~ユノ~
「セックスを嫌悪しているかもしれない」
身体を洗いながらできる話題じゃない。
泡を洗い流した後、湯船に浸かった。
この俺の行動に、先に湯船に浸かっていたチャンミンは驚いたようだった。
「小学6年の時だっけな
この年頃ってさ、オナニーを覚えるじゃん?」
チャンミンはうーんと、視線を宙に彷徨わせたのち、
「僕はもうちょっと早かったかな。
小学3年生...もうちょっと早かったかな...2年生頃?」と言った。
(早っ!
なんと早熟な!)
「へえ、マセてたんだなぁ」
「そう...なるかなぁ。
いじってたら気持ちがいいってことに気づいてさ。
エッチな気持ちもプラスされたのは、5年生頃だよ」
おかずにしたのは『男』だったのか訊いてみたかったけれど、話が脱線してしまうから後日にまわそう。
誰にも打ち明けるつもりのなかった秘密だ。
「この子だ」と思えた子としかしたくない主義は、今から話す出来事の結果だ。
なぜ、チャンミンになら暴露してしまってもいい、と判断したのか?
これも俺の偏見なんだろうけど、男が好きなチャンミンは恋愛ごとや、セックスがらみのことで、何かと嫌な思いをしたり、悩みを抱えたことが多かったんじゃないかと想像している。
同性同士だから、異性間の恋愛と比較して苦労も多い、と思い込んでしまうあたりが俺の偏見だ。
下半身事情に詳しいだろうし、俺のカミングアウトに深刻ぶった反応を見せないだろうといった安心感があった。
そうであっても、勇気は必要だった。
すくったお湯でごしごし顔を洗った。
(お湯は、入浴剤が投入されていてイチゴミルク色をしていた。香りは薔薇?その辺のことに俺は疎い)
「近所の子らと...中学生もいた...部屋に集まってさ、エロ動画を見たんだ。
俺は初心な子供でさ、11歳になるまでどうすれば子供ができるのか知らなかったくらいだったんだ。
保健体育で説明はあったけど、精子がどうやって女の人のアソコに到達するのか謎だったんだ。
お空を飛んでいくんだとか、一緒に風呂に入った時に水中を泳いでいくとか...」
チャンミンは湯船の縁に頬杖をついて、俺を馬鹿にすることなくじっと、恥ずかしい打ち明け話に耳を傾けてくれている。
「そりゃあ、勃つだろう?」
「うん、分かるよ」
「3、4人集まっていたかなぁ。
俺が一番年下だった。
勃ってるのバレてしまって、『見せてみろ』ってなっちゃってさ。
『どうぞどうぞ、見てください』なんて言えるわけないだろう?」
「うん。
でも、ユノのは平均値はクリアしてるから、自信もっていいんじゃないの?」
(平均値...そうか、チャンミンはこれまで何本ものアレを目にしてきたわけだ。
説得力はある。
...しかし、今はサイズを論ずる時じゃないのだ)
「デカいとか小さいとか気にするトコまで、マセてねぇよ。
いいか?
精子が尻尾をパタパタして、女の人のソコめがけて飛ぶんだと思ってたくらいのガキだぞ?」
「...そっか」
「でさ、最悪なことに、勃ったあそこをさ、好きな子にバッチリ見られちゃった。
その子の兄ちゃんちに集まってたんだ」
「...うわぁ...」
チャンミンは大量にかいた汗をぬぐうついでに、両手で前髪をかきあげた。
真っ直ぐ太めの眉が露わになったことで、フェミ男だとみなしていたチャンミンにも男らしい表情があるんだと、ドキリとした。
(男の象徴をぶら下げてはいるが、俺にとってチャンミンは男であって男じゃないのだ)
「で、どうなったの?」
「ご想像通り。
嫌われたよ。
小学校を卒業するまでの1年間、完全無視だった。
けがらわしいものを見る目だったなぁ...」
「けがらわしい目、ってとこがポイントなんだね」
「たかだか2,3秒のことだったと思うけど、俺とその子は目を合わせていた。
その子が襖をぴしゃっと閉めて、階段を下りていった。
その子が襖を開けて、閉めていってしまうまで、音が消えていたね。
で、襖が締まった途端、音が戻ってきた。
PCのスピーカーから、女の人がひーひー喘いでいる声がね。
苦しがっているように聞こえた。
...醒めた」
「思春期の入り口に立ったばかりの女子には、ショッキングだったろうね。
その子もユノのことが好きだったりしたら...トラウマになっちゃっただろうね」
「人にしてみたら大したことないかもしれんが、俺にとっては大事件だった。
精神的にじわっとくるヤツ。
俺は...女の子にアレを見せるのが怖いんだ。
それから、ネコみたいな声を出す女の子にも、引いてしまうと思う」
言い終えた時、チャンミンは派手な水音をたてて立ち上がった。
俺のちょうど目の高さに、つるっつるな色素薄めなアレがぶら下がっていた。
(つづく)
[maxbutton id=”23″ ]