41.いつだって独り-TIME第2章-

~チャンミン~

 

僕は6時に起床する。

仕事がある日も、ない日でもそれは変わらない。

​乱れた布団を整えたら、家じゅうのブラインドを開ける(寝室とリビングの2部屋だけど)

シャワーを浴びて、着替えたら朝食だ。

僕にとって食事とは、栄養補給に過ぎない。

カロリーも栄養も一度に摂取できる、オールインワン・ドリンクに頼っているが、今朝は違う。

​昨夜、シヅクが出張土産でくれた「天むす」とかいう食べ物を食べる。

ブラックコーヒーと、醤油だれ味がイマイチ合わない気がしないでもないが、あっという間に6個平らげてしまう。

汚れたお皿とマグカップを入れようと、ディッシュウォッシャー機の扉を開けた時洗浄後の食器が並ぶ様を見て、昨夜のシヅクと過ごした時を思い出す。

(楽しかったな...)

思わず笑みがもれる。

キッチンカウンターに置かれた真っ白な炊飯器も、大型のオーブンも昨夜のために新調したものだ。

​(本当に楽しかった)

カウンターにもたれて、リビングの窓の外に延々広がる、薄グレーのビル群を見るともなしに眺める。

昨夜のシヅクとのやりとりを、時間を追って思い出しているうち、急に身体が熱くなってきた。

(そうだった...!

​僕は...思わず...シヅクに...!)

シヅクの感触を思い出しながら、僕は自分の唇を右手でなぞる。

「何やってんだ、自分」

気持ちを切り替えるためには、身体を動かさないと。

クローゼットから専用バッグをとり、髪を整える間もなく、僕はでかけることにしたのだった。

休日の午前中はスポーツ・ジムへ出かけることにしている。

​昼食はたいてい、ジムに併設されたカフェテリアでとる。

ジムの後は、食材の買い物しがてら街中を散歩して、

帰宅したら、気になる書籍をいくつかDLして読書をする

それから、簡単な夕食をとって、ネット・ニュースをチェックしたり、通販をしたりした後、ベッドに入ってさっさと寝てしまう。

僕は、ルーティンに生きてきた。

​他人と比べたこともないし、身近に比べられる誰かもいないけど、おそらく僕はとても退屈で、無趣味で、いつも一人で...。

(そうだ...僕は...独りだ)

今朝ほど、自分が「独りぼっち」であることを実感したことはないかもしれない。

シヅクと過ごした時間と、独りでいる自分を比較するようになったせいだと思う。


ジムでたっぷり汗をかいて、心地よい疲労を感じながらの帰り道。

信号待ちをしていると、彼女を見かけた。

片側4車線の大通りの、向こう側にシヅクがいた。

赤いコートと、ショートカットの黒い髪、シルエットは間違いない、シヅクだ。

僕の心拍数は、早くなる。

声をかけたかったが、彼女は通り向こうの遠くにいる。

じりじりと信号が変わるのを待っている間、シヅクの姿を見失わないよう目で追っている時、はっとした。

​(隣にいるのは誰だ?)

シヅクには連れがいる。

(男だ)

僕の心拍数は、もっと早くなる。

細身の背の高い、若い男。

目をこらして、彼を観察していてようやく気付いた。

​(カイ君!?)

明るい茶色の髪、カラフルな洋服、すらりとしたスタイル...間違いない。

シヅクとカイ君は、互いに顔を見合わせて、会話を楽しんでいるように見える。

シヅクは...笑顔だ。

胃のあたりが、ギュッと縮んだのが分かった。

(危ない!)

電動自転車が、シヅクのすぐ側をかすめるように走り抜ける。

息をのむのと同時に、カイ君がシヅクの腕を引いて、間一髪接触してしまうのは避けられた。

(よかった...)

シヅクは、カイ君を見上げてお礼を言っているようだ。

ブラウン系でまとめた中に、グリーンのトップスが鮮やかで、カイ君の雰囲気によく似合っている。

反面、僕の黒づくめの、地味な装いときたら...。

僕は初めて人の身なりを、自分のと比較していた。

ファッションに無頓着な僕でも、カイ君が洗練されていることが分かる。

今から追いかけても、追いつけないほど、二人は遠ざかってしまった。

信号が青になり、信号待ちの人々は、立ち尽くす僕を邪魔そうに避けながら、ぞろぞろと通り向こうへ歩き出していた。

じっとりと、手のひらに汗をかいていたことに気づく。

僕の顔は固く、強張っていただろう。

昨夜の電話越しに、シヅクが会う約束をしていたのは、カイ君だったんだ。

​シヅクとカイ君が、休日に会うほど親密だったなんて、僕は気づかなかった。