義弟(70)

 

~チャンミン~

 

 

一昨日から「抱いて」とねだっているのは僕ばかりだ。

義兄さんの方から肌に触れてくれない。

義兄さんから飛び上がるほど嬉しい言葉をもらったばかりなのに、再び僕の心に不安感が忍び寄る。

僕はいつからこれほどまでに『不安屋』になってしまったんだろう。

思い出してみて、義兄さんと関係を持つようになる前からだったことに愕然とした。

そうか...僕は義兄さんといると不安になってしまうんだ。

僕は「不倫をしている」意識が、実は上っ面でしか感じていなかったんだ。

無意識に、「悪いことをしている事実」から避けていたことが、1年以上経ってようやく、僕の心を苦しめだした。

 

「駄目だ。

場所を考えろ。

それに、そろそろ...」

 

義兄さんはドアの方を振り返り、首を横に振った。

僕ばかりおねだりしている。

義兄さんは大人だから、我慢ができるんだろうな。

それに、僕と関係を持つことに罪の意識を抱き続けてきた、とはっきり認めたじゃないか。

緊張と不安だらけなのに、僕のアソコは勃ち上がっていた。

 

「駄目だ。

...駅まで送ってやれないから、タクシーを使いなさい」

 

財布を取り出した義兄さんの手を、払った。

 

「...チャンミン」

 

「子供扱いは、止めて下さい!

そういうこと...悲しくなるから、止めて下さい」

 

義兄さんは床に落ちた財布...ブランドものの高価なものなんだろう...を拾い上げた。

それはきっと、姉さんからの贈り物なんだ。

...それに、義兄さんの手首を飾るブレスレットがずっと、ずっと気になっていた。

突然の僕の出現に驚いた義兄さんは、外す間がなかったんだろうけど...。

 

「チャンミン...。

俺はお前が大事...好きだ。

この気持ちはホンモノだ。

チャンミンが不安がっていると、俺まで胸が痛くなる」

 

「そう言うんでしたら...」

 

僕はスニーカーとコートを脱いだ。

 

「チャンミンっ!」

 

駆け寄り、僕の腕を制止する義兄さんの手を、全力で振り切った。

 

「離して下さい!」

 

パーカーもボトムスも脱いだ。

羽交い絞めする義兄さんを突き飛ばした。

最後の一枚を脱いでしまった時には、義兄さんは諦めたようだった。

暖房がついているとはいえ、この部屋は広い。

鳥肌が立った。

 

「俺を信じろ。

何を怖がってる?」

 

「義兄さんはっ...。

どうして結婚してるんですか!?」

 

「だから、1年待ってくれ、と...」

 

「どうしてっ...姉さんと結婚してるんですか!?」

 

姉さんとの結婚がなければ、僕と義兄さんは出逢っていなかった。

分かってる。

そんなことくらい、子供の頭でも分かってる。

 

「どうして僕は子供なんですか!?

どうして僕は男なんですか!?

義兄さんは大人なんですか!?」

 

僕は義兄さんの二の腕をつかんで、前後に揺すった。

義兄さんのスーツにしわがついてしまっても、構わなかった。

 

「チャンミン、落ち着け」

 

床に崩れ落ち嗚咽する僕の背中を、優しく撫ぜた。

 

「ありがとう」

 

義兄さんの言葉の意味が分からず、彼を見上げた。

 

「俺に正直な気持ちを吐き出してくれて、ありがとう。

俺がどれだけ『好きだ』と伝えても、安心できないくらい、チャンミンは不安なんだね?

隠さず教えてくれてありがとう」

 

「え...」

 

「チャンミンの気持ちを分かってやろうとしなかった、これまでの俺が悪いんだ。

ちゃんとした会話もなかった。

今は...」

 

義兄さんは僕の頬を両手で包み込んで、唇を押し当てた。

途端に僕の膝の力が抜ける。

いつものように口を開いて、義兄さんの中に舌を入れようとしたら、彼は唇を離してしまった。

 

「え...」

 

唖然とする僕の手を義兄さんは握った。

 

「今は...これからは、チャンミンの不安な気持ちを理解する努力をするから。

チャンミンはまだ17...ははっ、ごめん。

子供扱いは禁止だったね」

 

義兄さんは僕の手を引いて、部屋の奥に置かれたソファまで誘った。

 

「...義兄さん?」

 

義兄さんは僕の背を力強く、でも優しく押した。

そして、ベルトを外す音。

僕はソファの座面に両手をついて、お尻を突き出した。

後ろを振り向くと、義兄さんは自身のものをしごいていた。

 

「...は、ぁ..」

 

僕のあそこに、唾液で濡れた義兄さんの指。

それだけで、僕の全身に鳥肌がたった。

しごいて十分なサイズまで育てたもの。

弾力あるものが、割れ目に押し当てられ、円を描く。

 

「力を抜いて。

痛いかもしれない」

 

「大丈夫...です」

 

僕の腰は、義兄さんの力強い手で抱えられた。

熱い熱い手だった。

僕は目をつむり、ついた両手を握りしめた。

 

「...はぁ...はっ」

 

義兄さんは抜き刺ししながら、僕に負担がかからないよう時間をかけて埋めてゆく。

 

「...んっ...ん...」

 

「痛いか?」

 

入口の縁と義兄さんの根元が擦れて、痛かったけれど我慢した。

僕はぶんぶん首を左右に降った。

痛い、なんて言ったら、義兄さんは止めてしまう。

これ以上は挿入できないところまで埋めると、奥深く埋めたまま、僕の腰を揺らした。

僕の視界は、ソファの合皮の黒。

視線をもっと奥に移すと、義兄さんのスラックスの足とつやつやの靴...僕ときたら靴下を履いたままだった。

もっと深く繋がりたくて、ソファの座面に乗って両膝を折った。

僕の中で義兄さんの先が、こりこりと僕の快感スポットを執拗に刺激する。

ゆさゆさと僕の身体が揺さぶられる。

 

「...あっ...はっ...あ、あぁ...」

 

義兄さんの手が僕の前に伸びて、僕のものを握った。

 

「はぅっ...」

 

先走りを塗り広げながら、僕のものを素早くしごく。

 

「やっ...離して、ダメ...」

 

「しー。

静かに。

声は我慢だ」

 

「でもっ...んんっ」

 

前も後ろも同時にいたぶられて、ソファの黒なんて目に入らなくなる。

義兄さんは、「これを噛んで」と、ソファに丸まっていた毛布を取って寄こした。

ついた手から振動が伝わり、ソファがきしむ。

 

「...んん、んっ..」

 

鳥肌なんてとっくに消えて、全身に甘い汗の膜がはる。

しっかり腕で身体を支えていないと、つんのめってしまう。

前髪から落ちた汗が、合皮の座面にぼたぽた落ちる。

 

「んっ、くっ...んん..んっ、くっ」

 

背もたれをつかんで、義兄さんの前後の振りを受け止めた。

僕の背に義兄さんがのしかかる。

義兄さんの片手が顎に添えられ、半ば強引に振り向かせた。

僕の肩ごしに、義兄さんと口づける。

唇を合わせた中で、僕らの舌は激しく踊る。

僕に負担をかけないよう、義兄さんのものは深く埋められたままだ。

そして、僕の腰をつかんで、前後左右、上下にと僕を揺する。

その度に義兄さんの先が、いいところに当たったり、より深いところを刺激したり...。

 

「やっ、やっ...だめ」

 

「しー」

 

意識が飛びそうだ。

当然、涙が出る。

この涙は、先ほどまでのものとは種類が違う。

陶酔の涙。

 

 

義兄さんの「好き」がこもった言葉を沢山もらったのに、僕は全然、満足しないんだ。

義兄さんとの関係が深まるごとに、僕はどんどん欲張りになる。

不安ばかり育ててしまう。

小さな言動で、たやすく揺れてしまう僕の心。

大人になれば、義兄さんのように自信が持てて、冷静になれるのかな。

 

...1年。

 

義兄さんはそれまでに、何を準備するんだろう。

義兄さんが何をしようとするのか、僕でも分かった。

怖くて口に出すことは出来ない。

1年待て、と言っていた。

「今」僕らの関係を明らかにするのは得策じゃない、と義兄さんは言っていた。

どうして?

僕が好きならば、「今すぐ」でもいいのに...。

義兄さんの思惑が、僕には理解できない。

1年後に、僕と別れるつもりなのかな。

飛躍した考えがつい浮かんでしまい、「こんな風だから僕は駄目なんだ」とすぐに打ち消した。

僕と義兄さんと姉さん。

3人ともぐちゃぐちゃになる。

義兄さんのブレスレットが、しゃらしゃら音を立てる。

僕のものをスライドさせる手の速度が増した。

 

「んっ...んっ、ん、くっ、んんー...んんーっ」

 

毛布に閉じ込められて、僕の喘ぎは喉にこもる。

 

「ん、ん...くっ...」

 

義兄さんの唸り声。

僕のお尻に密着した義兄さんの腰が、くくっと大きく痙攣した。

義兄さんが出したものを、僕の中いっぱいに広がるのがわかる。

お腹の底からぞくぞくとした快感が沸き上がる。

義兄さんはテーブルからウェットティッシュを取って引き返してきた。

床にうずくまる僕の頭を撫ぜた。

そして、ソファに放たれた僕のものを拭き取った。

 

(つづく)