19.リハビリ-My Destiny-

~チャンミン~

 

 

すっかり筋力が衰えてしまった。

松葉づえで施設内を移動できるようにはなったが、常に一人は側に控えているのが、うっとおしい。

ここの医療技術が最先端なのは、身体の回復具合でよくわかる。

複雑骨折した手足も、火傷でただれていた皮膚も、ほぼ元通りだ。

あとは、落ちてしまった筋力と体力を取り戻すだけだ。

リハビリの時間だけでは飽き足らず、僕はフィットネス・ルームに通うことにした。

ここにいれば安心だと判断するのか、監視役も中に入ってこない。

僕が、一体何をしでかすというのだ、こんな不自由な身体で。

部屋の外で監視役の彼は、女性スタッフの一人とにやけた顔をして会話を楽しんでいる。

そもそも、僕が自由に行き来できるのは、病室があるフロアと、フィットネス・ルームのあるフロアまで。

自由に歩きまわれないのが、もどかしい。

2フロアだけの行動範囲のなか、ララと鉢合わせしないかと期待していた。

ベッドを出られるようになって、リハビリへ通う日課が始まってから、彼女の姿を探していた。

エレベータで鉢合わせになるかもしれない。

ワクワクと期待が高まる数分足らずの移動時間だった。

ララは、医療系のスタッフではないと話していたから、自由に病室までやってこられないのだろう。

僕は、ここでは要注意人物だ(当然か)。

一般スタッフと自由に会話をすることも許されていないらしい。

未だに、イヤホンを与えられていない。

杖を壁に立てかけ、チェスト・プレスの椅子に深く腰かける。

杖なしだと、わずかな距離でさえ時間がかかってしまう。

バーを握ってまっすぐ前へ押し出す。

「くっ」

数回の往復だけで、脇と胸がきしむように痛い。

負傷した左肩が悲鳴をあげている。

(まだ早かったかな)

非番か休憩中なのだろう、ここのスタッフたちが黙々と運動をしている。

窓の外は乾いた荒野が広がり、気軽に出かけられる地域とは思えない。

 

ここは僕が住んでいた所とは、180°かけ離れたところだ。

白茶けた大地と空の間を黒く縁どるのは、山脈か。

 

雲ひとつない青い空。

山脈の先には海があるのだろうか。

 

海の底から見上げる水面も、青いのだろうか。

視線を近くに転じると、白い地面に黒々とした痕が横切っている。

 

僕が乗ってきた飛行機が、付けた痕だろう。

袖口で額の汗を拭っていたら、

「シューズを忘れてきた!」

ずっと聞きたかった声だ。

(ララ!)

はじかれたように振り向くと、マシンの前で目も口も大きく開けている彼女がいた。

今日のララも、頭のてっぺんに髪をボールのようにまとめている。

一か月近く会っていなかった。

(相変わらず...可愛らしい人だ)

部屋の隅にいる僕には、気づいていないらしい。

マシンから腰を上げ、壁に立てかけた杖に手を伸ばす。

「おっちょこちょいだなぁ」

彼女には連れがいた。

「テセは、先に始めてて!」

ララはバッグをテセと呼んだその男に押し付けると、フィットネスルームのドアの向こうへ消えた。

僕は、上げかけた腰を、再びマシンへ落とす。

あちこちで稼働するマシンのうねる音が、部屋中響いている。

テセと呼ばれたその男は、ララの荷物をマシンのひとつに引っ掛けると、隣のマシンの調整をしたのち腰かけた。

僕はマシンを動かすふりをしながら、彼を観察した。

彼女のバッグを扱う手の動きから、彼女へ抱く愛情のようなものが感じられ、僕の胸はきしんだ。

 

(彼は...ララの友人なのだろうか?)

彼は、筋肉のひとつひとつを意識して、正しいフォームでゆっくりと上半身を折り曲げている。

 

アブドミナルはかなりキツいマシンだ。

 

彼は負荷をめいっぱいのレベルまでかけて、確実にこなしている。

背が高く、無駄な贅肉のない身体つきだった。

西洋の血が混じっているのだろうか、整った顔つきは男の僕から見ても感心してしまう。

今は険しい顔をしているが、先ほどララを見る目が優しかった。

彼が、僕のライバルになるのか...。

「私はもっと、あなたとお話がしたかったです」と言っていたララだったのに。

彼女は、多少なりとも僕に興味を持っていてくれているものだと、うぬぼれていたようだ。

禁止されていたのかもしれないが、無理をすれば会いに来られるだろうに。

僕は、自分の容姿を自覚していた。

飛び立つ飛行機があとにした地では、僕は女性には不自由しなかった。

熱っぽい視線を送れば、彼女たちは簡単に落ちた。

 

そんな僕だったから、ララと初めて視線を交わした時、目をそらさず見つめれば彼女を落とせると踏んでいた。

ところが、彼女の瞳や表情から、僕への恋情を見つけることはできなかった。

純粋な僕への興味だけだった。

まるで僕が異星人かのように、僕を観察する目だった。

彼女は、僕の計算高い浅はかな思惑に気づいていなかった。

 

そんなことより...。

僕の方こそ、彼女のことを知りたくて仕方がない、純粋な興味でいっぱいだったのだ。

そこまで考えて、僕は床に転がった杖を拾い、ゆらりと立ち上がる。

間もなくララは、ここに戻ってくる。

 

この部屋に入る前に、彼女をつかまえて話をしようと思い立ったのだ。

 

 

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