【16】NO?-反応しちゃった僕のアレー

 

 

「民ちゃん?」

 

チャンミンは、曇りガラスの向こうへ声をかけた。

 

「お願いがあります」

 

ドアのすぐ傍から民の声がする。

 

「どうした?」

 

「あのですね。

私の服を、取ってきてくれませんか?

着替えを持ってくるのを忘れてました」

 

(そういえば民ちゃんは、部屋に寄らずに浴室に直行していたな)

 

「着ていた服も...」

 

チャンミンの背後で洗濯機が回っていた。

 

「洗っちゃったんだ、全部?」

 

「...はい」

 

「適当に何か持ってくればいいんだね?」

 

「引き出しの一番上に、Tシャツが入ってます」

 

「どれでもいい?」

 

「はい。

それから、一番下にパンツとブラが入ってますので...」

 

 

説明をしかけた民の言葉が止まる。

 

 

(チャンミンさんに、私のパンツを持ってこさせるわけにはいかない!)

 

 

「パンツとブラだね?

適当に選んでいいんだね?」

 

リアの下着を1年間洗濯してきたチャンミンは、民のパンツ程度では動じない。

 

「ストップ!」

 

民の部屋へ向かいかけるチャンミンを、民の大声が引き留めた。

 

 

「チャンミンさん、ストップです!」

 

「ズボンもでしょ?

適当に持ってくるから」

 

「持ってこなくていいです!」

 

 

「なんで?」

 

 

「恥ずかしいからです!

パンツを見られたくありません!」

 

「パンツくらい、どうってことないよ」

 

 

「そういうわけにはいきません!

バスタオル、取ってください!」

 

 

浴室のドアがわずかに開いて、その隙間から民の手がにゅっと伸びた。

 

(そこまで恥ずかしがらなくてもいいのに...)

 

「はい」と、民の手にバスタオルを握らせる。

 

 

「チャンミンさん、後ろ向いててくださいね!」

 

 

「へ?」

 

 

「私、部屋まで走りますから!」

 

 

(そっちの方が恥ずかしいだろ!)

 

 

「ちょっと待った!

僕、あっちに行っ...」

 

 

民が勢いよく開けたドアが、

 

 

「あでぇっ!!!」

 

 

チャンミンの鼻に直撃した。

 

 

「ううう...」

 

「わー!ごめんなさい!」

 

民はうずくまるチャンミンを覗き込む。

 

「鼻血!?

鼻血ですか!?」

 

「鼻血は...出てない」

 

「ごめんなさい!」

 

「だ、大丈夫だから...。

民ちゃんは、着がえておいで...」

 

チャンミンは鼻を押さえたまま、ひらひらと手を振る。

 

「了解です!

すぐに手当てしに戻りますから。

待っててくださいよ!」

 

 

「オケ...」

 

 

びしょ濡れのまま、バスタオルを身体に巻き付けた民は洗面所を出ていく。

 

 

「!」

 

 

(ミミミミミミミンちゃん!

お尻が、お尻が見えてるから!)

 

と、赤面した直後、

 

 

 

「ひゃぁっ!」

 

 

悲鳴と共にドターンという音。

 

 

「民ちゃん!」

 

 

鼻の痛みを一瞬で忘れてチャンミンは、音がしたリビングへ走る。

 

民が仰向けでひっくり返っていた。

 

濡れた身体から落ちた水で足を滑らせたのだ。

 

 

「民ちゃん!」

 

 

民の側に駆け寄ったチャンミンは、白目をむいた民の頬をペチペチと叩く。

 

「民ちゃん!」

 

「う...うーん...」

 

うめき声をあげて民の目が開き、しばし視線をさまよわせていたが、民を見下ろすチャンミンの顔とピントが合った。

 

 

「よかったー。

濡れた足で走ったりしたら転んじゃうって、そりゃ..」

 

 

民を抱き起しかけたチャンミンがフリーズした。

 

 

「...すみません。

あわてんぼうのおっちょこちょいなんです」

 

 

後頭部をさすりながら、チャンミンに肩を支えてもらう民がフリーズした。

 

 

 

(ミミミミミミミミミミンちゃん!?)

 

(ひぃぃぃぃ!!)

 

 

民は腰まで落ちたバスタオルを猛スピードで、胸へ引き寄せる。

 

「あのっ!

あのっ!

服着てきます!」

 

「そうした方がいい!」

 

民は立ち上がると、バスタオルを胸に抱きしめて6畳間に飛び込んだ。

 

 

(恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!恥ずかしー!

 

チャンミンさんに、おっぱい、見られてしまったー!)

 

民は床にぺたりと座り込むと、畳んだ布団に顔を埋めた。

 

 

「うっうっうっ...」

 

民は半泣き状態だった。

 

 


 

「......」

 

チャンミンはひとりリビングに残された。

 

(民ちゃんは、ペチャパイだと思ってたけど...。

正真正銘のペチャパイだった...)

 

 

チャンミンは両手の指先を曲げたり伸ばしたりしてみる。

 

 

(ギリギリ揉めるか、揉めないか...くらい?)

 

チャンミンは自分の胸を触ってみる。

 

(違う。

ペチャパイだけど、僕のとは違う。

 

ペチャパイって連呼してごめんね、民ちゃん。

 

胸はないけど、民ちゃんは女の子の身体だった、うん)

 

 

チャンミンは先ほどの光景を思い出す。

 

 


 

 

鎖骨は僕のものより華奢だった。

 

肌は白くてきめが細かかった。

 

ホクロがあった。

 

首から下へたどると、あるかなきかの...ほとんどないに等しい膨らみ。

(民ちゃん、ごめん)

 

そこから視線をずらすと...両胸の先端がピンク色で...。

 

民ちゃんがかがんだ背中に、浮き出た背骨に色気を感じた。

 

女らしい身体とは、柔らかくて弾力に富んだくびれを言うのだろう。

 

例えばリアが持つ肢体のような。

 

でも。

 

民ちゃんの骨ばった身体でも、女を感じた。

 

どこを?と聞かれたら、具体的に答えられないけれど。

 

女らしいってなんだろう?

 

大きい胸か?

 

ぷにぷにした感触か?

 

そのいずれも民ちゃんは持ち合わせていないけど、

 

ペチャパイだけど、全然オーケーだよ。

 

付き合ってる彼女の胸が小さかったとしても、だからと言って嫌いにならない。

 

さらに下へ辿ると...バスタオルが邪魔で見えなかった...って、おい!

 

 


 

 

続いてチャンミンの頭に、ぼわーんと民のお尻の映像が浮かぶ。

 

 


 

巻き付けたバスタオルの端からはみ出してた。

 

前を隠すのに必死で、後ろのガードが甘いよ、民ちゃん。

 

太ももからお尻が筋肉で一直線につながってる僕のとは違う、民ちゃんのお尻。

 

太ももとお尻の境目があって、お尻のほっぺがふっくらしていた。

 

1、2秒足らずの瞬間、しっかり観察していた僕。

 

そして、それをしっかり記憶してる僕。

 

やれやれだ。

 

民ちゃんは隙だらけだ。

 

それにしても...民ちゃんの乳首はピンクか...。

 

可愛いなぁ...。

 


 

「ん?」

 

違和感に気付いたチャンミンが、そろそろと股間を確認した。

 

 

(こらー!

 

こらー!

 

何、反応してるんだ!

 

僕ときたら、僕ときたら!

 

 

民ちゃん相手に、反応したら駄目だろうが!?

 

 

Tに殺される!

 

いててて...勃ち過ぎて...腹が痛い...)

 

 

 


 

 

チャンミンはソファに仰向けになって寝転がった。

 

翌日の仕事の段取り、この部屋の賃料、そしてリアへ告げる言葉。

 

つらつらと考えていた。

 

昼間のうちに、残高不足を起こした口座へ送金処理を済ませた。

 

 

(早急に決着をつけなければ。

僕の財布事情も、限界が近い)

 

次に、昼間会ったユンについて考えを巡らした。

 

(ユンに近影写真の撮影を断られた。

 

ミステリアスさを演出するためか、写真嫌いか、どんな風貌の人物なのかを事前に確認することができなかった。

 

遠目で撮ったぼやけた斜め後ろのものが何枚かあるだけだった。

 

会ってびっくり、男の僕から見てもハッとするほどいい男だった。

 

近影写真を断られたため、ページ構成を工夫する必要があるな。

 

Sが指摘したように、確かに僕の顔を食い入るように見ては、目が合うと意味ありげに微笑したんだっけ。

 

気持ち悪いな)

 

 

チャンミンは先ほどから、民のいる6畳間に注意を払っていた。

 

ことりとも音がしない。

 

民が部屋から出てこない。

 

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