~チャンミン~
目覚めると、寝室の中は薄暗かった。
病院で処方された薬をきちんと服用し、ぐっすりと眠ったから気分爽快だ。
抗生物質(これは風邪のため)と消炎鎮痛剤(これは頭痛のため)
それから頭痛予防薬(毎日服用)の3種類。
僕は弾みをつけて起き上がると、乱れた毛布はそのままに、ペタペタ裸足でベッドルームを出た。
リビングの照明は点けていなかったので、全面ガラス張りの窓から、外の景色がよく見えた。
僕の部屋は、18階。
僕は、ショーツだけ身に着けただけの格好で、窓の縁に腰掛けた。
規則正しく並ぶビル群の明かりと、眼下を走る車のライトが無数に光っている。
いつもこんな景色は目にしているのに、見ようとしていなかったに違いない。
夜景を見て、初めてきれいだと感じる自分に驚いた。
こんなにきれいな景色を目にしても、乏しい僕のボキャブラリーじゃ、「きれい」としか表現できない自分。
僕はこれまで、余程ぼんやりと生きてきたんだと思う。
熱のせいか分からないけど、フィルターがかかったような視界が晴れてきた。
目にするものや聞こえるもの、匂いや感触に敏感になったみたいだ。
敏感に反応して、僕の感情が激しく動いているのが分かる。
何だかじっとしていられない、というか...。
発見したのは、僕にも「感情」とやらがあること。
僕の「感情」を呼び覚ましたきっかけは、きっとユノだ。
淡々と無感情に生きてきた僕だった。
嬉しいも悲しいも何もなかった僕だけど、この感じは全然嫌じゃない。
この点が驚きだ。
急に可笑しくなって、くすくす笑ってしまった。
ひとり笑いなんて、気持ち悪いぞ。
完全に日が暮れて、部屋が真っ暗なのに気づいて、ようやくライトを点けた。
窓ガラスに、ボサボサ頭の僕が映っている。
髪を乾かさずに眠ったせいだ。
僕の髪の毛は頑固だから、手ぐしでなでつけるだけじゃ大人しくなってくれない。
もう一回シャンプーをして、ドライヤーでセットしよう。
ちらっとユノ顔を思い浮かべたのは確か。
ぼさぼさ頭の僕なんか見せられないよ。
きちんとした姿を見てもらいたい。
シャワールームに向かう動線上に、脱ぎ散らかした洋服や下着が、散らばっていることに気づいた。
僕は、1枚1枚拾い集めながら、
「はぁ、全く...」とつぶやいた。
僕はどうかしてる。
ありえない、こんな僕はありえない。
(つづく)
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