~チャンミン17歳~
アトリエで抱き合う時はいつも、不意の来客や帰宅時間を気にしていた。
イベント先のホテルでは確かに素晴らしいものだったけれど、X氏のことで頭がいっぱいで、義兄さんをまるごと味わい尽くすまではいっていなかった。
今日は違う。
「ホテルに行きたい」
大人な発言に、たくさんの勇気が必要だった。
前に後ろにとひっくり返されるたび、違うところが刺激される。
繋がる角度を変えても、特に敏感なところを義兄さんはたちまち見つけ出して、そこばかり集中的に攻めるのだ。
「チャンミンはこれが好きだよね」と、視覚的にも僕を煽るのだ。
顎と両肩を床にぺたりとくっつけ、腰だけを高く突き出した姿勢。
真下へと義兄さんのものが突き落とされると、内臓にずんと響く。
埋められた義兄さんのものを肌ごしに感じとれるんじゃないかと、確かめようと下腹に触れてしまう。
義兄さんが言うには、僕は関節が柔らかいのだとか。
同じことをX氏にも言われたことがあって、一瞬彼の汚らしい顔が浮かびそうになって、その記憶を振り払った。
違う...X氏の時は無理やりのものだ。
義兄さんに身を任せると、僕の身体は軟体動物に変化して、彼の要望通りにどんな体位でも応えられるのだ。
身体を濡らしていたシャワーのお湯は、いつしか塩辛い汗に変わっていた。
浅黒い僕の肌と、興奮で上気した義兄さんの白い肌。
このコントラストに、ああ、僕らは抱き合っているんだと、実感するのだ。
気持ちがいい。
幸せだ、って。
ずっとこの時が続いて欲しいって。
最後には呼吸困難になってしまい、白目をむいてひーひー言う僕の背を撫ぜてくれる。
義兄さんは虚脱しきった僕の身体を、背後から抱きしめていた。
・
後始末も兼ねて、僕らはもう一度共にシャワーを浴びた。
義兄さんは僕の全身を、泡立てた固形石鹸を滑らせて洗ってくれた。
僕も義兄さんの全身を、真っ白な泡のクリームまみれにした。
僕らはずっと笑っていた。
笑い過ぎて、泡が口に入ってしまう。
義兄さんにその口を塞がれてかき回され舐めとられて、唇を離した彼は「美味しいものじゃないな」って、笑っていた。
義兄さんの目尻のしわを、カッコいいと思った。
・
「義兄さんにあげたいものがあります」
「なんだろう。
楽しみだなぁ」
義兄さんは飲み干したスポーツドリンクの缶をテーブルに置くと、姿勢を正して座り直した。
2か月越しにやっとで渡せるものだった。
ディパックから出したものを背中に隠した。
「遅くなってしまいました。
誕生日プレゼントです」
義兄さんの眼は期待の光でキラキラしていて、僕は急に自信がなくなった。
「どうぞ」
紙袋から、リボンをかけた箱を手渡した。
「僕の...気持ちです」
その箱は、義兄さんの大きな手に相応しい品格があった...僕にはそう見えた。
リボンを解く義兄さんの指を、僕はじぃっと見守った。
義兄さんの手は震えておらず、さすが大人だと思った。
ドキドキした。
怒られるかもしれない。
心臓が喉から飛び出そうだった。
ついに蓋が開いた。
義兄さんの瞳が一瞬拡大した。
すっと息を吸ったまま、呼吸を忘れてしまったかのように、義兄さんは箱の中身に視線を落としたまま、黙りこくっている。
やっぱり...。
気に入ってもらえるかどうかより、心配しなければならないのは、怒られることだった。
「チャンミン...お前はなぁ...」
怖くなった僕はうつむいて、咎めているだろう義兄さんの視線から逃れた。
「ここに座って」
義兄さんはソファの座面を叩いた。
僕にモデルを依頼した日は、義兄さんの隣に座るものかと、ソファの端っこに座ったんだ。
今の僕も、義兄さんが怖くて少し離れたところに座った。
「もっと近くにおいで」
僕の肩は義兄さんに引き寄せられ、僕の頭は彼の肩に押し当てられた。
「驚かせるんだから。
随分なものをくれるんだから」
「...ごめんなさい」
「なぜ謝る?」
義兄さんは箱の中のものをそぅっと取り出して、手首に巻いた。
手つきが丁寧だった。
「ありがとう」
義兄さんの背中に腕を回し、力いっぱい抱きしめた。
義兄さんは「高かっただろ?」とも、「どこからこんなお金を?」とも、一言も口にしなかった。
そのことが嬉しかった。
僕の頭は優しく何度も撫ぜられた。
僕の頭に置かれた義兄さんの手首から、秒針の音は聴こえない。
高いなんてひとことで済まされない程、高かったものだもの。
滑らかに針は時を刻む。
1年分のバイト代をはたいて買ったものだった。
高校生ひとりで足を踏み入れるには相応しくない店で、Mに付き添ってもらった。
いつか贈ろうと計画していた。
姉さんが贈ったブレスレットより、高価なものだ。
...多分。
(つづく)
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