(27)TIME

 

 

「あと30分!」

(リビングOK、注文した食材は届いた)

​チャンミンは、仕事後大急ぎて帰宅し、準備で大忙しだった。

グラスも食器も1つずつしかなかったから、それも注文した。

(シヅクがうちに来る!)

​チャンミンは嬉しくて仕方なかった。

(自宅に誰かを招くのは、初めてだ)

(それも、女のひとを)

(ところで...)

ふと手を止めて、考える。

(うちまで訪ねて欲しい、と言ってはみたけど、おかしかっただろうか?

人と、どう接して、どういった会話が正解なのか、僕にはわからない。

特に、相手が女性だとなると、ますます分からない。

手順が分からない)

29歳のチャンミンは、何もかもが初めてだった。

 

自分の経験を元に行動してみようと、記憶をたどろうとすると決まって、意識が遠のくような気がして出来なかった。

霞がかかったようで、曖昧なのだ。

(経験不足なのか、単に覚えていないのかを追及することは、後回しだ)

仕方なく、ネットの情報を頼りにして、チャンミンは必死だった。

チャンミンは、リビングを見渡して「よし」と頷く。

「次は...着替えないと!」

チャンミンは、外出着のままなことに気づいて、クローゼットに向かった。

 


シヅクは、地下10階から上昇するエレベーターに乗っていた。

地上に到着し、ドアが開くのも待てずに飛び出し、駆け出す。

(急げ急げ!)

会議の閉会式が長引き、撤去作業もずれ込んで、チャンミンとの約束の時間まで、あと1時間だった。

(忘れちゃいかん!チャンミンへの土産!)

シヅクは、自室のあるマンションにいったん寄り、あらかじめ注文しておいたものをピックアップする。

チャンミンのマンションまで、徒歩15分の距離だったが、迷わずタクシーを呼ぶことにした。

「ふぅ」

​タクシーのシートに座ると、シヅクは息を整える。

(チャンミン、ごめん)

​シヅクは膝の上の、チャンミンへの土産が入った袋を抱え直した。

 

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