12.名前を教えて-My Destiny-

 

しばらくの間、二人は口もきけず、じっと見つめ合っていた。

(わぁぁ...黒くてきれいな目ね)

(優しい顔だ...温かくて...)

​ララは、彼の視界に自分の姿が入るよう、身をかがめたままでいた。

彼があまりにも真っすぐに、自分に見入っているので、顔が赤くなっていくのが分かる。

「あの...」

潤んだ彼の瞳に、自分の顔が揺れて映っている。

​「あなたの、あなたの名前を教えて?」

「?」

彼は眉を下げて、困ったような表情を浮かべている。

(私の言葉が分からないんだ)

 

彼はまだ、ララから目をそらさない。

(そっか...)

病室に寝かされている彼の耳には当然、イヤホンはない。

多種多様な人々が生活をしているこの「要塞」でさえ、翻訳機がなければコミュニケーションはとれない。

「私はララ」

ララは自分の胸に手をあてて、ゆっくりと発音した。

 

「ララ」

彼へ手の平を向ける。

「あなたは?」

(名前を尋ねている?)

彼の表情がパッと明るくなった。

​(やった!意味が通じたみたい!)

「チャ...ン...ミン」

聴きなれないイントネーションと、小さなくぐもった声だったので、一度で聞き取れない。

「ごめんなさい、分からない」

ララは、彼の声がはっきり聞こえるように、彼の口元に耳を寄せる。

触れられるすぐ側まで、彼女の顔が近づいたから、彼の胸は高まる。

(触れたい...)

彼の左腕が、すぅっと持ち上がる。

​「もう一度」という意味を伝えようと、ララは人差し指を立てた。

彼の腕は途中で止まる。

彼はコクンと頷くと、さっきりより声を大きくして、ゆっくり言う。

「...チャン、ミン」

発声するのが久しぶりだったのか、彼の声はかすれていたが、ララにははっきりと聞き取れた。

「チャンミンって言うのね、あなた?」

「私は、ララよ。

 

ララ!」

ララは嬉しくなって、シーツの上のチャンミンの手をギュッと握って上下に振る。

チャンミンが顔をしかめたので、

​「ごめんなさい!痛かった?」

​ララはパッと手を放したのち、再びチャンミンの手を取って、手の甲を優しくなでた。

「はぁ...」

チャンミンは知らず知らず、吐息をもらしていた。

ララは、スツールを引き出して座り、再びチャンミンを見下ろす。

チャンミンは、ララを見上げる。

​二人は、言葉もなく見つめ合うばかりだった。

 

 

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