「ひゃぁっ!
冷たいです」
「もう1枚、貼ろうか?」
「そうですねぇ、お尻の上あたりに2枚貼ってください」
「おっけー」
うつ伏せになったチャンミンは、ミミに湿布を貼ってもらっていた。
下げたパンツから、お尻が少しだけ見えている。
(小さなお尻...可愛い)
と、いたずら心が湧いてきたミミは、チャンミンのお尻の割れ目を、指でくすぐる。
「ひゃあっ!
くすぐったいです」
(いつも、私の方がからかわれているばっかりだから、たまにはね)
くすくす笑いながら、チャンミンのパンツを引き上げた。
「はい。
これくらいでいいでしょう」
「はぁ...。
薬効成分が染みわたるのが、よくわかります」
「仰向けで寝られる?
座布団をあてがってあげようか?」
「はい、お願いします。
それにしても、幸せですねぇ。
3日目にして、やっとでミミさんの隣で寝られます」
四つん這いでしか移動できないチャンミンは、今夜は広間で就寝することになってしまった。
チャンミンを案じたミミは、自室から布団を運んできて、チャンミンの隣に敷いた。
「疲れたでしょ?
お疲れ様」
ミミはチャンミンの頭を撫ぜると、常夜灯を残して照明を消した。
明日片付ければよいとのことで、広間のテーブルにはラップをかけられた大皿料理が並んだままだ。
「何か欲しいものがあったら、言ってね。
『ミミさんが欲しい』とかの冗談は、駄目よ」
「分かってますってば」
チャンミンは、布団から手を出して、ミミの手を握る。
「ミミさん、ごめんなさい」
「何が?」
チャンミンの謝罪の言葉は、「迷惑をかけてごめんなさい」という意味だととらえたミミは、
「謝らなくていいよ。
重労働をお願いした私こそ、ごめんね」
と、あやすように繋いだ手を揺すった。
「違います。
僕が、ごめんなさいと言ったのは、
今夜はミミさんを抱けないことです。
腰を動かせないんですよね。
上下運動が無理なんです。
あれ、前後運動かな?」
「はぁ?」
「今夜もミミを抱くんだ」と息巻いていたチャンミンだが、腰に走る激痛にさすがに無理だと諦めた。
(残念無念。
泣きそうです)
「無理に決まってるじゃないの!」
「ミミさんは、我慢できるんですか?」
「出来るわよ」
「どうしてですか?
僕はめちゃくちゃ我慢してるんです。
苦しいくらい。
女の人って、ムラムラしないんですか?」
ミミはため息をついた。
(そうだよね、この子は若いから)
ミミはチャンミンの方へ、寝返りをうった。
チャンミンはミミの方をじっと見つめていた。
眉根を寄せて切なそうな表情で、ミミはドキッとする。
「女の人だってもちろん、ムラムラすることはあるけど、いいムードにならなければ、わりと平常だよ。
これは、私の場合だし、男の人がどれくらいムラムラするのかは分かんないけどね」
「そういうものなんですか、ふうん...」
チャンミンはしばらく、天井でぽつんと光る黄色い常夜灯を見上げていたが、口を開いた。
「ミミさん...。
何か、お話しましょう。
ゆっくり話もできなかったし」
「そうねぇ。
何を話そっか?」
「ミミさんの子供の頃の夢ってなんでしたか?」
「なんだろねぇ。
いろんなものになりたかったなぁ。
卒業文集を開くとね、毎年なりたいものが違ってて可笑しいの。
チャンミンは?」
「内緒です。
秘密を抱えた男って、ミステリアスでしょ?」
「ケチ」
チャンミンは、ふふふと笑う。
「ミミさんは、どれくらいの期間結婚していたんですか?
あ!...言いたくなかったら、いいです」
「うーん...」
(そうよね。
チャンミンは私の彼氏だもの、隠し事はよくないよね)
「5年...くらいかな」
「...長いですね」
(僕とミミさんは、たったの4か月と16日。
5年だなんて...全然、負けてます...)
「チャンミンは彼女いない歴、どれくらいだった?」
「えー、そこを聞きますか!?
うーんとですねぇ、2年ちょっとですかね。
ミミさんを好きになった時に、別れましたから」
「そっか...」
ミミの胸がチクりとした。
(そうだよね、こんなにカッコいい男の子がフリーでいるわけないよね。
若くて(当然だけど)、可愛い子だったんだろうなぁ。
やだな、ちょっと悲しくなってきた)
さすがに今夜は、チャンミンがミミの布団にもぐりこんでくることはなかった。
(この3日間で、これまでお互いに触れていなかった事を、打ち明け合って距離が縮まった気がする。
チャンミンの爆弾発言も、内容はともかく、恥ずかしそうに打ち明けた姿が可愛かったな。
きちんとしてて、ほわんとしてる子が、あそこまで獣になっちゃうとこも意外だったな)
「ねぇ、ミミさん。
怒らないでくださいね」
「聞くのが怖いんですけど?」
「あのですね。
僕のが、元気になってきました。
ちょっとおさまりがつかないんで...えっと。
僕の上にまたがってくれませんか?」
「!!!!」
「僕の上に乗ってミミさんが動いてくれれば、出来ます。
僕の腰は使いものになりませんが、あそこは元気ですから。
ほら、よくあるじゃないですか?
足を骨折して入院中の男の人に、セクシーな看護師さんが上に乗って...あっ!」
繋いでいた手が、勢いよく振り払われた。
「ねぇ?
あなたったら、『そんなこと』しか考えてないの!?
私とエッチすることしか、頭にないんでしょ!?」
「......」
ミミの押し殺すような低い声に、チャンミンは言葉を失う。
ミミの目から涙がぽろぽろとこぼれ出てきた。
(口を開けば、下ネタばっかり。
この子ったら、私と『ヤること』しか考えていないわけ?)
「なんだか...悲しいよ」
ミミの目に涙が光っていることに気付いて、チャンミンは慌てた。
「ミミさん...」
ミミの近くへ寄ろうとしたが、腰に激痛が走る。
「ごめんなさい。
ミミさん、ごめんなさい。
泣かないでください」
ミミはくるりと、チャンミンに背を向けてしまった。
「誤解しないでくださいね。
『そのこと』ばっかり考えているわけじゃないんですよ。
僕の中に、ジェラシーがあるんでしょうね。
僕はミミさんのことが大好きですけど、言葉や態度だけじゃあ伝えきれない想いがあふれているんです。
でも、それだけじゃ不足してきて、
やっぱり身体でもひとつになりたい、って思うようになってきて。
そう願って、当然ですよね?
だって僕らは大人の男と女なんですから。
ミミさんの過去に比べたら、僕なんて...って自信がないんです。
言葉や態度で、いっぱい伝える自信はあるんですよ。
でも、それだけじゃ不安なんです。
昔の男の人との記憶を塗り替えるには、やっぱり身体を繋げるしかないな、って思ってて。
あ、もちろん!
僕は男ですから、スケベなこともいっぱい考えてますよ。
ミミさんを思い浮かべて、ひとりエッチしたこともありますよ」
チャンミンは、ミミの背中に向かって必死になって言葉を継ぐ。
「えーっと、つまりですね。
何が言いたいかというと、
ミミさんとえっちなことをしたい欲求は、
やりたい盛りばかりじゃない、ってことを分かってもらえたらなぁ、って。
僕の言いたいこと、ちゃんと伝わりましたか?」
ゆっくりとミミは、チャンミンの方へ向きを変えた。
(よかった、もう怖い顔はしていない)
「ホントに?」
「ほんとほんと」
ミミは手を伸ばして、チャンミンの手を握った。
「私のことを考えて、ひとりエッチしたって言ったわよね?
どんな破廉恥なことを、想像の中でさせてたわけ?」
「ぐふふふ。
内緒です」
「怖いなぁ」
「ミミさんの裸...綺麗でしたよ」
「ホントに?」
「ほんとほんと。
僕の想像通りでした」
「若くてピチピチした身体じゃなくて、ゴメンね」
「ミミさん!
そういうことを言わないでください!」
チャンミンの鋭い声に、ミミはビクリとする。
「ねえ、チャンミン。
私の方だって不安なんだよ。
年甲斐もなく、チャンミンみたいな若い子に夢中になって。
チャンミンは、カッコいい男の子だから、いっぱいモテるんだろうなって。
チャンミンと同じくらいの年の、可愛い子の方が、あなたには似合うんだろうなって。
年の差が私を苦しめているのは、そういうことなの。
チャンミンには分からないだろうなぁ。
あなたは年を重ねて、どんどん素敵になっていくのに、
私の方は、1年ごとに古びていくんだよ。
男の人と女の人との違いは、そういうことなのよ」
チャンミンは顔をしかめながら、じりっとミミの方へにじり寄ってきた。
「僕はまだまだですね。
ミミさんが、どうしてこうまで年の差にこだわるのか、正直、今の僕には理解できないんです。
ミミさんの今の話を聞いても、僕には全然分かんないんです。
僕は、『今の』ミミさんが好きなのに。
僕と同い年のミミさんなんて、全然魅力的じゃないです。
あ!
そんなことないか。
同い年のミミさんは、それはそれで素敵でしょうね...いてて」
チャンミンは、もっとミミの側へにじりよってきた。
ミミも布団から出て、チャンミンの枕元に座った。
「ミミさん」
ミミを見上げるチャンミンの目が潤んで光っていた。
「今も...
前の旦那さんのことを、思い出すこと...ありますか?」
布団からすっかり這い出たチャンミンは、ミミの太ももにしがみついた。
「思い出しますか?」
「やだな。
今は、チャンミンのことしか考えてないよ」
ミミはチャンミンの頭を撫ぜた。
「ホントに?」
「ほんとほんと」
チャンミンの丸い後頭部を、何度も何度も撫ぜた。
「よかったです」
(僕もちょっとだけ泣きそうでしたよ)
「さあ、もう寝ましょ?
明日は帰る日だからね」
「もうちょっと、こうしていたいです」
「チャンミンに膝枕してたら、私が寝れないじゃない」
「えー。
じゃあ、僕のお布団で寝てください」
「駄目。
腰が痛いんでしょ。
窮屈な状態で寝たら、よくないよ」
「嫌です」
チャンミンはミミの太ももに、ぎゅうっとしがみついた。
「仕方がないなぁ」
ミミは苦笑しながらチャンミンの隣に横になると、チャンミンの胸に頭を預けた。
「僕が腕枕してあげますね。
夢だったんです」
チャンミンは片腕でミミの頭を包み込むと、ふふふと満足そうに笑ったのだった。
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