(21-後編)19歳-初夜-

 

 

~チャンミン~

 

ユノには、行為について何も知らない言ったけれど、深い関係の大体の内容は知っていた。

 

僕に知識を与えてくれたのはなんと、ユノの叔父さんだ。

 

ユノが15歳の頃、叔父さんが屋敷に引っ越してきた。

 

叔父さんは、ユノに似てとても美しい顔立ちをした20代後半の男性で、職業は医師だった。

 

引っ越しからしばらく経った頃、叔父さんから声をかけられ、1対1で会話する機会が訪れた。

 

ユノが寄宿舎にいる平日の話だ。

 

休憩時間、庭の木陰で本を読んでいると、叔父さんは近づいてきて僕の隣に腰を下ろした。

 

「君はユノ専用のアンドロイドなんだってね?」

 

確か、第一声はそうだったと思う。

 

この屋敷では僕の身分は一番下で、ユノの叔父さんとなるとユノと同等の位の高さだ。

 

僕はすぐに本を閉じ、立ち上がった。

 

使用人以外の人と会話をすることに慣れていなくて、とても緊張した。

 

「かしこまらなくていいさ」と、叔父さんも立ち上がり、手をのばすと僕の前髪に触れた。

 

突然の行動に、僕はぎゅっと目を閉じた。

 

「へぇ...。

ひどい髪型だね。

ユノに切られたのか?」

 

「...はい」

 

当時、僕の髪は不器用なユノに切ってもらっており、切りたての前髪は短すぎで不揃いだった。

 

「君は綺麗な顔をしているから、そんな頭でも絵になるね」

 

それだけ言うと、叔父さんはその場を去っていった。

 

次は、叔父さんの部屋に呼ばれた。

 

ビールを部屋まで届けて欲しい、と。

 

メイドではなく僕に直接依頼をしてきたことに首を傾げながら、所望されたものを部屋まで届けた。

 

ドアをノックすると、ガウンをぞんざいに羽織り、胸を大きくはだけた叔父さんが出迎えた。

室内に入るよう顎で促されたのに従って、僕はコーヒーテーブルにビールとグラスの乗ったお盆を置いて、すぐに部屋を出ようとした。

 

ところが、「君もビールを飲んでゆきなさい」と引き留められた。

 

僕は断ったけれど、叔父さんはこの屋敷の住人、僕は従わないといけない。

 

残るべきか出るべきが迷う僕に、叔父さんは「一人じゃ飲みにくいだろうから」と、「お前もこい」と大きな声で誰かを呼んだ。

 

リビングの隣は寝室になっている。

 

一人の若い男の人...出入りの金物屋だったから驚いた...が寝室から現れた。

 

若い男の人はバスローブだけ身に付けていた。

 

2人はよほど喉が渇いていたのだろう、グラスを使わず、ビールからぐいぐい飲んでいた。

 

叔父さんは唇についた泡を手の甲で拭うと、直ぐには理解しがたいことを口にした。

 

「せっかくだから、見ていくか?」

 

そして彼らは僕の目の前で裸になり、ことを始めたのだ。

 

幸いだったのは、叔父さんは僕に指一本触れなかったことと、僕の目前での行為はあの日きりだったことだ。

 

「ユノに怒られるから」と、くすくすと可笑しそうに。

 

ひとこと言い訳をすると、叔父さんたちの行為を見せられた時、僕の心にも肉体にも何の変化もなかったことだ。

 

異性同士の行為については見たことはないが、想像がついた。

 

世の動物たちと同じで、繁殖目的で性器と性器を繋ぎ合わせる。

 

ところが、目の前の2人は同性同士だ。

 

それなのになぜ、彼らは動物たちの交尾のような真似事をしているのだろう?

 

叔父さんの下になっている男の人は、とても苦しそうではないか。

 

僕は彼らの『目的』が分からず、とても困惑していたのだ。

 

 

ユノは叔父さんを非常に嫌っていた。

 

ユノははっきりと教えてくれなかったけれど、叔父さんについて嫌な思い出があるようだった。

 

叔父さんを目にしたり接近されると、ユノはあからさまに不快な表情をする。

 

叔父さんは、ユノにどんな嫌な思い出を植え付けたのだろう?

 

ここに引っ越してくる前からも、叔父さんは年に何度か屋敷を訪れ、ユノを部屋に呼んでいた。

 

叔父さんの部屋から戻って来たユノは、いつも浮かない表情をしていた。

 

心配になった僕は、叔父さんの部屋の前でユノの戻りを待つようになった。

 

勉強をみてやっているのか、話し相手なのか、室内で何が行われているのか、無知な僕には想像がつかなかった。

 

「何かあったのですか?」と訊ねてみたかったけれど、僕の立場上それは立ち入り過ぎた質問だ。

 

のちにその詳細を知ることになり、トラウマになりかねない記憶を幼少期から植え付けられていたことに、僕は胸を痛めた。

 

部屋の前で待ってなどおらず、部屋の中に乗り込むべきだったのに、僕はそれを怠った。

 

もっと早くそうしていれば、ユノが負う心の傷も浅く済んでいただろうに。

 

自責の念に襲われるのと同時に、それと相反する喜びの感情も押し寄せてきて、感情の処理が追い付かなかった。

 

喜びの感情とは、ユノがバルコニーの手すりに立ち身を投げ出そうとしながら、叔父さんに伝える格好で口にした告白による。

 

僕を守りために、自分よりも目上の者へ反旗を翻したユノ。

 

ユノを守るべき僕が、ユノに守られた。

 

感動の告白をしてくれた。

 

15歳のユノの背中が頼もしく、大きかった。

 

責務を全うしなければならないのに、ユノに甘える心地よさと幸せを知ってしまった時だった。

 

 

ユノとキスを交わした以前から、彼に接近したり彼を想うと、胸苦しい感覚を覚えるようになっていた。

 

触れたくて仕方がなくて、耐えられる自信がなく、ユノの身体から目を反らしてしまったことも多々あった。

 

当時、それは性欲とは結びついていなかった。

 

性欲とは何なのか、認識していなかった。

 

僕は無知で、自身の肉体がどこまで人間と似通っているか把握していなかったからだ。

 

ユノとひとつに繋がりたい欲求がいよいよ芽生えたとき、真っ先に、叔父さんの部屋に呼びつけられ、見せられた行為のシーンが思い浮かんだのだ。

 

「あれがこれか!」と。

 

好きな人と心と身体も結ばれたい。

 

好きな気持ちが大きくなると、肌と肌を直接重ね合わせたくなるのだ。

 

ハグやキスだけじゃ足りない。

 

叔父さんとあの若い男の人がやっていた行為は、そういうことだったんだ。

 

 

僕はベッドを下りると、窓辺に立ったユノに抱きついた。

 

「どうでした?

僕は...よかったですか?」

 

訊ねられてユノは、「うん、よかったよ」と答えた。

 

「正直に答えてください」

 

不安だったのだ。

 

いたらないところが沢山あったに違いないから。

 

「う~ん...正直言うと、よく分からなかった。

チャンミンは?」

 

「僕もです」

 

「...もう1回やってみる?」

 

「レストランは?」

 

レストランの予約時間が迫っていた。

 

「う~ん。

オッケ...レストランに行ってからにしようか?」

 

ユノは僕のお尻を叩いた。

 

「着替えよう!」

 

ユノは床に散らばった衣服から下着を探している。

 

「チャンミンはフロントに電話をかけて、タクシーを呼んでね」

 

「はい」

 

ユノは屋敷を出てからの暮らしを見据えて行動を開始したのだと思う。

 

「学生寮には2人で入れないからね」と、2人暮らしができる部屋探しをしているようだ。

 

僕も外界の人と接する機会を増やし、社会生活を送れるように特訓しないといけない。

 

その第一歩が電話だ。

 

僕は受話器をとり、外線に繋ぐようフロントへ内線をかけた。

 

 

ユノの家庭環境は、僕の力ではどうにもできない。

 

僕ができることは、ユノの味方でいるだけだ。

 

その為に僕はこの世に生まれてきた。

 

『ユノ』か『それ以外』

 

僕にはその2択しかない。

 

(つづく)

 

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