28.チャイム2-TIME第1章-

 

シヅクは、艶消しアルミのドアの前に立っていた。

(待ちきれない)

時刻を確認すると、約束より15分早い。

(チャンミンのことだ、頓着せんだろう)

荒くなった呼吸を整える。

(よし!)

チャイムのボタンを押す。

(......)

​インターホンの応答がない。

もう一度押す。

​(......)

「ったく、またかよ」

​舌打ちをしてシヅクは、さらに3回チャイムを鳴らし、きっかり1分ずつ待つ。

 

(何やってんだか!)

​在宅ランプが灯っているので、部屋にいるのは確か。

(...今日も...風呂か?)

シヅクはニヤリとする。

(出てこないチャンミンが悪いのだ)

 


チャンミンは、洗面ボウルの縁にかけた手に体重を預け、ゆっくり呼吸した。

洗面所の鏡の前で、髪を整えようとした直後だった。

(まただ...)

視野が暗くなって、耳鳴りがする。

​(もうすぐシヅクが来るのに...)

チャンミンは強く目をつむって、大きな深呼吸を繰り返した。

(!)

チャンミンは、自分の肩の上に、重みを感じた。

「わっ!」

肩の上の手の持ち主は、シヅクだった。

​激しく収縮した体の力を抜いて、深く息を吐き、チャンミンは

「お願いだから...」

シヅクを睨む。

「お願いだから...」

​「もっと『普通に』入ってきて下さいよ!」

チャンミンは、怒鳴っていた。

チャンミンの剣幕に驚くシヅクは、白いブラウスに黒のジャケットを羽織っていて、いつもよりフォーマルなファッションだった。

(出張だったから、スーツを着てるんだ)

シヅクに対して腹をたてつつも、冷静に彼女の全身を観察していた。

(珍しい、ピアスを付けている)

シヅクの耳には、小さな赤い石が光っている。

腹を立てているチャンミンの様子にも、シヅクは悪びれることなく、

「だって、チャンミン出ないんだもの。

心配だったからさ。...」

クスっと笑って肩をすくめた。

「僕の風邪はもう治ったよ!」

「万が一ってことがあるじゃないの」

すっとチャンミンの目は細くなる。

「違うね!

​シヅクは、僕を驚かせようとしたかっただけだと思うな!」

「バレた?」

​チャンミンはシヅクを見下ろす。

「シヅクの行動パターンは、なんとなく分かりかけてきた」

シヅクは、ふっと真剣な表情になる。

「ねぇ」

「何?」

チャンミンはまだ不機嫌な声だ。

「あんた、大丈夫?

​気分が悪かったんじゃないの?」

​シヅクは、先刻チャンミンが洗面所でうつむいていたのを案じていた。

「頭が痛いの?」

赤のグロスを塗ったシヅクの口元から、目をそらしながらチャンミンは、

​「平気だって、ただの立ちくらみだよ!」

チャンミンは苛立っていた。

この時のチャンミンは、シヅクの気遣いが、少しだけ、少しだけうっとおしく思えた。

「それなら、いいんだけど...さ」

「ところで、シヅク!」

​チャンミンは、リビングへ向かおうとするシヅクの腕をつかんだ。

「な、何?」

​チャンミンから、触れてくることは初めてだったから、シヅクは、つかまれた腕を強く意識してしまう。

​「僕はシヅクに聞きたいことがあるんだ!」

TIME第1章