~チャンミン~
一昨日から「抱いて」とねだっているのは僕ばかりだ。
義兄さんの方から肌に触れてくれない。
義兄さんから飛び上がるほど嬉しい言葉をもらったばかりなのに、再び僕の心に不安感が忍び寄る。
僕はいつからこれほどまでに『不安屋』になってしまったんだろう。
思い出してみて、義兄さんと関係を持つようになる前からだったことに愕然とした。
そうか...僕は義兄さんといると不安になってしまうんだ。
僕は「不倫をしている」意識が、実は上っ面でしか感じていなかったんだ。
無意識に、「悪いことをしている事実」から避けていたことが、1年以上経ってようやく、僕の心を苦しめだした。
「駄目だ。
場所を考えろ。
それに、そろそろ...」
義兄さんはドアの方を振り返り、首を横に振った。
僕ばかりおねだりしている。
義兄さんは大人だから、我慢ができるんだろうな。
それに、僕と関係を持つことに罪の意識を抱き続けてきた、とはっきり認めたじゃないか。
緊張と不安だらけなのに、僕のアソコは勃ち上がっていた。
「駄目だ。
...駅まで送ってやれないから、タクシーを使いなさい」
財布を取り出した義兄さんの手を、払った。
「...チャンミン」
「子供扱いは、止めて下さい!
そういうこと...悲しくなるから、止めて下さい」
義兄さんは床に落ちた財布...ブランドものの高価なものなんだろう...を拾い上げた。
それはきっと、姉さんからの贈り物なんだ。
...それに、義兄さんの手首を飾るブレスレットがずっと、ずっと気になっていた。
突然の僕の出現に驚いた義兄さんは、外す間がなかったんだろうけど...。
「チャンミン...。
俺はお前が大事...好きだ。
この気持ちはホンモノだ。
チャンミンが不安がっていると、俺まで胸が痛くなる」
「そう言うんでしたら...」
僕はスニーカーとコートを脱いだ。
「チャンミンっ!」
駆け寄り、僕の腕を制止する義兄さんの手を、全力で振り切った。
「離して下さい!」
パーカーもボトムスも脱いだ。
羽交い絞めする義兄さんを突き飛ばした。
最後の一枚を脱いでしまった時には、義兄さんは諦めたようだった。
暖房がついているとはいえ、この部屋は広い。
鳥肌が立った。
「俺を信じろ。
何を怖がってる?」
「義兄さんはっ...。
どうして結婚してるんですか!?」
「だから、1年待ってくれ、と...」
「どうしてっ...姉さんと結婚してるんですか!?」
姉さんとの結婚がなければ、僕と義兄さんは出逢っていなかった。
分かってる。
そんなことくらい、子供の頭でも分かってる。
「どうして僕は子供なんですか!?
どうして僕は男なんですか!?
義兄さんは大人なんですか!?」
僕は義兄さんの二の腕をつかんで、前後に揺すった。
義兄さんのスーツにしわがついてしまっても、構わなかった。
「チャンミン、落ち着け」
床に崩れ落ち嗚咽する僕の背中を、優しく撫ぜた。
「ありがとう」
義兄さんの言葉の意味が分からず、彼を見上げた。
「俺に正直な気持ちを吐き出してくれて、ありがとう。
俺がどれだけ『好きだ』と伝えても、安心できないくらい、チャンミンは不安なんだね?
隠さず教えてくれてありがとう」
「え...」
「チャンミンの気持ちを分かってやろうとしなかった、これまでの俺が悪いんだ。
ちゃんとした会話もなかった。
今は...」
義兄さんは僕の頬を両手で包み込んで、唇を押し当てた。
途端に僕の膝の力が抜ける。
いつものように口を開いて、義兄さんの中に舌を入れようとしたら、彼は唇を離してしまった。
「え...」
唖然とする僕の手を義兄さんは握った。
「今は...これからは、チャンミンの不安な気持ちを理解する努力をするから。
チャンミンはまだ17...ははっ、ごめん。
子供扱いは禁止だったね」
義兄さんは僕の手を引いて、部屋の奥に置かれたソファまで誘った。
「...義兄さん?」
義兄さんは僕の背を力強く、でも優しく押した。
そして、ベルトを外す音。
僕はソファの座面に両手をついて、お尻を突き出した。
後ろを振り向くと、義兄さんは自身のものをしごいていた。
「...は、ぁ..」
僕のあそこに、唾液で濡れた義兄さんの指。
それだけで、僕の全身に鳥肌がたった。
しごいて十分なサイズまで育てたもの。
弾力あるものが、割れ目に押し当てられ、円を描く。
「力を抜いて。
痛いかもしれない」
「大丈夫...です」
僕の腰は、義兄さんの力強い手で抱えられた。
熱い熱い手だった。
僕は目をつむり、ついた両手を握りしめた。
「...はぁ...はっ」
義兄さんは抜き刺ししながら、僕に負担がかからないよう時間をかけて埋めてゆく。
「...んっ...ん...」
「痛いか?」
入口の縁と義兄さんの根元が擦れて、痛かったけれど我慢した。
僕はぶんぶん首を左右に降った。
痛い、なんて言ったら、義兄さんは止めてしまう。
これ以上は挿入できないところまで埋めると、奥深く埋めたまま、僕の腰を揺らした。
僕の視界は、ソファの合皮の黒。
視線をもっと奥に移すと、義兄さんのスラックスの足とつやつやの靴...僕ときたら靴下を履いたままだった。
もっと深く繋がりたくて、ソファの座面に乗って両膝を折った。
僕の中で義兄さんの先が、こりこりと僕の快感スポットを執拗に刺激する。
ゆさゆさと僕の身体が揺さぶられる。
「...あっ...はっ...あ、あぁ...」
義兄さんの手が僕の前に伸びて、僕のものを握った。
「はぅっ...」
先走りを塗り広げながら、僕のものを素早くしごく。
「やっ...離して、ダメ...」
「しー。
静かに。
声は我慢だ」
「でもっ...んんっ」
前も後ろも同時にいたぶられて、ソファの黒なんて目に入らなくなる。
義兄さんは、「これを噛んで」と、ソファに丸まっていた毛布を取って寄こした。
ついた手から振動が伝わり、ソファがきしむ。
「...んん、んっ..」
鳥肌なんてとっくに消えて、全身に甘い汗の膜がはる。
しっかり腕で身体を支えていないと、つんのめってしまう。
前髪から落ちた汗が、合皮の座面にぼたぽた落ちる。
「んっ、くっ...んん..んっ、くっ」
背もたれをつかんで、義兄さんの前後の振りを受け止めた。
僕の背に義兄さんがのしかかる。
義兄さんの片手が顎に添えられ、半ば強引に振り向かせた。
僕の肩ごしに、義兄さんと口づける。
唇を合わせた中で、僕らの舌は激しく踊る。
僕に負担をかけないよう、義兄さんのものは深く埋められたままだ。
そして、僕の腰をつかんで、前後左右、上下にと僕を揺する。
その度に義兄さんの先が、いいところに当たったり、より深いところを刺激したり...。
「やっ、やっ...だめ」
「しー」
意識が飛びそうだ。
当然、涙が出る。
この涙は、先ほどまでのものとは種類が違う。
陶酔の涙。
・
義兄さんの「好き」がこもった言葉を沢山もらったのに、僕は全然、満足しないんだ。
義兄さんとの関係が深まるごとに、僕はどんどん欲張りになる。
不安ばかり育ててしまう。
小さな言動で、たやすく揺れてしまう僕の心。
大人になれば、義兄さんのように自信が持てて、冷静になれるのかな。
...1年。
義兄さんはそれまでに、何を準備するんだろう。
義兄さんが何をしようとするのか、僕でも分かった。
怖くて口に出すことは出来ない。
1年待て、と言っていた。
「今」僕らの関係を明らかにするのは得策じゃない、と義兄さんは言っていた。
どうして?
僕が好きならば、「今すぐ」でもいいのに...。
義兄さんの思惑が、僕には理解できない。
1年後に、僕と別れるつもりなのかな。
飛躍した考えがつい浮かんでしまい、「こんな風だから僕は駄目なんだ」とすぐに打ち消した。
僕と義兄さんと姉さん。
3人ともぐちゃぐちゃになる。
義兄さんのブレスレットが、しゃらしゃら音を立てる。
僕のものをスライドさせる手の速度が増した。
「んっ...んっ、ん、くっ、んんー...んんーっ」
毛布に閉じ込められて、僕の喘ぎは喉にこもる。
「ん、ん...くっ...」
義兄さんの唸り声。
僕のお尻に密着した義兄さんの腰が、くくっと大きく痙攣した。
義兄さんが出したものを、僕の中いっぱいに広がるのがわかる。
お腹の底からぞくぞくとした快感が沸き上がる。
義兄さんはテーブルからウェットティッシュを取って引き返してきた。
床にうずくまる僕の頭を撫ぜた。
そして、ソファに放たれた僕のものを拭き取った。
(つづく)