~ユノ~
「『してみる?』って、つまり...?」
何を意味しているのかちゃんと理解しているのに、俺はとぼけている。
「つまりもなにも、僕と『セックスしましょう』という意味だよ」
「......」
再び俺は黙り込んでしまった。
チャンミンという男の言葉...冗談めかしているがおそらく本気。
俺の両腿の間にチャンミンの腰がすっぽりおさまっている。
高い大理石調の天井に反響しているかのように、「セックス」のワードが俺の耳にしつこく残っていた。
俺の喉仏がごくり、と上下した。
照明を消しているせいで、水音がうるさい。
隣室からシャワーの音が聞こえる。
このアパートが本来の目的に使用されていた頃(つまり、ラブホテルとして営業していた頃のこと)、さぞかし妖しい声が漏れまくっていただろうな、と予想する俺だった。
女の子を喘がせたことのない俺が言うのも何だけど...。
「ねぇ、ゆの」
俺からの返答待ちだったチャンミンは、しびれを切らしたようだ。
「......」
「僕と今からセックスしましょう」
「は~!?
なんで俺がお前と、セ...セッ...エッチしないといけねぇんだよ!
意味分かんね~」
「僕とのセックスには深い理由はないよ」
「!」
俺たちの身体が、ぼわっとピンク色の灯りに浮かび上がった。
チャンミンが浴室に仕込まれた照明スイッチを点けたのだ。
俺の顔のすぐそばに、振り向いたチャンミンの顔があった。
俺はごくり、と喉を鳴らした。
シミひとつないすべすべした頬と、軽く開いた口と濡れた唇。
うるうる潤んだ眼で俺を見つめている。
「なっ...なんだよ。
意味がない、ってどういうことだよ?」
後ろ抱きにしているチャンミンの尻の割れ目に、俺のムスコが当たっている。
両脚の間におさまったチャンミンを、『抱く側』の立場で感じとってみた。
(ほっせぇ腰)
濡れた後ろ髪が張り付いた首は、すんなりと長く細い。
意識したらいけない、と自制するほどに、俺の前は反応し始めた。
「!!!!」
きっとチャンミンの背中は、バクバクいう俺の心臓の鼓動を感じとっているに違いない。
「ゆののあそこ...当たってるよ」
「う、うるせぇな!
嫌なら下りろよ。
俺んとこに座ったあんたが悪い」
チャンミンの肩を押しのけようとしたが、華奢であっても彼は男、頑として動かない。
さらには「やあだよ~」と、俺の両腿を抱え込み、すりすりと自身の尻を俺の前に擦りつけ始めたではないか!
「やめろって!」
「やあだよ」
「はあ...」
ああ、ここでべろんべろんで酔っていないことを心底悔いた。
なぜかというと、信じられないことに俺の心に、一瞬だけど迷いが生じたからだ。
『チャンミンを抱けるかもしれない』と!
『いけるんじゃね?』と!
「...俺をからかうのはよせ。
あんたにとって『それ』が普通でも、俺は違うんだ」
「からかってない。
僕は相手の性的嗜好は気にしないよ。
ユノが女の子にしか興味がないってことは分かってる」
「分かっているなら...うっ」
俺の口から思わず、呻き声が漏れた。
チャンミンが俺のくるぶしから膝上までを優しく撫でさすり始めたのだ。
「やめろ...っ」
「やだ」
悪さをするチャンミンを制止しようと、俺は彼の両腕ごと後ろから抱きすくめた。
身じろぎする上半身を抑え込むため、回した両腕に力をこめた。
「ユノが貞操を守ってるのは、『女子相手』でしょ?
女子の膣に挿入することが、ユノにとって重大な意味を持ってるってことでしょ?
挿入されたユノのムスコの先には子宮と卵子が、ユノの精子をカモンって言ってる」
「なんてあからさまな...」
ズケズケ口にするそれらの単語に、俺は恥ずかしくなってしまう。
「その通りじゃん。
快楽を求める行為だけど、本来の目的は受精でしょ?
プラス超絶デリケートな箇所同士、組み合わさってひとつになるわけだから、大好きな子と一体になった充実感も加わってさ...ユノ、やられちゃうね」
(否定できない...)
チャンミンは俺の太ももの間でくるんと、身体を180度回転させた。
そして、俺の腰の上にまたがった。
「おい!」
「ユノって真面目だもん。
性欲はあるのに、トラウマのせいでセックスが怖い。
トラウマを打ち砕くことができるような子と出会っちゃったときには、最後まで責任とっちゃいそう」
「責任だなんて...。
そこまで...ガチじゃねぇよ」
と否定してみたものの、本心は「ガチ」なのだ。
最後まで責任を持つ覚悟で身体を繋げる。
俺の恥ずかしい秘部を見せるのだから、相手にも真剣さを求めてしまう。
...つくづく俺は重い男だ。
だからチェリーなのだ。
「ガチじゃなくても、安心して身を任せられる相手じゃなくっちゃあ、ユノはおちんちんを見せたくないんでしょ?
挿れたくないんでしょ?」
「......」
アルコールが未だ抜けきっていないせいなのか、それともエロスモードに入ったせいなのか、まぶたを半分落としとろんとした目で俺を見下ろしている。
浴槽のライトがピンクからパープルに変化した。
俺の肩に置いていたチャンミンの手が俺の耳たぶへ移動した。
ぞくり、と鳥肌が立った。
「ほらほら~。
ユノのあそこ...反応してるよ」
「...っ!」
「僕のお尻に...当たってる」
チャンミンの奴、腰を上下させ始めたのだ。
「うっ...」
俺の根元にきゅん、と強い痺れが集中した。
「た~いへん。
もっとおっきくなっちゃった」
「そういうこと...言うなよ。
刺激されたからだよ。
誰だってしごかれたら、反応しちまうって...っ」
「僕もオトコだから...よ~く分かるよ。
身体は誤魔化せない」
「分かってるのなら、俺を煽るのはよせ!」
「やだ。
ふふ。
オトコにまたがれて、ゆの、感じちゃってるね?
いいのかなぁ?」
チャンミンの腰を揺れるたび、ぬるくなったお湯がちゃぷちゃぷ音をたてた。
「よくねぇよ。
俺から下りろよ。
これ以上刺激するなって」
「や~だよ」
(くそっ!)
俺は腹がたってきた。
(つづく)
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