22.胸いっぱい-TIME第1章-

 

「チャンミンたら、顔が真っ赤だったわね~」​

ミーナは可笑しそうに言って、シヅクの脇腹をつつく。

「お礼ってなんだったの?」

「病院に付き添ってあげた」

シヅクは、チャンミンからもらった袋の中身を、膝の上に出している。

7種類の中華まんを2個ずつ、計14個。

(チャンミンったら、的が外れているというか、なんというか...)

「ふうん。

例の頭痛?風邪?

美味しそうね、1個ちょうだい」

​「あ、いいよ。どうぞ」

「僕にも下さーい!」

カイがやってきた。

「あれ?チャンミンさんは?」

「赤面して、どっかいっちゃったわよ」

ミーナは、カレーまんを頬張りながら、ケラケラ笑った。

「チャンミン、可愛いじゃない!」

(チャンミンよ、お前は高校生か!)

​シヅクは動揺しつつも、嬉しさで胸がいっぱいだった。

胸がいっぱいになってしまって、これ以上食べられなかった。

(夜、食べよう)

シヅクは、チャンミンからの「お礼」を胸に抱えて、仕事場に戻った。

(チャンミンが可愛すぎる!


午後の勤務中。

チャンミンは、ぬかるんでしまった畝を鍬でかきならしていた。

摂氏35度のハウスは暑い。

5分もしないうちに、汗が噴き出してくる。

(やることリストの1つは果たせた。

 

次は、シヅクにマフラーを返すことだ。

忘れてた)

作業する手を止めて、ポケットから薬のボトルを取り出す。

錠剤を1錠口に含んで、ミネラルウォーターで流し込む。

「チャンミンさん、どこか悪いんですか?」

半袖Tシャツになったカイは、吸水ポリマー入りの大きな袋を3袋抱えている。

チャンミンも、上着を脱いでも暑いので、Tシャツの袖を肩までまくり上げていた。

「チャンミンさん、頭が痛いんですか?

...よっこらしょ」

カイはドサリと重い荷物を下ろして、腰をトントン叩いた

「よっこらしょ、なんて、年寄りみたいだな」

「24歳は年寄りですよ、十代に戻りたいっす」

「そういうものかな?」

チャンミンは、袋を水が溜まっている箇所に移動させる。

(よしと、余分な水分はなくなるはず)

カイのウェーブかかった髪も、汗でひたいに張り付いている。

「チャンミンさんこそ、どうなんです?

30歳でしたっけ?」

​「29だよ、悪いかー?」

「ハハハハハ!

チャンミンさんも、10代に戻りたいって思います?」

「10代?」

チャンミンは汗で濡れた前髪をかきあげた後、じっと考え込む。

「チャンミンさんの10代って、どんな風でした?」

(僕の10代の頃って...どうだったっけ?)

気持ちを集中させて、10年以上前の自分を思い浮かべようとした。

「10代...?」

(駄目だ、霞がかかったかのように、曖昧だ)

頭をはっきりさせるかのように、チャンミンは頭をぶるっと振った。

(僕は、ぼんやりと生きてきたから、印象に残るようなエピソードなどないのかもしれない)

そう納得させようとした、その途端、

チャンミンの視界が、左右に揺れる。

(まただ!)

チャンミンが、まぶたを覆ってよろけた。

​「チャンミンさん!」

カイは素早く駆け寄って、彼を支えた。

チャンミンは、カイに支えられたまま、ギュッと目をつむり、深呼吸を繰り返した。

「平気だよ...ありがとう」

チャンミンの眩暈は一瞬のことだったようで、今はしゃんと立っていられる。

「チャンミンさん、顔が真っ青です。

休んだ方がいいですって。

​後は僕ひとりで出来ますんで」

カイは、眉をひそめて、チャンミンを心配そうに見る。

「冷たいものを飲めば、気分もよくなると思う。

カイ君、飲みたいものある?

買ってくるよ」

TIME第1章