~ユノ~
チャンミンという奴はどこか抜けているところがあって、風呂から上がってみたらまだ素っ裸でいるわけ。
背中を丸めてPC画面を夢中になって覗き込んでいた。
俺がわざと開きっぱなしにしておいたサイトを眺めている姿を見て、まんまと罠にかかったチャンミンが可愛らしい。
チャンミンのことだから、彼なりに下調べをしてきただろうけど、的外れな知恵を仕入れていそうだ。
そこで、俺が選りすぐりのサイトを並べておいてあげたって訳だ。
背後にいる俺に全く気付いていない。
そんなに隙だらけで、これまで飢えた男どもから無傷でいられたのが不思議だ。
俺もチャンミンもストレートだから、縁のない世界だった。
けれども、チャンミンに参ってしまってから、男が男に惚れる心理が理解できるようになった。
風呂場で俺の目の前に突き出されたチャンミンの尻に、図らずも欲望を覚えた俺は、もう少しだけ前進してみたくなった。
100%断られると分かってて、「四つん這いになって」とおねだりしてみた。
チャンミンは、「俺のことが好きなら出来るよね」の言葉に弱いんだって。
まさかホントに四つん這いになるとは思わなかった。
ぶうぶう文句を言いつつも、俺の言いなりになるチャンミンが愛おしい。
硬く引き締まった尻に頬ずりしたくなったのを、ぐっと抑える。
「尻の力を抜いてくださーい」
両手で尻を撫ぜるうちに硬さがほぐれてきた瞬間を狙って、チャンミンの尻を左右に割った。
「あーー!」
「声がでかいって」
「ごめん...」
「ほー。
尻の穴ってこんなんだ...。
へぇ...」
俺はチャンミンの尻の割れ目に顔を近づけて、じっくりと観察する。
「絶対に触んないでよ!」
「触んねーよ」
「絶対だよ!」
「触んない、触んない」
「絶対?」
「ああ」
「ユノのことだから、絶対に触る」
「『ユノのことだから』って、俺がまるでいつも約束を破ってるみたいに聞こえるじゃないか?」
「だって、そうじゃないか!」
(ぎくり)
「触るなよ!」
「へぇへぇ」
「返事が気に入らない!」
「はいはい」
「絶対だよ?」
「チャンミン...お前さ。
触って欲しいんだろう、ホントは?」
「なっ!?」
「嫌よ嫌よも好きのうち」
「......」
「おい!
尻を閉じるなって!」
再びぐいっと両尻を割る。
「ひゃっ!」
「ほほぉ...」
「ユノ...。
この姿勢、恥ずかしい」
肩ごしに振り向いたチャンミンの目が潤んでいた。
これ以上やったら泣くかも。
「あともう少しだから、辛抱してくれる?」
俺の目前に迫ったチャンミンの尻が、プルプルと震えている。
「いい加減、勘弁してよ」
堅く閉じられた入り口に、ふぅっと息を吹きかけた。
「ひぃっ!!!」
チャンミンの両尻が勢いよく閉じてしまう。
チャンミン...すまん...面白い。
「あともう少し。
俺にチャンミンの可愛いお尻を見せてくださーい」
閉じた両尻を思い切り開いて、チャンミンの未開の地を露わにする。
チャンミンは項垂れて、羞恥な姿勢にじっと耐えている。
マットレスについた両手をぎゅっと握っている。
か、可愛い...。
調子に乗った俺は人差し指の先で、つん、と突いてみた。
「ひゃあぁぁ!!!」
チャンミンはとんでもない悲鳴をあげた。
そして、後ろに蹴りだされたチャンミンのキックが俺の顎にヒットした。
「んがっ!!!」
勢い余った俺はベッドの下へ背中から転げ落ちる。
「わぁ!
ユノ!」
「いってぇ...」
顎がじんじんと痛む。
今日で一体何度目だよ。
「あっつ...」
口の中に鉄の味が広がり、指先に血がついていた。
チャンミンの蹴りを受けた時、唇の内側を切ったみたいだ。
「ごめん...ユノ」
ベッドの上から差し出されたチャンミンの手を、パシッとはねつけた。
「ごめん...ユノ...ごめん」
「......」
おろおろしているチャンミンが面白くて、謝罪の言葉を無視してデスクの椅子に腰かけた。
「いってぇ...」
ティッシュペーパーで唇に付いた血を拭きながらも、敢えてチャンミンの方を見てやらない。
「ごめん、ごめん、ごめん...」
ベッドから下りたチャンミンは俺の足元に膝立ちし、俺の肩に手をかけて覗き込んだ。
ちらっと視線をあげて、涙を浮かべたチャンミンの丸い目にどきりとした。
眼の縁も鼻先も赤らんでいて、眉も目いっぱい下がっていて、「なんだよ、その純真無垢な顔は」と、俺の方が悪いことしているみたいじゃないか。
あ...、悪いことしたのは俺か。
従順なチャンミンに意地悪したくなって、尻の穴をつついちゃったからなぁ。
「ホントにごめんね。
ユノ、許して?」
「...いいけど?」
ぼそっと答えた瞬間、チャンミンの唇が勢いよく押しかぶせられた。
「んっ」
チャンミンの熱い舌が、俺の唇を割ってねじ込まれる。
潤んだ瞳で小動物みたいな顔していたくせに、いきなり積極的になるチャンミンに「おっ」っと驚いたが、すかさずチャンミンのキスに応える。
つい一か月前までは、男とキスするなんておぞましかったのが、男の唇であってもこんなに甘くてとろける世界を見せてくれるんだと、夢中になってしまう。
もちろん、「チャンミン限定」だ。
なぜ、チャンミンとならOKなんだろう?
不思議でたまらない。
俺の口内が点検するかのように、チャンミンの舌でぐるりと舐め上げられた。
チャンミンの「ごめんね」の気持ちが込められたキスに、俺の機嫌はたちまち直る。
「っつ」
血がにじむ下唇を甘噛みされて苦痛の声を漏らした。
唇を合わせたまま掠れた声で「ごめん」とつぶやいたチャンミンは、唇でやわく咥え直した。
チャンミン...エロい...そのキスはエロい。
俺のうなじと顎がチャンミンの手で挟み込まれて、頭を動かせない。
互いの唇の間から熱い吐息が漏れて、唾液に濡れた舌同士が絡まるいやらしい音も大きくなる。
「ふっ...」
ぐいぐいと攻め込んでくるチャンミンの舌で口の中がいっぱいになって、いつしか鉄の味もしなくなった。
いつも攻める側の俺が、逆の立場になっているのも興奮材料だ。
小一時間前に達した俺のペニスが首をもたげてきた。
このまま床に押し倒してしまおうかと、チャンミンの両肩を押した時、
さっとチャンミンの顔が離れてしまって、残されたのは物欲しげに口を開けたままの俺だった。
「え...?」
チャンミンは立ち上がり、椅子に腰かけた俺を見下ろしていた。
マヌケな顔をチャンミンに見られてしまったのが悔しい。
「まだ、怒ってる?」
「んー、どうだろう?」
とぼけたら、チャンミンは口をとがらせた。
「怒ってないくせに」
「バレた?」
「怒ってたら、こんなべろべろしないよ」
チャンミンの唇が、互いの唾液でてらてらと光っていた。
「チャンミンのキスがエロくってさ」
「そ、そうかな」
自身の唇を撫ぜるチャンミンの指が、繊細な心を表すかのように細くて、すぐさまその指をさらって口に含みたいと思った。
「僕の方こそ、怒ってるんだよ?」
両腕を組んで仁王立ちした格好で怒った風を装っているのに、言葉遣いは育ちのよい坊ちゃん風で全然怖くない。
そう。
チャンミン怒り方は『ぷんぷん』そのもので、真っ赤な顔をして大きな音を立ててドアを閉めたり、俺にタオルを投げつけたりするんだけど、
物に八つ当たり出来ない生来の優しさが邪魔をして、いまいち迫力が出ない。
そんなチャンミンを、俺は温かい目で見守っている。
でかい図体をしているくせに、丸みのない骨ばった身体をしているくせに、俺の心をコンコンと絶妙な強さでノックする。
「なんで?」
「ひどいよ、ユノ!
触るなって言ったのに!」
「ケツの穴のことか?」
チャンミンの顔がみるみる赤くなり、口の両端もぎゅっと下がっている。
「あまりにも可愛い穴をしててさ...ついつい」
「穴に可愛いも可愛くないもあるもんか!」
「あるって。
ケツ毛はあったけど、ピンクできゅっと閉まっててさ」
「恥ずかしいから、いちいち説明するな!」
「『穢れを知らない天使の肛門』だった、いやはや全くもって」
腕を組んだ俺は、感心しきったと何度も頷いてみせた。
「それって褒めてるの?」
「ああ」
「......」
「なあ、チャンミン...お前のケツ...バージンだろ?」
「ったりまえだ!」
「冗談だって。
これでちんちんがチェリーだったりしたら、恐れ多くてチャンミンとは出来ないなぁ」
「うっ...」
真顔になったチャンミンは、ぐっと息をのむ表情を見せた。
「チャンミン...お前さ」
「何だよ!?」
「もしかして、ちょっとだけ勃ってない?」
「ええっ!」
「思い出して興奮しちゃった?」
素早く股間を確認するチャンミンに、俺はくつくつと湧き上げる笑いをこらえる。
「勃ってないじゃないか!」
「あはははは」
すまん...チャンミン...面白い。
「ところでさ、僕のお尻を使うことが前提になってることが気に入らないんだけど?」
「俺らの雰囲気ってそんな感じじゃね?」
「全然しないね」
「そっか...。
じゃあさ、お前の誕生日っていつ?」
「2月18日...。
どうしたの急に?」
「はい決定!
俺より若いチャンミンが、先にケツを試すことに決定!」
「はぁ!?」
「やっぱ、こういうことって年功序列だろ?」
「意味わかんないよ。
そういうユノの誕生日はいつなんだよ?」
「2月6日。
チャンミンより12日も年上なの。
年上の俺の言うことをきかなくっちゃ、な?」
こぶしを握ったチャンミンの目が三白眼になって、ぎりりと俺を睨みつけている。
やべ。
怒らせたか?
「次は、ユノのお尻を見せろー!」
とびかかるチャンミンを、寸でのところでかわす。
「やなこった!」
危ねー危ねー。
まともに食らったら俺の後頭部にでかいたんこぶをこしらえるところだった。
「早く服を着ろよ。
裸でいるから、俺にいたずらされるんだぞ?」
「あ...!」
全裸なことに気付いたチャンミンは、両手で股間を隠した。
「俺のために筋トレしてくれて、ありがとうな」
「...うん」
「俺んちにいる時は、真っ裸でいてくれていいんだぞ?」
「やだ」
顔を真っ赤にさせて、ぶつぶつ言いながらTシャツに腕を通すチャンミンの姿に、俺は吹きだしてしまった。
服を着るなら、パンツを先に履けったら。
俺はそんなチャンミンに夢中なんだ。
(つづく)
―「時間割」シリーズ終わり―
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