9.手負いのあなた

 

~ララ~

 

看護助手のお手伝いを始めて1週間。

意識はとっくに取り戻しているとの話だが、私が担当する時間帯は眠ってばかり。

夜間帯は、お手伝いといってもやるべきことはないに等しいので、彼の治療室をモニターしているカメラ映像を見たり、

他の患者さんたちを巡回する、看護師のシイラ(テセの後輩の彼女)について回ったり、

彼の治療室を覗いて、乱れてもいないシーツを整えながら、彼の寝顔をまじまじと見るだけ。

(完全な野次馬だわ、私って)

と呆れつつも、彼の寝顔を見られるのがとっても楽しみだった。

(テセには悪いけど)

 


彼の病室へ入ることを許された時、看護師のシイラが

「すっごいカッコいいから!びっくりするよ!」と言った通り、彼は胸に染みいるほど、美しい青年だった。

瀕死でここに運び込まれた時の彼は、流れる血や、煤でドロドロの状態で、顔の作りまで確認できなかった。

 

顔の汚れが拭き取られ、治療が進んで片目を覆ったガーゼもなくなって、彼の顔立ちが現れていくと、彼はかなり端正な顔立ちをしていることが分かった。

秀でた額から、美しいラインを描いて伸びる高い鼻梁。

彫の深さ加減から、私と同じアジア系だろうか。

まっすぐ結ばれた唇と、男らしい四角い顎。

張り出した頬骨が、アンバランスさを生んで、そこもまた魅力のひとつだ。

まつ毛の影を落としたまぶたの下は、黄色く変色した痣が残っており、頬には火傷を覆うガーゼがある。

瞳の色は分からない。

(多分、茶色か、こげ茶か、黒)

(あなたは一体、どこから来たの?)

あの日、運び出される瞬間の、あえいで開いた口元の映像が目に焼き付いている。

私は、「知らない」をたくさん抱えた、謎と秘密たっぷりの彼に、ひきつけられていたのだ。

 


「ララ」

「おい」

腕を小突かれ、ハッとする。

立ったまま居眠りをしていたみたい。

「な、何?」

テセが小声でささやく。

「疲れてんだろ?」

「考え事してただけよ」

私は、スーツの襟を正す。

「ゆうべも行ってたんだろ?

もうやめとけよ。

意識も戻ったっていうじゃないか」

「目を覚ましてるところ、見たことないわよ」

「夜だから寝てて当然だろ?」

「それはそうだけど...」

私の背中を、テセが優しく叩いた。

​「昼間に支障が出るようじゃ、感心しないな」

​「そうね」

本職を疎かにしてしまったら、融通をきかせてくれたテセに悪い。

勤務の後、さらに数時間の「看護助手の助手」は、特に大したことをしていなくても、堪えていたのは確か。

「...テセの言う通りね」

私は、心配そうな表情のテセを見て、素直に認めた。

​「今週いっぱいで、止めることにする」

部外者の私が、医療エリアをウロウロする行為は褒められたものじゃないし、

医療スタッフの人たちにも、特にシイラには迷惑をかけているから、

自分の好奇心を満たす為の行動はもう、控えようと思った。

残念だけど、あと3日でおしまいにしよう。

My Destiny TOP