13.彼の人差し指

 

(目をそらせない...)

(​吸い寄せられる...)

「ララ!」

 

パーテーションの陰からナミが顔を出した。

「次の患者さんのところに行くよ!」

一気に現実に引き戻された二人。

「はい!」

チャンミンのわずかに持ち上がっていた頭も、枕に沈み込む。

(邪魔された)

「いくらカッコいいからってジロジロ見てたら、患者さんも休まらないでしょ」

「ですよね」

ナミの後を追うララは、チャンミンを振り返る。

チャンミンの潤んだ瞳は、まだララを見つめていた。

強烈な吸引力を持つチャンミンに、ララは魂まるごと持っていかれたような感じだった。

(行かないで欲しい)

​(また、来るから)

​眼差しで交わす会話。

「?」

チャンミンは、人差し指を唇に当てていた。

(内...緒...ってこと?)

(分かった)

ララはコクコクと頷いて、今度こそナミの後を追った。


翌日。

ララはチャンミンの部屋を再度訪れる機会が作れなかった。

​(残念)

肩を落として、貸与された白いベストを脱いで、ロッカーに仕舞っていた。

「ねぇ」

 

隣で着替えていたナミが、ララに話しかけた。

「おしゃべりは楽しかった?」

​(おしゃべり?)

「ほらぁ、飛行機の彼とよ」

「おしゃべりなんてしてませんよ」

ララは、両手を振って答える。

「そうかしら?話し声が聞こえたわよ」

チャンミンのベッドは広い治療室の中にあり、パーテーションで囲われているだけだ。

ララの脳裏に、チャンミンの唇に当てられた人差し指が浮かぶ。

「あ、あの人、眠ったままでした。

私がひとりで勝手に話しかけてただけで」

「そおう?

飛行機の彼、意識ははっきりしてるのに、だんまりなんだって。

死にそうだったから、ここに搬送して治療しているわけなんだけど、素性が不明でしょ」

「そうですよね」

​「素性を秘密にしたいのか、事故のショックで記憶喪失なのか...」

​(でも、彼は名前を教えてくれた...)

「言葉が通じないからじゃないですか?」

「そんなことあるわけないでしょ!

私たちもこれを外したら、言葉通じないわよ?」

ナミは耳に付けたイヤホンを、コツコツと叩いてみせた。

(彼の人差し指の意味、

言葉を交わしたことを内緒にして欲しい、って意味だったのよね?

「得体のしれない人を、いつまでもここに置いておけないわよね。

上の人たちも頭が痛いと思うわ」

​ナミの話を聞きながら、ララは思いめぐらしていた。

(彼のルックスに目を奪われていて忘れていたけど、

どこから来たのか、どこへ向かっていたのか不明だ)

現実に引き戻されると、チャンミンという人物は、謎の多い、遠い存在だと気づかされる。

「明日が最終日だったよね?」

「は、はい、そうです」

「患者さんたちに、わりと人気だったのよ、あなた」

「そうなんですか!」

「賑やかし隊員としてね、はっはっは!」

ナミは、ニカっと大きな口を開けて笑った。

​「明後日から静かになるから、寂しいわ」

「もう!要は役立たずってことでしょ、ナミさん!」

ララが抗議の声をあげると、ナミは「お疲れ様」と手を振って部屋を出て行った。

一人になって、ララは考える。

(ここを出入りできるのはあと一日しかない。

ほんの数分、言葉を交わしただけ。

名前だけしか知らない。

チャンミンのことがとても気になるのに...

知り合える時間が欲しかったのに)​

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