(8)19歳-初夜-

 

 

ずっと欲しかったことが今、目の前で実現しようとしているのに、いざとなると躊躇してしまった。

 

「待てよ。

何を言ってるのか分かってるのか?」

 

「はい」チャンミンは頷いた。

 

動揺した俺はまばたきを忘れてしまって、チャンミンの瞳から目を反らせない。

 

チャンミンのまつ毛は密度濃く生えていて、まばたきするごとに、パサパサと音がしそうだった。

 

10年以上感動しっぱなしの琥珀色の瞳は、あいにく俺の頭の陰になって暗く沈んでいる。

 

チャンミンに見入ることで、俺は何と返答すべきなのか思考を巡らしていた。

 

俺の口元にチャンミンの吐息がかかる。

 

バクバクと俺の心臓が暴れている。

 

「今夜...ダメですか?

ユノとしたいです」

 

「うーん」

 

困ったなぁ、と思った。

 

「今からしよう」も「今はダメだ」も、そのどちらの答えも俺を困らせた。

 

チャンミンの表情は、抑えきれない欲で切羽詰まったものというより、俺を請うものだったため、無下に拒否できなかった。

 

「今から?

早すぎないか?」

 

俺なりのプランでは、今夜中に何かを起こすつもりはなかったのだ。

 

今夜は、先日の質問の答えを貰えるだけで満足だったのに、一気に話は進んでしまった。

 

「慌てなくても...。

俺にも心の準備が...」

 

「駄目ですか?

無理ですか?

アンドロイド相手じゃイヤですか?」

 

みるみるうちに、チャンミンの両眉と口角が下がった。

 

「イヤじゃない!」

 

俺は叫んで否定した...チャンミンの耳を心配してしまうほどの大声で。

 

「イヤじゃない。

嫌じゃないけどさ...。

だって...ほら、さ。

分かるだろう?」

 

ここで、俺は言葉を切った。

 

その後は恥ずかしくて言いづらいことだったからだ。

 

「だって...

ユノが大好き過ぎて、苦しいんです。

心だけじゃなくて、身体も好きが溢れて苦しいです。

ずっと我慢してきました。

今だから打ち明けますが...ずっとずっと昔からです」

 

「昔って...いつ頃?」

 

「...ユノが高校に上がるか上がらないか、それくらいの頃です」

 

「なんだ。

わりと最近だね」

 

俺の場合はどうだったっけ。

 

中学に上がった頃から、チャンミンの汗の香りや鎖骨や二の腕に、腹の奥が熱くなる感覚を覚えるようになった。

 

「なんだ。

俺と一緒じゃん」

 

チャンミンの腕が、俺の背にまわった。

 

その手はそっと、遠慮がちなものだった。

 

俺の鎖骨に額を押し付けるチャンミン...甘えているのだ。

 

大きな身体をしていて、俺より年上なのに、優しいが故とても弱いのだ。

 

「男ってのはね、そういうものなの。

チャンミンもおんなじさ」

 

家人も客人も、使用人も皆、賑やかで騒がしい1階に集結していて、俺たちの存在は忘れられている。

 

俺とチャンミンは鍵のかかった部屋に二人きりで、ベッドに横たわっている。

 

チャンミンは、俺に 「苦しい」と口にすることはほぼない。

 

「自分の身体がいやです。

...人間であるユノに邪な欲求を持ってしまう自分が怖かったです。

僕はアンドロイドなのに、どうしてなんでしょう?

ユノ...幻滅しないで欲しいのです。

我慢できなくて、ここを...ここを...」

 

チャンミンの視線の先は、見て確かめなくても分かる。

 

「おかしいです。

センサーが壊れてしまったのかもしれない」

 

落ち着いた風を装っているが、内心は俺に拒まれたらどうしようと不安の嵐だろう。

 

「わかった」

 

俺は素早く、仰向けに横たわったチャンミンの上に身を伏せた。

 

柔らかで弾力あるマットレスが揺れた。

 

「俺に隠さなくちゃいけないし、我慢の限界を超えかけているし。

それから...」

 

チャンミンの頭を挟んで両手をつき、彼を潰さないよう両膝で体重を逃した。

 

「俺に嫌われるかもしれないって、不安だったんだね」

 

突っ張った腕の間で、チャンミンは緊張と期待が混じった表情で俺を見上げている。

 

でも、目は見開かれ、興奮と不安で光っている。

 

「チャンミン、ごめん。

すぐに『いいよ』って言ってあげたかったんだけど...」

 

チャンミンのおでこにちゅっと、音をたてて口づけた。

 

「カッコ悪い話。

俺...やり方が分からないんだ」

 

「?」

 

次はチャンミンの唇の端にキスをした。

 

「やり方は知ってるよ。

こんなものだろうってことは、知ってるけどさ。

女相手にもちろん、やったことは無い」

 

「もしあったとしたら...僕は泣いてしまいます」

 

俺はふっと笑い、チャンミンの唇をついばむキスをした。

 

「絶対にあり得ないから。

相手が女だって男だって、やり方は同じだ。

でも、男相手だと勝手が違うんだ」

 

俺は叔父から男同士の行為を、クローゼットの中から観察させるという歪んだ拷問を受けていた。

 

だから、やり方は知っている。

 

無垢な眼で俺を見るチャンミンに、どう説明したらいいか頭を悩ませた。

 

「チャンミンは...知っているよね?

ひとつになるって、どんなことをするのか?」

 

「...多分。

ユノなら何とかしてくれると思っていました。

僕はそういう面では無知ですから」

 

「そうかもね。

詳しすぎたら、ビックリしちゃうよ」

 

だって、チャンミンは世の穢れを知らない無垢なんだから...とは、恥ずかしくて口に出せなかった。

 

叔父さんからチャンミンを守れてよかった。

 

俺はチャンミンの背中を包み込むように横たわった。

 

そして、ぴったりと身体を密着させた。

 

「俺チャンミンのお尻に俺のが当たってるの...分かる?」

 

「...は、はい」

 

「固くなってるの...分かる?」

 

ずいぶん前から、俺のものは普通じゃなくなっていた。

 

これまでだったら、反応しても気付かれないよう、話題を変えて気を反らせたり、背を向けたり、着ているシャツで隠したり、誤魔化すのに苦労してきたのに、今はこうしてくっきりと、俺の欲を感じとってもらった。

 

より分からせようと、腰を押し付けた。

 

「凄いでしょ?」

 

「はい」

 

俺はチャンミンの首筋に、唇を這わせた。

 

ぴくり、とチャンミンの背が震えた。

 

チャンミンの肌から発散される体温が熱い、湯たんぽを抱いているかのようだ。

 

「チャンミンのことが好きで、欲しいから。

こうなっちゃうの。

チャンミンも同じでしょ?」

 

「......」

 

チャンミンの後頭部、耳の後ろの柔らかな髪は、カーブを描いている。

 

そこから突き出た丸い耳はやっぱり真っ赤になっていて、とても可愛いかった。

 

俺の身体も熱くなっているし、チャンミンの後ろにくっ付いていて、スイッチが入ってもおかしくない状況なのに、緊張度が高いせいで抑えられている。

 

声が震えないよう努力が必要だった。

 

「チャンミン...触るね?」

 

「えっ!?」

 

「触らせて」

 

自身を抱きしめて、チャンミンは身を固くしていた。

 

「は、恥ずかしい...です」

 

俺は腕をゆっくりと、チャンミンの前へとまわした。

 

「したい、って言ったのチャンミンでしょ?」と言ったのは、ちょっと意地悪だったかもしれない。

 

「やっ...」

 

下を隠すチャンミンの手を除けた。

 

力づくで抵抗されるかと思ったら、あっさりチャンミンの力は抜けていた。

 

指先に触れたもの...固いのに適度に弾力があるものが、生地の下から押し上げている。

 

「凄い...」

 

思わずつぶやいてしまった。

 

「すみません...」

 

「どうして謝るの?」

 

俺は身を乗り出して、チャンミンの顔を覗き込んだ。

 

チャンミンは羞恥のあまり、両手で顔を覆っていた。

 

「なんだか悪いことをしているみたいで...」

 

「悪いことじゃないさ。

これが自然なんだよ。

もうちょっと触ってもいい?」

 

かたどるように、上下に擦った。

 

「...あ」

 

チャンミンの腰が震えた。

 

頭の部分を親指でくるくると、刺激して。

 

チャンミンの背中がびくん、とさっきより激しく震えた。

 

「ん...ん...」

 

チャンミンは声が漏れないよう、手の甲で口を押さえている。

 

俺も男だから、どこをどうすれば感じるか分かる。

 

生地の上からじゃ物足りない。

 

俺の手はチャンミンのベルトにかかった。

 

 

(つづく)

 

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