてじゃないくせに、

チャンミンが恥ずかしがっているから、こちらまで緊張しちゃう)

 

「......」

 

「そうそう!」

 

ミミがパチンと手を叩いたので、チャンミンはビクッとする。

 

「そこ...大丈夫?」

 

「へ?」

 

「そこ」

 

「そこ?」

 

「そこだってば!」

 

ミミは、あごをしゃくってみせる。

 

「そこ?」

 

「だから、チャンミンの...そこ」

 

「そこ、じゃわかりません」

 

「......」

 

「はっきり言ってくれないと、分かりません」

 

チャンミンのニヤニヤ顔に、ミミは、チャンミンがとぼけていることに気付く。

 

「チャンミン!」

 

(ミミさんをからかうのは、楽しいです)

 

「くくく。

大丈夫です。

目ん玉ぶっ飛ぶかと思いましたが」

 

チャンミンを睨んでいたミミだったが、「目ん玉がぶっ飛ぶ」様をしてみせるチャンミンに、笑ってしまった。

 

1mの隙間を埋めようと、チャンミンはミミにぴったりつくように、座りなおした。

 

ぎしっと、ミミのシングルベッドがきしんむ。

 

(お?)

 

チャンミンはベッドの上を何度もはずんで、ギシギシとたてる音を確認した。

 

「けっこう...音がしますね」

 

「古いからね。

中学生のときから使ってるの」

 

「困りましたね」

 

「音が気になるって言うんでしょ?」

 

(チャンミンが言いそうなことくらい、予想がつく)

 

「それも、そうですが。

うーん」

 

チャンミンはあごに手を当てて、何かを考えこんでいる。

 

「ミミさん...

初めてのえっちは、このベッドでしたか?」

 

「!」

 

「馬鹿!

チャンミンの馬鹿!」

 

「どうなんですか?」

 

(この子ったら、何を言い出すのよ)

 

「本気で僕は気になっているんですよ?」

 

(ずばり聞いちゃうわけ?)

 

「で、どうなんですか?」

 

チャンミンは、ずいっとミミに顔を近づけた。

 

あまりにも真剣な表情なので、ミミの心にイタズラ心が湧いてきた。

 

「...そうよ」

 

「え...!」

 

チャンミンは固まる。

 

「嘘、嘘!

冗談だってば!」

 

「ミミさーん、ひどいです」

 

「ごめんね、ごめんね」

 

ミミは、抱きついてきたチャンミンの頭をよしよしと撫ぜる。

 

先ほどまでぎこちなかった二人の空気が、ほぐれてきた。

 

「...えっと」

 

 

(真夜中!

寝室!

大人!

二人きり!

ベッド!

条件はすべて揃った!)

 

ミミの胸に頭を押し付けていたチャンミンは、顔を上げると

 

「やっと...この時が来ました」

 

(シム・チャンミン!

「男」になります!)

 

ミミの肩を押して、ベッドに押し倒そうとすると。

 

「待って!

チャンミン、ちょっと待って!」

 

ミミは力いっぱい手を突っ張って、チャンミンのあごを押しのける。

 

「あうっ!」

 

プロレス遊び中に転んで、打ち付けてしまったあごをさする。

 

「ごめん、そんなに痛かった?」

 

「僕は全身、ボロボロなんですよ...」

 

「ごめんね」

 

「そんなことよりも、何ですか?

今さら、NOですか?」

 

(僕は、なけなしの勇気を振り絞って、必死なんですよ)

 

若干ふてくされたチャンミンは、髪をかき回す。

 

「そうじゃなくて、その前に、

チャンミンに話しておきたいことがあるの」

 

「今じゃなくちゃ、駄目なんですか?」

 

「うん」

 

「聞きますよ。

どうぞ、お話しください」

 

チャンミンは手のひらを向けて、ミミに早く話すよう促した。

 

「本当はずっと前に、チャンミンに話しておかなくちゃいけないことだったの。

 

あのね...。

あのね...」

 

(そうですか、

ミミさんの告白ですね)

 

「言いにくかったら、今じゃなくてもいいんですよ」

 

チャンミンはミミの手を取ると、指をからませた。

 

緊張の汗でべたついたミミの手が、さらりと乾いたチャンミンの手の平に包み込まれる。

 

「今じゃなくちゃ、いけないの。

でね...」

 

ミミを見つめるチャンミンの目は、この上なく優しい。

 

ミミは、鼻からすっと息を吸うと、

 

 

「私...バツイチなの」

 

 

「ええええ!」

 

 

チャンミンは、繋いだ手を離すと後ろにとびすさった。

 

目も口も大きく開いている。

 

あまりのチャンミンの驚きように、ミミも固まる。

 

(やだ!

もしかして、知らなかったの?)

 

「もう知ってるかと思ってた」

 

「いいえ!

初耳です!」

 

「幻滅した?

 

嫌でしょ?

 

嫌よね?」

 

ミミは泣き出しそうだった。

 

(お願いチャンミン、

嫌じゃない、って言って)

 

目も口を大きく開けていたチャンミンは、ふっと肩の力を抜くと、

 

「全然」

 

小首をかしげると、目を半月型にさせた。

 

「ホントに?」

 

「ほんとほんと」

 

 


 

 

この子ったら...。

 

チャンミンの驚き方が、あまりに大げさで嘘っぽかった。

 

その後の、「バツイチくらい大したことないですよ」の余裕ある態度もわざとらしかった。

 

知ってたくせに。

 

ホントは知ってたくせに、初めて聞いた風を装ってくれたんだね。

 

誰かから聞いたんじゃなくて、私が打ち明けたことにしてくれたんだね。

 

 


 

「幻滅なんてしませんよ」

でも...正直に言っちゃうと、

嫌ですよ、やっぱり」

 

「だよね...」

 

ミミはがっくり肩を落とすと、チャンミンはミミの頭を撫ぜた。

 

「嫌だよね。

逆の立場だったら、すごく嫌だもの...」

 

「ミミさんがどうこう、ってことじゃないんですよ。

僕以外の誰かを好きだったこと、その事実が嫌なんです。

ミミさんの過去の男たちに、僕は嫉妬しているんです」

 

「チャンミン...」

 

「器が小さい男でごめんなさい」

 

(この子ったら...)

 

「離婚してくれてありがとう、ですよ。

じゃなきゃ、僕はミミさんと付き合えませんでしたから」

 

「チャンミーン!」

 

ミミはチャンミンの頭を胸に抱え込んだ。

 

昼間したように、ミミはチャンミンの頬を包み込んで、唇を寄せようとした。

 

「ストップです!」

 

チャンミンに両肩を押されて、引きはがされた。

 

「何よ!?」

 

「よだれが出てます。

僕が美味しそうなのはわかりますが、

ひとまず抑えてください」

 

「何ですって!?」

 

「しーっ!

ミミさん、うるさいです。

みんなが起きちゃいます」

 

(今度は私の方が“お預け”なの!?

やりたくて仕方がなかったのは、チャンミンの方じゃなかったわけ?)

 

「何よ...」

 

「実はですね、

僕の方も、ミミさんに打ち明けたいことがあるんです」

 

急にあらたまった感じに、チャンミンは話し出した。

 

 

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