外壁は深い青色に、窓枠は白色に塗られている。
チャンミンは玉砂利をざくざくいわせて、アプローチを歩く。
前庭は鉢植えひとつなく殺風景。
(木や花を植えたらいい感じになるよね。
鉢植えを持っていったら...差し出がましいかな)
この店に行き詰めになって数カ月も経つのに、ドアノブを握る手が震える。
「こんにちは」
木製ドアを開けると、天井も壁も床も真っ白で眩しい。
「坊主、今日も来たのか?」
カウンターの奥で笑顔で迎えたのは、20代後半長身の男性、ユノ店長だ。
「『坊主』って言うの、止めて下さいよ。
僕の名前は『チャンミン』です」
チャンミンはぷぅと頬を膨らませ、カウンター席についた。
「ごめんごめん」
ユノ店長の顔をまとも見られないチャンミンは、メニュー表を表裏とひっくり返していた。
そんなもの見なくても、この店のメニューなんてすべて把握しているのに、迷っているフリをする。
「今日は何にする?」
「うーんと、カフェモカ」
チャンミンのオーダーに、「面倒なものをオーダーするなぁ」と、ユノは顔をしかめた。
「店長のスキルアップの為ですよ」
「ふん。
年下の客にアドバイスをもらうとは」
「だってさ...コーヒーひとつ淹れられなくて、よくカフェを始めようと思いましたよね」
「ねえ、店長。
僕の身体は、この店のメニューで出来てますね」
そう言って、チャンミンはツナサンドイッチを頬張った。
チャンミンのリクエストで生まれたメニューだった。
「そうだな」
「まるで...。
一緒に住んでいるみたいですね」
「...え?」
ユノ店長の一挙手一投足、あくびのひとつも見逃さず見つめてきたチャンミンだった。
けれどもこの直後、チャンミンはくしゃみ2連発とタイミングが悪かった。
ユノ店長の頬がさっと赤らんだ瞬間を見逃してしまった。
「風邪か?」
ユノ店長が放ったティッシュペーパーの箱をキャッチした。
「そうかも...しれません。
友だちんちに泊まった時、雑魚寝だったので」
「へぇ...チャンミンにも友だちがいるんだ?」
自身の何気ない発言が、ユノを嫉妬させるとは、チャンミンは思いいたらない。
「酷いですね。
僕だっていますよ」
「うちの店に来るよう、その友達に頼んでよ。
まだまだ客が少なくてね。
新しい客は大歓迎だよ」
「う~んと...」
チャンミンは一瞬、迷う。
(はっきり言っちゃってもいいのかなぁ)
「イヤです。
ここは紹介したくないですね」
「そう...だろうな。
狭いし、気のきいたものも出せないし」
と、揶揄したユノ店長に、チャンミンは慌てた。
「違います違います!
店長の店は人気が出てもらったら困るだけです」
「...それじゃあ、うちが潰れてしまうだろう?」
「僕がここに入り浸ってあげますよ。
朝も昼も夜も、ここでご飯を食べます。
その為に僕はバイトをしているんだから」
ユノ店長は、チャンミンの言葉に胸を打たれていた。
「ここは僕専用の店です」
「既にそんな感じだぞ?」
「でも...繁盛してくれないと、店長の生活が成り立たないから...。
そうだ!
僕を雇ってくださいよ。
店長と一緒にカウンターに立ちます」
(お客が店長を好きにならないよう、僕が見張っています...なんて、言えないなぁ)
「それから、バイト代は要りません。
代わりにご飯を食べさせてくださいね」
(おしまい)
[maxbutton id=”23″ ]