(50)オトコの娘LOVEストーリー

 

~チャンミン~

 

いつもみたいに「泥棒さんみたいです」とか「勃ってますよ」って、ユノさんをからかえない。

僕はコーヒーをちびちびと飲みながら、自分の感情を整理することにした。

 

その1.

昨夜、リアさんを介抱するユノさんを見て、この2人は恋人同士なんだ、って初めてリアルに実感した。

行為そのものを目にしたわけじゃないけれど、交際している男女の生々しさを目撃した、っていうのかな。

リアさんの扱いを慣れてる感じが、いろんなことを想像してしまって。

僕は親友の弟で、おうちに住まわせてもらっていて、ホテルにも泊まったし親近感を抱き合っていると思っている。

けれども、一緒に暮らしている恋人には、負ける。

 

その2.

その1にも通じること。

ユノさんとホテルに泊まった時、忠告の意味を込めてか僕を押し倒すフリをした。

ユノさんに耳の下のあたりをキスされて、くすぐったいのとは違う、初めての感覚に驚いた。

ぞわぞわっとしたけれど、嫌な感じじゃないんだ。

「ってな風に襲われるから」ってユノさんはすぐに身体を起こしてしまったけれど、僕はもうちょっとキスしてて欲しいなぁ、って思ってしまった。

ユノさんは、リアさんにいつもこんな風にキスするのかな?って想像してしまった。

 

昨夜、ユノさんがリアさんの頭を撫ぜているのを見て、その1とその2の感情が湧いてきたの。

 

「リアさんは?」

 

「まだ寝ている。

今日のチャンミンちゃんの予定は?」

 

「お休みなんです」

 

「そっか...。

悪いんだけど、リアは寝かせておいてくれないか?」

 

「はい」

 

悪くなんか、全然ないのに。

ここはユノさんとリアさんのおうちであって、僕は居候。

洗面所で「シャワーを浴びる時間はないな、仕方がない」と、ユノさんはぼやいている。

髪の毛がはねていることに気付くといいんだけれど。

不思議なことに、今朝はユノさんに近寄れなかった。

そして、ユノさんはリアさんと別れられないんじゃないかな、ってちらっと思った。

なんでだろうね。

 

 


 

~ユノ~

 

昨夜のリアには参った。

泣いたり、罵ったり、叩いたり、そして泣いたり。

彼女に酷い酔わせ方をさせたのは、俺が原因だ。

 

「私を捨てないで」

「別れたくない」

「ユノがいないと生きていけない」とまで。

 

プライドの高い彼女がそんな台詞を口にするなんてと、正直少しだけぐらりと揺れた。

でも、心を鬼にして首を横に振り続けた。

気持ちには添えないけれど、彼女の頭を抱きしめてやることが、今できる精いっぱいだ。

以前の俺だったら、「別れたくない」と泣いてすがりつく彼女の姿に、「愛されている」と勘違いをして情にほだされて、別れを撤回していたと思う。

しかし、今の俺は違う。

彼女のどこを好きになったんだろう、とじっくりと思い起こしてみた。

 

美しい顔とスタイルに惚れた。

何としてでも自分のモノにしたくて、追いかけた。

憧れに近い恋だった。

 

現実の生活を共にしてみたら、美しい蝶が舞うのを眺めているだけにはいかなくなる。

世話も必要だし、羽を休める休眠所を整えてやらなければならない。

その蝶は極めて気紛れなタイミングで俺を誘ったり、放置したり、野暮ったい俺を哂ったりした。

彼女の隣を歩くには、それなりのレベルでいる必要で、彼女の指示通りに身なりを整えた。

そんな過去の遺産みたいなものを、俺はチャンミンに貸し与えている。

田舎から出てきた飾りっ気のない彼を、俺の手で整えてやった。

メイド服以外はきちんとした洋服を持っていないようだったから。

彼は土台がいいから、シャツ1枚で一気に垢抜けてくれて、そんな彼を前に俺は気分がよかった。

俺が彼にしている行為は、リアが俺に教育していたことと同類じゃないか、と気付いた。

 

いや、違う。

彼はそのままで十分なんだ。

俺はただ、彼のことを放っとけないんだ。

 

彼のありとあらゆる表情を見てみたいから、あれこれ理由をつけて彼と関わろうとしている。

俺の言うこと成すことに、素直に反応する。

素直過ぎて怖いくらいだ。

彼を綺麗に磨けば磨くほど、俺の心が満たされていくんだ。

昨夜、彼の「大事な人です」の言葉に、心が震えた。

嬉しかった。

「俺にとっても、彼は大事な人だよ」と言いたかった。

でも、彼には片想いをしている『彼』がいて、彼の恋がうまくいかなければいい、と本気で望んでしまった。

言葉と裏腹な心を抱えていて、「大事だよ」なんて言えないよ。

今朝のよそよそしい彼の態度が気になっていた。

 

 

(つづく)