16.時間切れ-My Destiny-

 

 

二人は顔を見合わせて、笑った。

大きく口を開けて笑うララがまぶしくて、チャンミンは目を細めた。

「さて、と...仕事をします」

 

(早くやらないと、シイラが来ちゃう)

ララは、ワゴンの上の保温器からタオルを取り出し、ちょうどよい温度まで両手でたたいて冷ます。

「起きられるようになったから、顔は自分でできる...よね?」

​ララがタオルをチャンミンに渡そうとしたが、チャンミンは左手の平を見せて、肩をすくめた。

​「ごめんなさい!片手だったわね」

​(片手でもできないことはないけど、彼女にやってもらいたい)

チャンミンは、面白がっているような表情。

(きっと、緊張しているんだろうな)

緊張のせいかぎくしゃくした動きと、笑顔を消して生真面目な表情になったララ。

そんな彼女を見つめるチャンミンの目は優しい。

「では、失礼しまーす」

(あまり、私を見ないで!)

ララは震える手で、広げたタオルでチャンミンの頬を包む。

チャンミンは、50センチ側まで近づいたララをうっとりと見つめる。

​今日のララはラベンダー色のチュニックを着ている。

​シフォンの布地に肌が透けて、ますますチャンミンはうっとりとする。

ララは、包んだまま、力をこめ過ぎないように、マッサージするように、チャンミンの頬を拭く。

​(目を反らさず、まっすぐ見るんだから...緊張した)

チャンミンは気持ちよさのあまり、うっとりと目を閉じた。

ララは、チャンミンが目を閉じたので、ホッとする。

​眉骨が高く、鼻筋と通った端正な顔つきのチャンミンに見惚れながらも、ララは真剣だった。

「熱くないですか?」

​「傷には触れないから、安心してください」

イヤホンはチャンミンの耳にあるから、ララの言葉はよくわかる。

彼の顔を拭き上げたら、次は腕にとりかかる。

相変わらずチャンミンは、面白がっている表情で、左腕を差し出した。

​(照れてる...可愛いなぁ)

ララはチャンミンの手首を持って、手の平をタオルで包むと、

​「あつっ!!」

ララは慌てて手を離して、

「ごめんなさい!!」

ララはおろおろして、火傷していないか、チャンミンの手を見るが、

​「あれ?」

視線を上げると、ニヤニヤ顔のチャンミンが。

「あー!

からかったでしょう!?」

(こっちは、真剣なのに!)

​「ちょっと~、びっくりしたんだから!」

ララは、チャンミンの肩を小突くと、彼は顔をゆがめた。

​「ごめんなさい!!」

今度はジョークではなく、チャンミンは辛そうだ。

(私の馬鹿!)

「痛かったよね?」

​「本当にごめんなさい!」

「お医者さんを呼んでくるから!」

パーテーションの向こうに駆けだそうとするララの腕を、チャンミンはつかんだ。

「平気だから」

​ララは、チャンミンに引き寄せられるまま、ストンとスツールに腰を下ろす。

チャンミンはイヤホンを外して、ララの耳に付けてやる。

「もう痛くありません」

「本当に?」

​「今日が最後の日でしょう?

貴重な時間です。

​僕は、貴女と一緒にいたいのです」

ララは安堵して、にっこり笑った。

(おしゃべりをしたいけど、一方通行でじれったい)

(...それにしても、どうして彼にはイヤホンがないんだろう?

こっちが話すことが、彼には分からないじゃないの!)

​チャンミンは、考え込んでいるララの手を叩いた。

「ごめんなさい!...何だった?」

(謝ってばかり)

チャンミンは、ララの後ろのワゴンを指さした。

「続きをお願いします」

(そうだった!)

立ち上がって、ララは保温器から新しいタオルを取り出した。

「もう一回やり直すね」

チャンミンの手を取ろうとした。


「ララ―!まだ?」

​パーテーションの間から、シイラが顔を出した。

​「そろそろ終わったんじゃないかって来てみたのよ」

(また、邪魔された)

チャンミンの顔は曇る。

​シイラは、使用済みのタオルの数を確認すると、

「ちょっとぉ、ほとんど済んでないじゃない」

「えーっと...いろいろと難しくて」

ララは焦ってしまって、言い訳が思いつかない。

ララの背後から、チャンミンが口を開いた。

「注文が多くて、彼女を困らせていた僕が悪いんです」

​「へぇ」

シイラはチャンミンが、まとまった言葉を話すのが珍しくて、驚いたようだった。

​「次の患者さんが待ってるから、ララはそちらへ行って」

シイラはララの耳元でささやいた。

「せっかくのところ、ごめんね。

新しい入院患者さんが増えて、今日は時間がないの」

ララはがっかりする表情を隠せなかった。

「彼、もっと良くなったら、お見舞いを許されるだろうから、ね」

「う~ん」

「ほら、行って行って!」

​シイラはララの背中を押す。

​ララの最終日は、ここでタイムアップとなった。

 

 

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