15.頬に触れて-My Destiny-

 

~ララ~

 

チャンミンの病室を出入りが許される最終日。

前日は、他患者さんのことで忙しく、彼に会う余裕がなかった。

休日だったので、ラッキーなことに昼間の時間帯だった。

ウキウキする気持ちが隠しきれなかった。

テセは、「一緒に街まで行こうと思ってたのにさ」と、ふてくされていた。

「これで最後だから」となだめたけど...。

今日は、シイラと共に行動することになっている。

「ナミさんから聞いたけど、あなた、デレッデレだったらしいじゃない」

​チャンミンとのことを言われていることが分かって、顔が熱くなる。

「最後だから、ララにご褒美をあげるわね」

シイラは、保温ケースと飲み物の乗ったワゴンを指さした。

「いいの?」

嬉しい100%な表情だったのだろう、シイラは苦笑気味だった。

「下の方は、私がやるから呼んでね」

(下?...)

シイラのジェスチャーで意味が分かって、再び顔が熱くなる。

「オ、オッケー」

(そればっかりは、絶対に無理だわ、私じゃ)

 


 

 

チャンミンのベッドを囲うパーテーションの入口から、中を覗くと先客がいた。

担当医と、二人の男の人。

衣服から判断すると、「要塞」の上層部の人、若い方は秘書だと思う。

彼らは、入り口に立つ私に気づいて、

​「私たちの用事はすみましたよ、看護師さん」

チャンミンはちょっと怖いくらいの、無表情。

けれど、私に気づくと、パッと顔を輝かせた。

​「ララ!」

音のアクセントがちょっと違う、チャンミンの呼び方。

私の訪問を喜んでくれているのが、とても嬉しい。

今日のチャンミンは、ベッドの角度を上げてもらって、身体を起こしていた。

病衣の襟元からのぞくガーゼが痛々しいし、痩せたせいか頬がこけている。

(それでも、かっこいいなぁ)

​「こんにちは」

チャンミンのベッド脇まで、ワゴンを押していく。

「身体を拭きにきました。

​あと、ジュースも持ってきました。

え~っと、

私が来られるのは、今日が最後です。

とても、残念です」

チャンミンは、無言でほほ笑んでいるばかりだ。

(そうだった、言葉が分からないんだった!)

彼の耳には、イヤホンがない。

​(コミュニケーションがとれるように、どうして付けてあげないんだろう?)

私は自分のものを外して、チャンミンの耳にかけてあげた。

​「あなたの身体を、きれいにしにきました。

私は、看護師ではありませんから、

下手かもしれません。

よろしくお願いします。

あと、私が来られるのは、今日が最後です」

チャンミンは、私の言葉を聞いていたが、「今日が最後です」と言ったとき、表情を曇らせた。

私の後に、チャンミンも話し始めたが、私の表情に気づいて、イヤホンを外して私に渡す。

「今日で最後なのは、どうしてですか?」

イヤホンを外して、チャンミンに渡す。

​「私は、短期間の約束で、ボランティアに来ているだけなのです。

明日からは、本職に専念しないといけないのです」

​チャンミンはイヤホンを外して、私に渡す。

「とても、残念です...。

僕は、昨日、貴女のことを待っていました。

​もっと、お話がしたかったから...寂しいです」

「本当?

​私も同じ!

せっかくお話できるようになったのに...あっ、ごめんなさい」

イヤホンフックを、彼の耳にかけるとき、チャンミンはくすぐったそうな仕草をする。

もらさず翻訳されるのだから、普通に話せばいいのに、

なるべく簡潔に、分かりやすく伝えようとしてしまって、言葉づかいがおかしくなってしまう。

短い言葉で、気持ちを伝えたいから、どうしてもストレートな言葉になってしまう。

(まわりくどい表現、あいまいな表現を避けよう)

私は、思い切って、チャンミンに自分の気持ちを伝えた。

(素直に、率直に)

「私...、あなたのこと、知りたいです。

​あなたと、もっと仲良くなりたかったです。

私も...寂しいです」

チャンミンは、みるみる目を大きく見開いた。

すかさずイヤホンを外して、私に渡す。

「じれったいわね~、ホントに!」

​二人で苦笑した。

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