11.ねえ人魚、そばにいて

 

上の写真は、僕の恋人が撮ったものだ。

 

組んだ腕を枕に、デッキに寝っ転がっていたから、刻々と形を変える雲でも眺めているのかと思った。

 

全く、いつの間にシャッターを切ったのやら。

 

「そろそろ行ってくる」

 

と僕に声をかけると、パシャーンと水しぶきを上げて飛び込んで、「おーい!」と波間から手を振った。

 

恋人はまさに水を得た魚のように、はしゃいでいる。

 

ボートに並走して泳いでいたかと思うと、潜水する。

 

心配になるほど潜水していたかと思うと、反対側にひょこっと顔を出す。

 

恋人が、水中に姿を消すたび僕の胸がギュッと苦しくなる。

 

このまま帰ってこないのかもしれない、って。

 

「おーい」と呼び声に、タラップをよじ登ろうとする恋人に手を貸す。

 

よかった、戻ってきた。

 

30分ほど泳ぎを楽しむと、デッキに上がって空を眺めたり、

僕とおしゃべりしたり、

お弁当を食べたり(僕が作った)、

歌を歌ったり(僕よりずっと上手い)、

 

「海に来るたび、僕は不安になる。

君が海に帰ってしまうのではないかって」

 

不安な気持ちをこぼすと、恋人はハハッと笑って僕の口をふさぐんだ。

 

そのままいい雰囲気になって、デッキの上でいちゃいちゃしたり。

 

そして、「潤してくる」と言って、海に飛び込んだ。

 

「心配するなー!

チャンミンの側から離れないって決めてるんだから!」

 

デッキのヘリから波間を見下ろすと、

らっこのようにぷかぷか水面に揺れながら、

僕の愛しい人魚は、両手でハートのマークを作ってみせた。

 

 

僕らのデートはこんな感じ。

 

月に一度は、恋人をボートに乗せて海遊びを楽しむ。

 

一緒に遊園地へ行くことも、ショッピングをすることも、登山もできない。

 

できないことがあまりに多すぎる。

 

だから、僕らが一緒にできる事柄を、ひとつずつ増やしているところなんだ。

 

恋人のために、自宅の庭にプールを作った。

 

すいすいと気持ちよさそうに泳ぐ恋人の側で、僕は読書をする。

 

プールに飛び込んで、恋人といちゃいちゃする。

 

夜は、プールサイドに敷いたマットで僕は眠る。

 

僕が寝坊しそうな朝は、尾びれで水面を叩いて、僕に水しぶきを浴びせて起こしてくれた。

 

寝ている僕をマットごとプールに引きずりこむという、度が過ぎた悪戯をした夜があって、

めちゃくちゃ腹を立てた僕は、寝室のベッドで3日間眠って、口もきかなかった。

 

4日目の早朝、プールの縁に腰掛けた恋人の、寂しそうな哀しそうな背中を見た時、

 

(この人を守れるのは、僕だけだったんだ)

 

裸足で庭へ下りると、恋人の濡れた背中を抱きしめた。

 

(この人には、僕しかいないんだった)

 

海からここまで連れてきたのは、僕の方だったのに。

 

いっぱい謝った。

 

 

雨の日や寒い季節には、側で眠れなくて困った。

 

そこで、地下に屋内プールを作った。

 

これで全天候OK。

 

鮮魚を運搬するような、タンク付きトラックを購入しようかと、僕は真剣に悩んでいる。

 

そうすれば、もっと遠くへ出かけられるから。

 

人魚の恋人でいるのは、こんな具合に大変だけど、僕は恋人のことを、海の底より深く愛しているから、全然苦じゃない。

 

恋人がボートで撮ってくれた僕の写真をしばらく眺めていた。

 

視線を横にやると、僕の美しい人魚がプールサイドで昼寝をしている。

 

水から上がっていられる時間を伸ばすための、訓練なんだそうだ。

 

おっと、そろそろプールに入る時間だ。

 

起こしてあげないと。

 

この人はうっかり屋だから、放っておくと日干し人魚になりかねないからね。

 

(おしまい)

 

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