僕とユノはしばし、見つめ合っていた。
ユノは何も言わないし、アレする流れに持ち込むでもなし。
「......」
もしかして...僕から仕掛けてくるのを、待っているとか?
僕がリードするの!?
ユノに身を任せるつもり満々だった僕。
困った、困ったぞ!
久しぶり過ぎてどうスタートを切ればいいか分からない。
ヤリまくり色欲時代では、ズボンを下ろすだけでよかった。
さらに、ヤリまくり色欲時代以前は、僕の恋愛対象とえっちのお相手は女性だった。
ユノが相手となると...それも好きな人相手で、男相手となると...どうやればいいんだろう?
閉じたままだったユノの心の扉が今、僕に向けて開かれている。
ユノも多分...僕と同じ想いを持っている。
き、緊張する...。
「...今から...するの?」
「...ああ」
僕の声は掠れていたし、ユノの声も同様。
百戦錬磨のユノも緊張しているのかな?
ユノは動かない。
やっぱり、僕からのアクションを待っているんだ!
ユノの喉仏がこくん、と動いたのを合図に、僕は彼の上に身を伏せた。
仰向けになったユノの腰にまたがった僕。
パジャマ姿のユノに対して僕は裸で、マッサージオイルで肌を光らせている。
なんともちぐはぐな二人だ。
両腿の間を見下ろすと、くたりとささやかなものが、ちんまりと。
情けなくてめげそうになるけど、仕方がない。
ユノと「したい」気持ちの存在は確かなものなんだ。
ユノは僕を見上げているだけで、指一本動かさない。
この3日間、さんざん僕の身体を撫ぜまわして、えっちなことを言ってからかってきたのに、いざ本番を前にすると奥手ちゃんになってしまうのかな。
「脱がすよ?」
僕は震える指で、ユノのパジャマのボタンを1つ1つ外していった。
徐々に露わになる、ユノの白い肌。
ユノの左右の胸に両手をつけた。
僕の手の平を焼かんばかりに高い体温、僕の右手に鼓動が打つ振動が伝わってくる。
ユノの肌を火傷しそうに熱いと感じるのはやはり、僕の肌はあいかわらず冷えている証拠。
「ふぅ」
額に浮かんだ汗をぬぐい、気持ちを落ち着かせようと大きく深呼吸をした。
汗は出ているけれど、指先はかじかんでいて、寒いのか暑いのか分からない。
ユノは僕のやることを、無言で見ているだけだ。
ユノ流のスパルタ教育なのかな、とちょっと思ってしまったりして...。
つまり...僕のアソコにヤル気を取り戻させるための。
でも、そうじゃない、これからの行為は仕事を離れたものだ。
僕はそう宣言したばかりだし、ユノだって...。
初日のユノの眼とは、暗くて真っ黒な湖のようで、瞬きも奥行きもないのっぺりとしたものだった。
さらに、 吸い込まれてしまったら二度と浮上できないのでは、と恐怖を覚えていた。
今のは違う。
真っ黒な瞳の中、さらに黒い瞳孔に向けて、黒い虹彩が渦巻いていて、じっと見つめ続けていると吸い込まれそうになる。
吸い込まれてユノの中を通過した後、放たれる場所はどこなんだろう。
違う自分が待っている...だなんて、ロマンチストだね。
遮光カーテンのおかげで、寝室は暗い。
寝室に続くリビングは真昼の日光ですみずみまで白く明るくて、まさしく『昼下がりの情事』だ。
濃色のシーツとユノの白い肌のコントラストが、艶めかしい。
「チャンミンとしたい」って言ってたくせに。
僕が勝手に思い浮かべていた流れとは、全然違うものになってきて、調子が狂う。
ユノを上半身裸にしたところで、次は下半身に移った。
ユノったら全然動かないつもりだ。
パジャマのズボンを脱がされやすいよう、片脚ずつ足を持ち上げてはくれるけど、それだけなんだ。
「...ごくり」
最後の1枚を前に、僕の心臓はドッキドキだ。
男の下半身なんて見慣れてるはずなのに、恋をしている相手のものとなると別物だ。
ユノのものは初日に見てしまっているのに、これが僕の中に入るのかと思うとやっぱり緊張してしまうのだ。
光沢ある生地に、あれの形そのままくっきり浮かび上がっている。
「...ごくり」
ユノのみぞおちが、呼吸に合わせて上下している。
某有名ブランドのロゴ入りのウエストゴムに、指を引っかけゆっくりと引き下ろしていく。
包み込んでいたものから放たれて、僕の目前に露わになったユノのものに、息を止めて見入ってしまった。
どうしよう...大きい。
どうしよう...心臓が口から飛び出そうだ。
いつまでも眺めているわけにはいかない。
ちらりとユノの顔を窺うと、女性的とも言える優美な唇に、ちょっぴり笑みが浮かんでいて安心した。
「触るね」
僕はおずおずとユノのそこへ指を伸ばした。
僕の手の中でそれは、温かくて、ぴくぴく震えていた。
手の平に乗せた小さな動物...こんな風に考えたら変だけど、可愛いなぁって思った。
毛の生え際とか、血管とか、シワとか...愛撫するのも忘れて、子細に観察してしまった。
「じっくり見られると、恥ずかしいなぁ」
「あ!」
僕はユノのものから、ぱっと手を離した。
「それに...冷たい手をしてる」
「ごめんね」
とても敏感な箇所を、冷え冷えとした手で触られたら、気持ちよくもなんともないだろう。
次の僕の行動は早かった。
ぱくっと咥えたのだ。
「んん...」
ユノの腰がぶるっと震え、僕の口の中でそれの硬度が増した。
嬉しくなって、舌全体を使って上下に舐めた。
性狂乱時代の僕は、後ろを埋められてきたけど、僕を埋めるものを口にしたことはない。
だから、見よう見真似だ。
ユノの低い唸り声に、僕のヤル気は右肩上がり。
「これはどう?」「これならどう?」と、ユノの反応を確認しながら、あの手この手でユノのそれを可愛がる。
ユノの肌はシャワーを浴びたてみたいに無臭なのに、そこだけは濃い精の香りがするのだ。
どきどきする。
僕の唾液とユノのものが分泌するもので、僕の口の中はぬるぬるでいっぱいになった。
根元を片手で支えて、もう片方の手で上下にしごいた。
しごき方は自分でも経験済だけど、数年ぶりだったから動きはぎこちなかったかもしれない。
大きく膨らんだユノのもので口内がいっぱいで、あまりに大きくて顎が疲れてくる。
濡れそぼってぬめぬめと光り、握りしめる僕の手の下でドクドクと脈打っていた。
立派過ぎて再びじぃっと見つめる。
愛おしい気持ちでいっぱいになる。
腰の奥が、じんとうずいてきた。
たまらなくなって、再びぱくっと咥えた。
「どう?」と、咥えたままユノと目を合わせた。
半開きしたユノの口元の色っぽいことといったら。
わずかに落としたまぶた、ユノの濃いまつ毛が色気ある影を落としている。
可愛らしいと思った。
大人の男そのもののユノが、股間を可愛がられて目尻をピンクに染めているんだ。
柔らかそうな唇の間から漏れる吐息は、さぞ熱いだろう。
熱い唇を塞いで、熱い舌をからませ合いたい。
ユノとキスがしたい。
ユノのものを握りしめたまま、彼の腰に伏せていた身を起こした時...。
「チャンミンは、大胆だね?」
「...へ?」
愛撫に必死になっていて見過ごしていたんだ。
ユノったら、僕にされるがままだったのに、実は余裕たっぷりだったってことを。
いざ行為を前にして、緊張のあまり僕に手を出せなかったにしては、ユノの身体はリラックスしていた。
僕に身をゆだねて、僕の愛撫を存分に味わい、楽しむ余裕があったのだ。
「美味しそうに頬張っちゃって...そんなに美味しいの?」
ユノのからかいに対して、赤面した僕が「うるさいうるさい!」って怒る...3日間の僕らのやりとりの流れだとそうなる。
でも、この時の僕は素直だ。
ユノに好きだと告白した素直ついでに、もっと正直になってやろう、と。
「...うん」
「俺のが美味しくなっちゃうくらい、俺と『したい』の?」
「うん。
だって、ユノが好きだから」
「俺も」
「『俺も』って、僕としたいってことが?」
ユノのものを舐めながら、なんとなくモヤついていたことがあったんだ。
僕はユノが好き。
じゃあ、ユノは?
だから、問い返したのだ。
僕の不満を読みとったユノは、「俺もチャンミンが好きだよ」と言って雅な笑みを浮かべた。
ぱぁっと目の前が開けた。
この言葉が欲しかったんだ。
「好きじゃなきゃ、俺の大事なところをゆだねないよ」
「...そういうものなの?」
「ああ。
俺は男にフェラされるのは好きじゃないんだ」
「それって、喜ぶべきこと?」
「ああ」
ユノなりに、僕は特別なんだと言いたかったんだろうね。
僕の片手は未だ、ユノのものを握ったまま。
熱くて固くて太い。
とっさに落とした視線の先は、僕のアソコ。
さっきまで満ちていたヤル気が、しゅんとしぼんでしまった。
「わっ!」
ユノの逞しく太い腕に捕まって、僕は仰向けに倒された。
ユノを見下ろしていたのが、ユノを見上げる格好となり、押し倒されてドキドキしてしまうなんて、ユノに何かされたいと期待していた証拠だ。
「『不能』だとか勃起しないとかふにゃちんだとか。
気に病んでばかりいないで、今この時を楽しめ。
チャンミンは感度がいい。
気持ちよくなっていればいい」
脇腹を撫ぜられて、ぞくぞくっと電流が背筋を走り、背中がびくっと反る。
そうなんだ。
ユノに触れられると僕の身体は、敏感に反応する。
「...ん、はぁ...」
「その調子」
ユノはまだ、僕の脇腹や腕、ふくらはぎしか触っていない。
ユノに触れられたところ全部が性感帯みたいに、びくびくと反応してしまう。
「ひゃぁん!」
内腿を撫ぜられた時、僕があげた声といったら...悲鳴めいた甲高い声。
慌てて塞いでしまった手は、ユノによってのけられてしまった。
「声なんか我慢しなくていい。
喘ぎまくってくれ」
「う、ん...んんっ...」
「チャンミンのが勃とうが勃たまいが、俺とヤル分には支障はない!」
確かにその通りだな...と。
自信たっぷりに宣言されて、僕はぷっと吹き出してしまった。