17.面白くない-TIME第1章-

 

 

「おーい、シヅク、チャンミンをいじめてるな」

開け放たれた事務所の戸口から、タキが笑いながら入ってきた。

「!」

ふざけあっていた二人は、ぴたと動きを止めた。

シヅクはパッと、チャンミンから離れた。

「タキさん、ひどいなぁ。

​心優しい私がいじめる訳がないじゃないですかぁ」

(チャンミンとじゃれ合ってるとこを見られてまったー!)

「いじめてたじゃないか~」

タキは手にしていたタブレットをコツンと、軽くシヅクの頭を叩く。

「タキさんこそ、暴力反対です」

顔を赤くしたシヅクは、ポットの置いてあるカウンターへ。

チャンミンは思う。

(何赤くなってるんだよ)

チャンミンは二人のやりとりを無言で観察していた。

「今朝は早いんだね、チャンミン」

タキはチャンミンに声をかけた。

​「あぁ、はい」

​チャンミンは姿勢を正して、タキに会釈する。

(なんか、イライラする)

「はい、タキさん、コーヒー」

​「ああ、ありがとう」

爽やかな笑顔を見せてタキは、シヅクからマグカップを受け取った。

タキは立ったまま、ひと口コーヒーすする。

「ちょうどいいね」

「タキさん、薄いのが好きでしたよね」

「さすが、分かってるね」

チャンミンは、シヅクとタキの会話を聞いているうち、不機嫌になってきていた。

(なんだよ、あれ。

このようなシヅクとタキのやりとりは、いつものことなのかもしれない。

一昨日までは、目にしてはいたけど、全く気にならなかったのに。

今は、すごく、すごく気になる)

タキは仏頂面のチャンミンに気付いて言った。

「チャンミン、昨日はいなかったから、知らないだろうけど、大変だったんだ。

カイ君が出勤してきたら、一緒に行って様子をみてくるといい」

「何かあったんですか?」

シヅクから何も聞いてなかったし、チャンミンは出社してから未だ、業務記録をチェックしていなかった。

「排水関係がね。

カイ君に聞くといいよ」

じゃっと手を挙げて、タキはシヅクの方を向く。

「シヅク、始業前に悪いんだけど、ちょっと手伝って欲しいんだ」

「いいですよ」

シヅクはタキと肩を並べて、彼らの仕事場へ行ってしまった。

事務所を出る際、シヅクは振り向いて、

「じゃあ、チャンミン、また後でね」

手を振った。

「あ、うん」

ひとり残されたチャンミン。

シヅクとふざけ合ったことがくすぐったかったし、シヅクが「また後でね」と言ってくれたし。

同時に、ムカムカとした思いも抱えていた。

(なんだよ、タキさんは。

 

シヅクの先輩だからって...。

 

僕は、彼が気に入らない)

チャンミンには、自分の気持ちの正体がまだ分かっていなかった。

胃の辺りがぎゅっとする、不快な感覚。

「あっ!」

(僕はシヅクと話したいことがあったんだ)

昨夜、チャンミン自身が挙げた3つのリストについてだ。

(シヅクは後で、て言ってたから、その時にしよう)

自分の席に座り、デスクの上の自分のマグカップに気づく。

シヅクが淹れてくれたコーヒーの存在をすっかり忘れていた。

カップに口をつけて、

​「うわっ!」

どろどろに濃くて苦いコーヒー。

​シヅクの仕業だ!

シヅクの小さな悪戯を可愛らしく思えて、ひとり笑いをするチャンミンだった。

 

 

TIME第1章