「ちゃんみ~ん」
「はいはい」
「ちゃんみ~ん」
「はいはい」
チャンミンの背後に近づいて、後ろから抱きしめていた。
チャンミンはぴったりとくっついた俺に構わず、ごくごくと水を飲んでいる。
「ねぇ、チャンミン」
俺はチャンミンの耳下に、鼻先をこすりつけた。
「はいはい、何ですか?」
チャンミンは俺の婚約者だ。
俺以上に背が高くて、可愛い顔をしているけど、男だ。
チャンミンの肩にあごを乗せて、何度も彼の名前を呼んでいた。
洗面所正面に取り付けられた鏡に、とろけた表情の俺が映っている。
チャンミンは仏頂面をしているけど、口角がぴくぴくしているから、緩んでしまうのを堪えているんだな...俺には全部、お見通し。
俺たちは男同士。
恋人同士になるまでは紆余曲折あったけど、好きな気持ちが駄々洩れになってしまうまで、そうは時間はかからなかった。
周囲の目が気になる外では、ぎりぎり1センチの距離を保っている(すごく我慢している)
でも、2人きりになった時には凄いんだ。
密着なんてレベルじゃなく、ぎゅうぎゅうに...マイナス20センチ位?...めり込むのだ(どういう意味が分かるよね?)
要約すると、俺はチャンミンに夢中だと言うこと。
チャンミンの妹××ちゃんの結婚式出席のため、昨夜からこのホテルに宿泊していた。
目覚めたところ、隣にいるはずの大好きな人がいなかった。
あれ...?と、部屋中を見回すと、ミニバーにしゃがみこんだチャンミンの顔が、冷蔵庫の灯りに照らされていた。
分厚いカーテンで外の様子は分からないけれど、ヘッドボードのデジタル時計で早朝だと知ったのだ。
「早起きだね?」
「喉がカラカラで...。
昨夜は飲み過ぎました」
チャンミンはアルコールに強い質で、ワイン1本くらいは余裕だ。
ところが、昨日のチャンミンは、披露宴で××ちゃんがお嫁にいってしまったことを、喜んだり、悲しんだり。
加えて、俺にプロポーズされたのだ。
感激のあまり笑ったり泣いたりと、はっちゃけて、そのお守りに俺は料理を食べるどころじゃなかった。
披露宴でしこたま飲み、部屋に持ち込んだシャンパンも「美味しい美味しい」と、俺が止めるのをきかずにがぶ飲みしていた。
それだけじゃ足りないと、ビールや焼酎も追加して、がぶがぶ飲んでいた。
(チャンミンは俺の言うことを聞かない頑固者なんだ。もう慣れたけど)
そして大の字になって眠ってしまったのだ。
最近仕事が忙しい忙しい、と念仏のように唱えていたチャンミン。
疲労がたまった身体は、普段なら余裕のアルコールも処理しきれなかったんだろうね。
チャンミンはぽわん、とした天然野郎だけど、仕事に関しては責任感の強い頑張り屋なのだ。
「蟒蛇(うわばみ)のように飲んでたからなぁ。
あ~あ、チャンミンはさっさと寝ちゃうし、寂しかったなぁ」
パジャマ姿のチャンミンを、もっと強く抱きしめた。
「...ユノの言いたいことは分かってますよ」
「...嘘!?」
「ユノの暴れん坊が、僕のお尻にあたってます」
「チャンミンが欲しい」
非日常的な時間を過ごせる、いい感じのホテルにいるのに、俺たちの昨夜は清い一夜だった。
俺も男だし、チャンミンは可愛いし、焦れていた俺はこうしてチャンミンにくっついて甘えていたのだ。
「...しよ?」
「へ?」
「チャンミン...しよ?」
「......」
「今から...しよ?」
「はっきり、言っちゃいますか?」
「うん。
チャンミンとしたい」
「したくてたまらないんですか?」
「うん」
「したくてしたくてたまらないんですか?」
「うん。
分かるでしょ?」
「...確かに...すごいですね」
「だから...しよ?」
「......」
「イヤ?」
「イヤじゃないですよ」
「駄目?」
「駄目じゃないですよ」
「ホントに?」
「嘘はつきませんてば」
「触ってもいい?」
「もう触ってるじゃないですか!?」
俺の手はチャンミンのパジャマの裾の下に忍び込んでいて、彼の平らなお腹を撫ぜていた。
すべすべの肌で、触っているととても気持ちがいいし、おへその毛をくすぐるのも好き。
一応、いつ肘鉄をくらってもいいように、下腹に力を入れていた。
「ユノ。
僕...寝ちゃったでしょう?」
「寝ちゃってたよね。
夜9時なのに」
「ユノへのサプライズ、用意してたんです」
「俺に?」
「他に誰がいます?
ユノしかいないでしょう?」
「なんでまた『サプライズ』なの?」
チャンミンといると、毎日がサプライズの連続。
(天然過ぎて、俺をフリーズさせる天才なんだ)
「えっと...昨日はユノからサプライズをもらったし...。
僕の方は、特に準備していなかったから...こんな程度ですけど」
俺の頬に触れるチャンミンの耳が真っ赤になっていた。
か、可愛い...と思いながら、「サプライズって何?」と尋ねてみたら、
「ユノが今、触ってます」
やっぱり、そうだったか!
指先に触れるものに、「あれ?」と思ったんだ。
レース生地の細やかな網地。
「!!!!」
チャンミンはいつも、黒オンリーのごくごく普通の下着を付けている。
・
こんなことがあった。
熱愛報道のあったグラビアアイドルのニュースを、「へぇ」って何の気なしに見ていたんだ。
その画面を俺の肩ごしにチャンミンに見られてしまった。
「...そうですか。
ユノは『そういう』のが好きなんだ...ふぅん」
「しまった!」と思った時には時遅し。
チャンミンはぷいっと顔を背けると、俺を置いてさっさと店を出ていってしまった。
自分が男であることを(俺が男であることに?ま、どっちでも同じことだ)、もの凄く気にしている。
(何年か前なんて、セーラー服を着たんだぞ。信じられないよ)
「やっぱりユノは、若くて可愛い女の子が好きなんだ。
ふぅん...そうなんだ」
「たまたま目について、見てただけ」
「おっぱいが好きなんだ...そりゃそうだよね、ユノは男の人なんだもの。
可愛い下着付けてる若くて、可愛い、女の子が好きなんだ?」
チャンミンは『若い』と『可愛い』と『女の子』を強調してそう言った。
「どうせ僕にはおっぱいはありませんよ~だ」
(俺は女の子のフィギュアのコレクターなんだけど、これに関してはチャンミンはなぜか文句を言わない)
「チャンミンも可愛いよ」
その通りだったから、そう答えたのにチャンミンの機嫌は直らない。
「想像してみてください。
もし僕がすっけすけのランジェリーを着ていたらどうです?」
そんな姿を想像する前に、
「男で悪かったですね!」
チャンミンはぴしゃっと会話を打ち切ってしまった。
その夜、チャンミンが紫色のすっけすけのランジェリーを身につけた姿を想像してみた。
...悪くない...いいじゃん。
・
チャンミンは両手で顔を覆っている。
その指にプラチナが光っている。
耳だけじゃなく、ほっぺも真っ赤になっている。
チャンミン...可愛いなぁ。
鏡に映るチャンミンのパジャマのボタンが、俺の指によってひとつひとつ外されていく。
そっとパジャマの上を脱がして、そのまま床に落とした。
メンズもののランジェリーを身につけたチャンミン。
う...か、可愛い...。
透けた生地が、彼の大事なところをおさめている。
しかも!
お尻側が紐なんだぞ!?
え、えろい...。
たまらなくなって、俺はチャンミンを力いっぱい抱きしめて、彼の喉に噛みつくようにキスをした。
「んんっ...」と漏らすチャンミンの声が甘い。
フィギュア作りが趣味のヲタクなチャンミンだけど、そういう時の彼は色っぽい。
そんなギャップもチャンミンの魅力だ。
俺の腕の中でくるりと身体の向きを変えると、俺の首にぎゅうっとしがみついてきた。
その気のスイッチが入ったチャンミンと、貪るようにキスをしながら、部屋中央に鎮座した巨大なベッドに背中からダイブする。
チャンミンの手が俺の下着にかかり、俺も彼のパジャマの下を脱がせる。
いつもなら下着もいっしょに脱がせてしまうことも多々あるが、今夜はチャンミンのランジェリー姿をとっくりと眺めたい。
仰向けに寝かされたチャンミンは、両手で顔を覆ったまま「恥ずかしー!」を連呼している。
もじもじとこすり合わせている両膝のてっぺんに、キスをした。
見下ろすチャンミンの身体がとても綺麗で、エッチな気持ちも忘れて見惚れてしまった。
チャンミンは高すぎる身長や痩せた身体を気にしているけれどね。
チャンミンのサプライズは、俺をとろとろで甘々な気分にさせてくれるもの。
きっと明日には、チャンミンの下着はシンプルなものに戻ってしまうだろうけどね。
エロパンを脱がそうと手を伸ばしたら、「駄目です!」と拒まれた。
「履いたままじゃ、出来ないだろう?」
と尋ねたら、
「せっかくの可愛いパンツです。
履いたまま、です!」
「!!!」
チャンミンのえっちなお願いに、胸がキュッとした。
「ここをこうずらして...」
真っ赤になって恥ずかしがってるのに、言うことやることが大胆なんだって。
チャンミンの前髪をかきあげ、小さな顔を両手で包み込んだ。
・
絶頂を迎えたのち、俺の下敷きになったチャンミンの様子を窺うと...。
あらら...。
どうやら失神してしまったようだ。
チャンミンは感じやすい質なのだ。
可愛いなぁと思うところのひとつ。
俺の脇の下に鼻を突っ込んで、むにゃむにゃと何かをつぶやいている。
腕も痺れてきたし、トイレにも行きたい。
そぅっとチャンミンのうなじから腕を抜いた時、
「ゆのぉ...好き...」
だなんて寝言を言うなんて...。
ノックダウンだよ。
頼むからそんな可愛いことを、言わんといて。
ますます好きになっちゃうじゃん。
チャンミンには内緒にしてること。
××ちゃんからセーラー服をプレゼントされたんだ。
俺とチャンミンのキューピッドを果たした、××ちゃんのセーラー服。
ここにはもう1泊する予定。
今夜はチャンミンにセーラー服を着せてみようと思う。
本人は超恥ずかしがって嫌がるだろうけど、俺がしつこくお願いしたら渋々頷いてくれるはず。
それに、チャンミンは照れ屋さんなんだけど、スイッチが入るともう...凄いんだ。
(おしまい)
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