(20)NO?-第2章-

~チャンミン~

 

数時間遅れになってしまった民ちゃんへのフォロー。

僕に対する反応がスピーディな民ちゃんに反して、つくづく僕という男は、ワンテンポ反応が遅い。

...そうでもないか。

嫉妬心を露わにしてしまうのは、条件反射のように素早かった。

僕が来ていると知るや、民ちゃんは通話を切ってしまった。

 

(民ちゃんらしいな)

 

チャイムを1度だけ鳴らし、民ちゃんがドアを開けるのを待った。

しばし待った後、一向にドアが開かない。

「勝手に入っておいで」のつもりなのかな?

ノブを捻ると鍵は開いていて、僕はその隙間から顔を覗かせ「民ちゃん?」と声をかけた。

 

(...ん?)

 

室内は真っ暗だった。

「寝てしまったのか?」と思いかけて、僕はくすりとした。

 

(...なるほど)

 

僕を驚かせようと、部屋の引き戸の裏に隠れているんだと、民ちゃんのキャラクターから予想がついた。

逆に驚かせてやろうと、僕は音をたてないよう靴を脱いだ。

忍び足でキッチン(ひと口コンロと小さなシンク)を通り過ぎ、引き戸をそうっと開けた。

ビックリ仰天する民ちゃんを想像して、忍び笑いを堪えるのがやっとだった。

民ちゃんが隠れているとおぼしき辺りに向かって...。

 

「わっ!!」

(...あれ?)

 

僕の反撃に、あがるはずの悲鳴が聞こえない。

常夜灯が灯るだけの薄暗い部屋だ、引き戸の脇に目をこらしても民ちゃんがいなかった。

部屋の片端の布団が、やけにこんもりしているように見えた。

 

(あそこに息をひそめて隠れているんだな)

布団にもぐって隠れている民ちゃんを想像すると...ダメだ、可愛すぎる(さぞかし僕は緩んだ表情しているだろうな)

 

フローリングの床がぎし、ときしんだのにはドキっとしたけれど、そろそろと布団の場所に近づいた時...。

ぐにゃり、と柔らかいものを踏んだ。

 

「...ひっ!」

 

僕の足元に長々とした黒い塊。

それが民ちゃんだと一瞬間で頭では理解していた...いたのだけど...。

 

「うわあぁぁぁぁぁ!!」

 

僕はビックリ仰天、尻もちをついてしまった。

「はあはあはあ...」

 

床に片頬をつけ、うつ伏せになった民ちゃんはぴくり、ともしない。

(何か持病でもあるとか!?)

 

「...民ちゃん?」

 

肩をぐらぐら揺さぶっても、身動きしない。

 

(意識がない!

救急車か!)

民ちゃんの頬をぴたぴた叩いた時、

「ばあ...」

「ひぃっ...!」

 

悲鳴を飲み込んだ僕の首に、民ちゃんの腕が巻き付いた。

「チャンミンさんに会いたかったです...」

 

そう囁かれ、民ちゃんの熱い吐息が、外気で冷えた僕の耳たぶを温めた。

同時にぞくり、とした。

当然、僕の両手も民ちゃんの背中に回った。

民ちゃんは僕を驚かせようと、死んだふりをしていたらしい。

 

(全く、この子は...)

 

ぎゅうっと力いっぱい抱きしめた。

横座りした民ちゃんは僕に引き寄せられて体勢が苦しそうだった。

民ちゃんの腰を引き寄せて、僕の膝に乗せた。

民ちゃんは僕と向かい合わせになって、あぐらをかいた僕の両腿にまたがっている恰好だ。

なかなか刺激的な体勢だなぁ、と思った。

 

「...ごめん。

僕が悪かった。

えーっと、あれは僕のヤキモチだ。

だから、ムキになってしまって...。

本当にごめん」

 

僕ははっきりと認めた。

民ちゃん相手なら、僕の格好悪い女々しい一面を見せても平気だと思った。

これまでも何度も格好悪いところを民ちゃんに見られている僕だ。

ここ最近は、民ちゃんが僕と瓜二つの顔をしている事実なんて、すっかり忘れている。

そうであってもやっぱり、僕らは双子以上に同じだと、心の奥深いところで認識している。

そのせいで、その他の女性と接する時とは全く違う感覚を抱いてしまうのも事実なのだ。

違う感覚とは...不思議に満ちていて、ほっとくつろげて、同士のようで、でも恋愛感情を沢山、とても沢山抱いている。

心を込めて謝れば必ず許してもらえる安心感もある...これは僕の希望かな?

 

「ごめんなさい。

変なコト話しちゃって。

...チャンミンさんの立場になって考えてみたんです。

凄く嫌だろうなぁって。

ごめんなさい」

「謝るのは僕の方だ。

あれは全部、僕が悪い。

ごめんな」

「ぐすん」

「ぐすん」なんて実際に発音してしまう子を、初めて見た。

僕は民ちゃんの背中を撫ぜた(ブラジャーを付けていないんだ、と気付いてしまったりして)

 

「まわりくどい話し方をしてしまって、ごめんなさい。

本題に入る前の説明が、長かったんです。

全部話す前に、チャンミンさん、怒っちゃうから...」

「そうだったね。

話を遮ってしまった僕が悪かった。

...ほんと、ごめん」

 

突然、どん、と胸を突かれた。

 

「!!」

僕は再び尻もちをついてしまった。

 

「私っ...嫌われたかと思ったんですよ?

たくさん泣いたんですよ?

チャンミンさんの...バカチン!」

 

ひっくり返った僕は、民ちゃんに引き起こされ、再び彼女の両腕が僕の首に回された。

民ちゃんのミルクみたいな甘い匂い。

密着した胸と腰も、民ちゃんの腕がからんだ首の後ろも肩も、彼女がのっかった太ももも...熱い。

 

マズい...。

 

僕のそこが反応しないようにしないと。

僕らは今、大事な話をしているというのに!

 

(つづく)