(12)TIME

~チャンミン~

 

 

 

悲鳴は同時だった。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

「うわっ!」

僕は自分でも驚くほどの大声を出していた。

​こんな大声を出したのは、生まれて初めてかもしれない。

目をまん丸にして、尻もちをついているのは...シズクじゃないか!

シヅクの視線が、僕の顔からゆっくり下りていく。

僕はハッと気づいた。

「わっ!」

大急ぎで僕は、タオルで下を隠す。

シヅクは僕に視線をロックオンしたまま、固まっている。

(見えた...よな?)

なんて間抜けな姿してるんだ、僕は。

尻もちをついた姿勢から、ゆっくりと立ち上がった。

(は、恥ずかしい...!)

ぐんぐんと全身が熱くなってきたのが分かる。

「あっちへ行って...」と言いかけたその時、

ドスンと、僕に突進してぶつかる衝撃。

「!」

シヅクが僕に体当たりするかのように、抱きついてきた。

シヅクは僕の首を絞めんばかりに、腕を強く巻き付けている。

「えっ...」

濡れた僕の体に、シヅクの乾いた洋服が押しつけられているのがわかる。

「あの...」

(困った、困ったぞ...)

 

さらにぎゅうっと、シヅクの腕の力が増す。

​「く...」

息ができない...。

「く、苦しい...」

僕のものを隠していたタオルがポトリと落ちる。

「......」

シヅクは黙ったまま、僕にかじりついたままだ。

「ぼ...」

たまらなくなって、シヅクの両肩を持って、彼女を引きはがした。

「ぼ、僕を締め殺す気か!?」

(え...?)

驚いた。

僕に両肩をつかまれたままの、30センチの距離のシヅクが、泣いていた。

泣きながら、僕を睨んでいる。

「ば、馬鹿者―!」

シヅクが大きな声を出すから、驚いて僕は彼女の肩をつかんだ手を離してしまった。

シズクの充血した目から、ボロボロと大粒の涙が落ちてきた。

「シヅクさんに心配かけさせやがって...」

「めちゃくちゃ、心配したんだぞー!」

「っ!」

今度は、シヅクは僕の胸にしがみついてきた。

(えっ.....?)

「うわーーん」

大泣きしだした。

「ホントに、心配したんだぞ!」

「もう、死んじゃったかと思ったんだぞ!」

「は?」

(僕が、死ぬ...?)

「えっ...と、僕はただ、シャワーを浴びていて」

シヅクが何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。

(どこでどう繋がると、僕が死んじゃうことになるんだ?)

シヅクの熱い涙が、僕の胸を濡らしている感触がよくわかる。

次から次へと、流れている。

(一体全体、この状況はなんなんだ?)

「お見舞いに来たのに、チャンミンは出てこないから、

倒れたままなんじゃないかと思って。

昨日、具合が悪かったし。

だから、うちの中探し回ったのに...。

チャンミン、どこにもいないし。

風呂場で死んでるんじゃないかと思って」

(そういうことか...)

ずずーっと鼻をすする音。

きっと僕の胸は、シヅクの涙と鼻水でベタベタだ。

僕の口元に、シズクのショートヘアのてっぺんがさわさわと触れている。

また、シトラスの香りがした。

​(参ったなぁ...)

なんだか...もう...たまらない気持ちになった。

[maxbutton id=”1″ ]