(26)僕を食べてください(BL)

 

 

視点を合わせないうつろな眼に、車窓を猛スピードで流れ去る景色が映っている。

傍らに置いた紙袋の中には、米やら漬物が入っている。

 

「まったく、どこをほっつき歩いていたんだい」と、ぷりぷりしながらばあちゃんが持たせてくれたものだ。

 

耳朶に指先を伸ばして、小さなかさぶたに触れた。

次いで手首をさする。

そして、昨晩から先ほどまでのことを反芻する。

 


 

 

「セックスしようか?」

 

ユノに誘われた。

1枚1枚相手の服を脱がし合い、焦らすように肌をさらしていった。

ユノのものが斜め上を向いて、そそり立っていた。

僕の方と言えば、股間の奥がじんじんと疼き、挿入されたユノの指にかきまわされて、喉の奥から低い呻きが漏れた。

初めての日のように、僕の乳首が執拗にいたぶられた。

右が済んだら、次は左。

最後は左右両方。

1センチにも満たない1点から強い快感が全身を駆け巡る。

きつく吸われながら、後ろ手で僕の亀頭をしごかれた時には、はしたないほどの嬌声をあげていた。

 

「あっ...あ...」

 

辺りに響くのはやっぱり、途切れることのない僕の喘ぎ声だけだった。

 

「気持ちいいか?」

 

ユノに問われて、僕は答える。

 

「すごく...気持ちがいい...んあっ...あぁっ」

 

すぐに達してしまっては勿体なくて、根元を握って抑えた。

 

「縛ってやろうか?」

 

「いい、握っているから...っは...」

 

僕はゆっくりと出し入れされながら、ユノと言葉を交わす。

 

「Sさんとは、どういう関係?」

 

衰弱したユノを助ける処置で精いっぱいだった僕が、Sさんに聞けずじまいだった疑問をユノに投げかけた。

 

「古い知り合い」

 

「古くから...」

 

不安げな僕のつぶやきに、ユノは僕の頬を軽く叩いて言った。

 

「昔の恋人だ、とかじゃないから」

 

Sさんがユノのことをよく知っていたから、過去に関係を持っていたのでは、と嫌な思いが浮かんでしまったんだ。

 

「本当にそういうのじゃない」

 

僕は荒々しく四つん這いにされて、突き出された割れ目にユノのものが深くうずめられた

ユノが僕の背にぴったりと覆いかぶさる。

片腕を僕の腰に巻き付け、もう片方で僕の乳首を弄んだ。

ふわりと甘い香りが、僕の鼻孔をくすぐる。

そう、この香りなんだ。

僕を愉楽の蜜の壺に沈めるのは。

下腹部の奥がせり上がり、視界が狭くなってきた。

 

「チャンミンっ...イクよ?...イクよ?」

 

これ以上はないほどのスピードで、かつ奥の奥を小刻みに叩かれる。

僕の最奥に勢いよく放たれた。

僕は男。

決して子種にはならないその白濁は、僕の中を充たし、力を緩めるととろりと漏れ出た。

小一時間も経たずに硬さを取り戻したユノのものは、再び僕の穴に突き立てる。

 

「チャンミンは、若いなぁ」

 

ユノはクスクスと笑った。

 

「そうだよ。

僕は若い」

 

「でももう、小学生じゃない」

 

「その通り」

 

角度を変えて、中の上辺を強めにこすり上げた。

直後に白い喉を反らしたユノに、僕は満足する。

 

「明日になったら、帰るんだ」

 

ユノは僕を横抱きにして挿入する。

 

「僕を...置いて行かないで」

 

「置いて行かない。

ここにいる」

 

力強いユノの腕によって、再び僕はひっくり返されて彼の上にまたがる。

膝を立ててしゃがんだ僕は、腰を上下に振る。

 

「絶対だね?」

 

「ああ。

俺も覚悟を決めた」

 

ついた両手の間で、ユノの紺碧色の瞳が僕をまっすぐ見上げていた。

その場限りの言葉じゃないことが、伝わってきた。

 

「あっ!」

 

身体が反転し、うつ伏せになった僕の腰が高々と引き上げられた。

頬も肩もマットレスにくっ付けて、身体をくの字に折りたたまれた。

 

「チャンミンは、ここをいじられるのが好きなんだよな」

 

僕の入り口がちょうど真上を向いている。

とてもとても恥ずかしい場所が、ユノの目前にさらされている。

2本の人差し指で左右に押し開かれた。

 

「手を離しても...。

ぽっかり開いたまま。

チャンミンのいやらしい穴が開いてるぞ?

どスケベだなぁ」

 

恥ずかしい。

でも、嬉しい。

 

「...んんっ...」

 

「欲しいか?」

 

「うんっ...」

 

「どうされたい?」

 

「挿れて...早く!

早く挿れてよ!」

 

「やだね」

 

「挿れてよ!」

 

僕は突き出したお尻を振って、ユノのものにこすりつけた。

僕の唾液がマットレスを濡らしている。

僕は狂っているんだ。

 

「そんなに欲しいんだ?」

 

「欲しいよ!

ユノが欲しい...欲しいから。

早く!」

 

「可哀想に...」

 

ユノが僕の腰骨をつかんだ直後。

 

「んはっ...!!」

 

高く突き上げられた。

弱いところばかり、ユノの亀頭で刺激される。

 

「ダメダメダメっ...そこ、だめぇ...だめぇ」

 

深く突き刺したまま、僕の腰を上下左右に回転させる。

 

「やっやっ、やぁ...やっ...そこ、そこっ...やあぁ!」

 

玩具みたいにゆさゆさと揺さぶられて、僕のお腹の中で小さな爆発が何度も繰り返される。

全身の力が抜けてしまった僕は、何も見えていない。

1度目より時間はかかったけど、やがて僕は射精を果たした。

 

「はあはあはあはあ...」

 

僕の穴という穴から、ありとあらゆる液体が漏れ出ている。

どれくらい放心していたのだろうか。

もしかしたら、しばらく気を失っていたのかもしれない。

僕の隣で、ユノは半身を起こした。

ユノの背中に見惚れた。

ユノの背骨をひとつひとつ指でなぞり、手の甲で背中を撫で上げた。

美しい身体だった。

それなのに、血が通っていないなんて。

そうか。

温かみがないからこその美貌なのか。

ユノのウエストをさらって、ユノを包み込むようにきつく抱きしめた。

じっとしているだけでじわじわと汗がにじむ中、谷川の水のように冷たいユノの肌が気持ちよい。

割れた窓ガラスから、オレンジ色の夕日の光が差し込んでる。

太ももに当たるものに気付いたユノが、呆れた顔をした。

 

「まだヤルの?」

 

「そうだよ。

あと...18時間しかない。

時間が勿体ないんだ」

 

いつまでも、いくらでも、僕はユノと繋がっていたい。

性器の接触だけが、ユノを身近に繋ぎとめられる唯一の行為だ。

それでいいじゃないか。

僕の心がユノの心には届くことは、最後まで訪れないかもしれない。

 

「僕は...何人目?」

 

気になって仕方がないことを、僕はとうとう口に出す。

 

「ノーコメント」

 

「5人目?

10人目?

それとも...もっと?」

 

僕は構わず、粘った。

 

「今はチャンミンなんだから、それでいいだろう?」

 

「うーん...」

 

はぐらかされて、僕は不機嫌になる。

 

「誘惑して悪かった」

 

「そうだよ。

最後まで責任をとって欲しい」

 

「純粋過ぎるお前が怖くなる」

 

「だから、僕から離れたくなったの?」

 

「そんなところ」

 

「僕は死ぬまでユノの側にいる、何があっても」

 

「勇ましいね」

 

「そうだよ。

僕は勇ましいんだ。

ユノのことが、全然怖くないんだ」

 

乱れた前髪をかき分けて、ユノの額に唇を押し当てた。

暗闇の中、倒してしまった水筒からこぼれ落ち、コンクリートの床に作った赤い染み。

懐中電灯の灯りに照らされて、赤く光った瞳。

 

「狂ってるね」

 

「そうだよ。

僕は狂っているんだ」

 

 

(つづく)