(6)僕の失恋日記

 

ー15年前の2月某日ー

 

使い道のなかったバイト代で、パソコンを購入することにした。

同じくバイトが休みだったユノを誘って、大型電化店××に行く。

予算に余裕があったから、プリンターも購入。

家具店に寄って、PCデスクとキャスター付きチェアを購入。

これで環境づくりはばっちりだ。

僕はこれから小説を書く。

恋愛小説を書く。

 

(※BLを書くようになったのは、CCの失恋がきっかけだ。

男女の恋愛であってもよかったのに、BLを選択した理由は単純だ。

男女のエロシーンの描写がうまくできなかっただけだ。

女性のあそこの構造がイマイチわからない)

 

 

付き合ってくれたお礼に、ランチを御馳走した。

ユノの元気がないのが気になった。

「どうかしたの?」と尋ねたら、「そういうバイオリズムなんだ」とはぐらかされてしまった。

 


 

―15年前の3月某日―

 

ぽかぽか陽気。

冬ものコートの出番も終わりか。

 

【覚え書き】

慌ててクリーニング屋に預けないこと。

(急に冷え込む日があるから)

 

薄手のジャンパーを引っ張り出す。

袖口にほつれがあった。

左胸のあたりにシミがあった。

(食べ物の汁をつけたまま、しみ抜きせずに放置していたせいだ)

 

これを着ると、CCの結婚報道があった頃を思い出す。

あの日僕はこれを羽織って、朦朧とした頭で電車に乗って帰宅したんだ。

新しいジャンパーを買ってもいいかもしれない。

 

 

明日から、妹が2泊3日で僕の部屋に泊まりにくる。

ここで2つの問題が持ち上がった。

(引き受けた時、CCのことで脳みそがかかりっきりになっていた)

1.布団が一組しかないこと。

2.CCグッズの隠し場所。

(※僕がCCに溺れていたことを、家族は知らない)

ユノに電話して、2泊の宿とCCグッズの避難場所の提供をお願いした。

ユノは快くOKしてくれた。

でも、声が沈んでいるようだったから気になった。

 


 

どんなに塞ぎこんでいても、自堕落な生活をしていようと、

いつまでもはらはらと涙をこぼしていても、

CCが僕の肩を抱いて慰めてくれることは永遠にない。

CCは僕の存在を知らないんだ。

ファンという集合体の点々のひとつに過ぎない。

CCは巧妙に計算された末の姿しか、僕らに見せない。

CCのプライベートを目にすることは永遠に訪れない。

ここで、ユノのたとえ話を思い出す。

「CCが禿げ頭でも好きでいられるか?」

CCのプライベートに近づけない僕は、CCの人生に責任を持つ必要はないんだ。

増毛(育毛?植毛?)サロンへの送り迎えをしなくてもいいし、

「娘さんをください」と挨拶にきた娘の彼氏が30歳年上バツ3男だったりして、絶句しなくていいし、

大豆の先物取引に失敗して全財産を失って、共に路頭に迷うこともない。

(ユノのことだから、無茶苦茶なたとえ話を用意したはずだ)

このことにようやく身をもって気付き始めたようだ。

そして、外の景色に目がゆくようになった頃だった。

 


 

商店街の喫茶店、閉店時間は18時だ。

窓ガラスの外、アーケード街は買い物客で混雑している。

この席に3時間は居座っている。

店内は僕以外に3人しか客がおらず、嫌な顔はされない。

(それでも気を遣って、コーヒーを2回おかわりし、サンドイッチを注文した)

 

ユノの家に初めて行ったのは3月だったのか。

寒かった記憶しかなくて、2月頃かなと思い込んでいた。

 

 

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