(15)秘密の花園

 

 

2本の指が付け根まで挿ったところで、ユノはチャンミンの耳元で尋ねる。

 

「どう?」

 

「...っん...苦し...」

 

チャンミンはぎゅっと目をつむり、歯を食いしばっている。

 

ユノの首に回した腕にも、ユノの腰にからめた両脚にも力がこもっている。

 

チャンミンにしてみたら、肛門が裂けてしまうのではないかという恐怖と、腰の奥から広がる違和感...。

 

(これのどこが気持ちがいいんだろう。

女の子の膣内(なか)に挿れたことも、イッたこともないけれど...。

そもそもの話、僕の身体は『挿れる側』なんだ。

異物を受け入れるようには出来ていないんだ。

こんなこと...こんなこと...不自然だよ)

 

「痛いか?」

 

耳朶にかかるユノの熱い吐息。

 

いつもならぞくぞくと興奮を煽るものが、今はそれどころじゃないのだ。

 

激しく首を横に振って、そうっとまぶたを開く。

 

「痛くないけど...お尻が...いっぱいなの」

 

鼻先が触れ合わんばかりの距離に、逆光になったユノの顔があって、黒目がちの目が濡れたように光っている。

 

「いっぱい...ユノでいっぱい」

 

「!」

 

ユノの脳裏に、かつての彼女が『私の膣内(なか)が、ユノのでいっぱい』とかなんとか、漏らした言葉が浮かんでしまい、ユノはその記憶を飛ばす。

 

「2本の指なんて、初めてだよな?」

 

こくこくとチャンミンは頷く。

 

「怖いのか?」

 

こくこくとチャンミンは頷く。

 

「痛いことはしないから、安心しろ。

優しくするから」

 

(何を言ってんだ、俺?)

 

バージンだったかつての彼女に吐いた台詞にそっくりじゃないか、と思ってしまったから。

 

(あの時は、まず指で慣らして十分に濡らしてからやったんだっけ?)

 

指の付け根を絞めつける圧が強い。

 

(すげ...。

締まりがいいんだな...)

 

全身が硬直状態のチャンミンの緊張を解こうと、空いてる方の手をチャンミンの胸に置く。

 

すーっと首から下へと撫でおろす。

 

脇腹を通って胸へと戻る。

 

途中、手の平をくすぐる柔らかな突起を爪先で、ひっかくように刺激したら、

 

「あん」

 

(出た!

チャンミンの女っぽい声)

 

指の腹でチャンミンの乳首を円を描くように、転がす。

 

ユノの愛撫で、たちまち固く尖ってきた。

 

「あ...あん...あっ...」

 

ユノの肩下でチャンミンは喘ぐ。

 

(声が出ちゃう...あ...ムズムズして、痒いんじゃなくて...ちりちりして...股間に力がこもる...)

 

摘まんだ乳首を2本の指をこすり合わせるようにいじる。

 

「っあ...ん...駄目...駄目」

 

同時に、チャンミンの中に挿入したままの指をうごめかせる。

 

「ああ...あんっ」

 

(そうなんだよなぁ、チャンミンは乳首攻めが好きなんだ。

...女みたいだ...って思ったらダメか)

 

「や...駄目...そこ」

 

(なんだろ。

お尻の中が...うずうずして...。

何かが出ちゃいそうで...)

 

「駄目じゃないだろ?

イイんだろ?」

 

「だって...あんっ...両方は...駄目ぇ」

 

(お尻の中がおかしな感じになってるのに、おっぱいもいじられたら、僕はおかしくなってしまう)

 

「あ...あん」

 

(声が色っぽいんだけど。

待て。

チャンミンは男だ。

女みたいだと、思ったりしたら駄目だ)

 

「もっと動かして...いいか?」

 

「ダメ―!!!」

 

チャンミンの制止を無視して、乳首の愛撫はそのままに、埋めた2本の指を抜きさしする。

 

(チャンミンの直腸...じゃなくて内壁に押し当てたまま、ゆっくりと穴に向けて引く。

んでもって、指を拡げるーの...)

 

「あーーーー!」

 

ユノの耳元でチャンミンは叫んでしまい、ユノは一瞬顔をゆがめたが、「ここで『うるさい』 なんて言ったら、チャンミンが可哀想だ」と口をつぐむ。

 

(今のチャンミンは、未知なる世界に突入しようとしてるんだ。

ひるませたら駄目だ。

チャンミン、俺に任せろ。

気持ちよくさせてやるからな)

 

「ユノっ...駄目...拡げるの駄目っ...」

 

チャンミンの腰がプルプルと小刻みに震えている。

 

「チャンミン、いい子だから我慢してろ。

太さに慣れないと。

初めてだろ?」

 

ユノは乳首の愛撫を止め、その手でチャンミンの尻を撫ぜてやる。

 

「気持ちよくないよ!

全然。

あっ!

ユノ!

指をぐいーっとするの駄目ぇ!」

 

ユノは円を描くようにチャンミンの中をかき回した末、その指をぐいっと折り曲げた。

 

「あうっ!」

 

チャンミンの身体が跳ねる。

 

「痛かったか?」

 

「違っ...びっくりしただけ」

 

ユノは、チャンミンの唇の端からたらりと垂れた唾液を、ぺろりと舐めとってやった。

 

ユノとちらっと目を合わせると、チャンミンはかすかに笑みを浮かべ、そのうっとりとした表情にユノの胸は熱くなる。

 

(か...可愛い)

 

乱れた前髪で直線的な眉が隠れ、涙が潤んだ目元が幼い印象を強めた。

 

目尻も鼻先も赤くして、噛みしめていたせいで唇も赤く、唾液で光っている。

 

「チャンミン、腰を上げて」

 

チャンミンの腰が、さっきの拍子で下がってしまい、無理な姿勢になって指が抜けそうだった。

 

「何かが...出そう...」

 

ぽつりとチャンミンはつぶやいた。

 

「えっ!?」

 

「出そう...」

 

「ウンコか!?

ウンコしたいのか?」

 

「ばかぁ!!

違うよ!!」

 

(お尻の奥が...僕のタマの後ろがぞわぞわして...変な感じ。

何かが出そうな...変な感じ。

そうか!

...これが、気持ちいいってことなのかな)

 

「それならよかった」

 

ユノがホッと息をつくのを見たチャンミンは、

 

「何だよ。

僕のお尻は汚いってこと!?」

 

と、眉根を寄せてユノを睨みつけた。

 

「違うって。

もしウンコがしたいのなら、俺の指で栓をしてるわけにはいかないだろ?

出したいだろ?」

 

「...そんなんじゃない」

 

「エッチの途中だったんだぞ?

エッチが中断するんだぞ?

チャンミンがトイレに行ってる間、寂しいじゃないか」

 

「ユノ...」

 

「一旦、指抜くぞ?」

 

「...駄目。

ユノ...好き」

 

チャンミンはユノの頬を両手で包むと、そっと唇を押し当てた。

 

「!」

 

(頼むよチャンミン。

そういう可愛いことをするなって)

 

「いいよ、続けて。

ウンチがしたいわけじゃないんだ。

大丈夫、変な感じがしただけ」

 

「オッケー」

 

指を抜きさししているうちに、チャンミンの中の構造が分かりかけてきたユノだった。

 

「指をもう一回、挿れるぞ?」

 

「うん」

 

組み敷かれたチャンミンは、この時にはうっすらとまぶたを開け、その瞳は潤んでいる。

 

(熱い。

チャンミンの中が熱い。

すげ...。

やっぱり、男相手でもセックスが出来るんだ)

 

あるポイントを通過する際、チャンミンの肛門の締まりがよくなることにも気づいた。

 

(きつっ!

こんなに締め付けられたら、俺のちんちんがもげるかもしれない...)

 

「やっ...ユノ...それ、駄目...」

 

軽く開いた口から、熱い吐息と共に艶めかしい声を漏らすチャンミン。

 

「何これ...やだ...変な感じ...」

 

これ以上は挿らない程、奥底へ差し込んで、指先で、曲げた関節でぬらめく粘膜を刺激する。

 

抜き刺しするスピードも速め、こすりあげる刺激も強めた。

 

(ここをもっといじってやると...いいハズ)

 

「ひゃうん!」

 

チャンミンの腰が痙攣する。

 

(当たりだ。

もうちょっとグリグリして...)

 

「あ、ああーーっ」

 

チャンミンの顎が上がり、ユノの指の動きに合わせて、だらしなく開いた口から嬌声が漏れる。

 

「ひゃっ...あっ...」

 

「ん?」

 

見下ろすと、下腹に触れる濡れたモノ...。

 

(ダメダメと言いつつ、ちゃんと勃ってるじゃないか)

 

「やだ...そこぉ...

おかしくなるぅ...ひゃっ」

 

「チャンミン...。

それって感じてるんだって」

 

「そう...なの?」

 

「そうさ」と囁いて、ユノはチャンミンの耳たぶを咥えた。

 

(まずい...。

チャンミンの構造を探求するあまり、真面目な気持ちになってしまった。

エロい気分が消えてしまったぞ)

 

自身のモノを見下ろして、心中でたらりと冷や汗が流れた。

 

(膨張率10%未満?

探り探りの牛の直腸検査みたいだったからなぁ。

よし!

今日はここまでにしておこう)

 

指を抜き去る際も、チャンミンの腰が跳ねる。

 

「あぅっ!」

 

(そう、そこそこ。

抜く時が...たまらないんだ)

 

ユノは腰にからみついたチャンミンの膝に手をかけ、マットレスに落とす。

 

「え!?」

 

「今日のところはこの辺にしとこう」

 

ユノは濡れた指をティッシュペーパーで拭きながら宣言した。

 

「え...?」

 

仰向けになったままのチャンミンは、ユノの言葉に跳ね起きた。

 

「なんで!?」

 

「まだ足りない?」

 

ユノは余裕ある表情を作って、冗談めかして言う。

 

(俺のモノが萎えてしまったから、とは言えない...)

 

「......」

 

口をへの字にゆがめたチャンミンに、くすりとしたユノは腕を伸ばして、くしゃくしゃと頭を撫ぜる。

 

「お前のケツの穴が心配なだけ。

慌てずにいこうぜ」

 

「う...ん」

 

「よかったか?」

 

「うん...」

 

「ユノ...ありがと」

 

「何が?」

 

「優しくしてくれて」

 

「!」

 

(かーーーー!

チャンミン...頼むから可愛いことを言ってくれるなって。

初体験を済ませた女の子の台詞みたいなことを、言うなって!)

 

「どしたの?」

 

「何でもないよ。

チャンミン、よく頑張ったな」

 

「まーね。

一応、僕も練習してきたからね」

 

チャンミンは鼻にしわを寄せて笑い、それが心からの笑顔だ知っているユノは、優しい眼差しでチャンミンを見つめるのだった。

 

「よかったねー。

1歩どころか、100歩くらい前進したよね」

 

「ああ」

 

「これで『本番』も大丈夫だね。

心配し過ぎてただけみたい。

実はたいしたことなかったね」

 

チャンミンは得意そうにそう言うと、ベッド下に散らばった服を拾い集め始めた。

 

 


 

 

 

ぷっ。

 

 

(『ぷっ』...?)

 

 

「......」

 

 

続けて、

 

 

ぷぷっ。

 

 

 

「......」

 

 

ちらっと横を向くと、ベッドの下へ腕を伸ばす姿勢のまま一時停止したチャンミン。

 

 

(わーーーー!!

 

おならがでちゃった!

 

おならをしちゃった!

 

空気が入っちゃったんだ。

 

ユノの指で刺激されて、僕の腸がびっくりしてるんだ。

 

どうしよう...!

 

聞かれたよね。

 

あんなに大きな音だったから。

 

恥ずかしい!)

 

ぼっと汗が噴き出てくるのがはっきりと分かる程、全身がカッと熱くなる。

 

 

一方、ユノといえば、

 

(今の...おなら...か!?

チャンミン...おならしちゃったか!

 

出るだろうな、指を出し挿れしたんだから。

ぐりぐりケツの中を、刺激したんだから。

 

おならが出ちゃったか!

面白い。

非常に面白い。

普段だったら、腹を抱えて大爆笑ものだ。

 

だが、今は絶対に笑ったらいけない。

笑いを堪えろ!

 

アナルバージンを捧げたばかりなんだ(未だ、ブツを突っ込んだわけじゃないけど)。

ナイーブなチャンミンを傷つけるわけにはいかない!)

 

「チャ、チャンミン」

 

「な、何?」

 

「来週、牧場実習だろ?」

 

「そうだね。

荷造りはどんな感じ?」

 

ユノとチャンミンが在籍する科では、夏休みの後半を利用しての牧場実習がある。

 

現場での実習を通して畜産家の仕事を体験する、遊び要素ほぼゼロの過酷なプログラムなのだ。

 

「俺はバッチリだ。

そうだ!

つなぎの洗い替えは買ったか?」

 

「うん。

長靴も新しいのを買わなくちゃね」

 

「だよなー。

汚い長靴をスーツケースに入れて行きたくないよな」

 

「うん」

 

「......」

 

「......」

 

(気まずい...。

やっぱり笑ってやればよかったかな)

 

表情を見られないよう、ユノは慌ててTシャツに腕を通す。

 

「ユノったら、パンツを先に履きなよ」

 

チャンミンが放り投げたボクサーパンツをキャッチして、「そうだな」ともごもごとつぶやいた。

 

(この気まずさを解くには...どうすればいい?

今さら『おならしただろ』なんて指摘して笑う訳にもいかない。

...そうだ!)

 

ユノの頭にいい考えがひらめいて、口元がにやりと緩んでしまう。

 

チャンミンがその笑みを見逃すはずはなかった。

 

(ユノがよからぬ企みが浮かんだ時の顔だ!

僕に変なこと...エッチなことをさせるつもりだ!)

 

「なあ、チャンミン」

 

「な、なんだよ?」

 

ユノは下着を履きかけたチャンミンの腕を制した。

 

「長靴、まだ買ってないよな?」

 

「週末にバイト代がはいるから、その時に生協で買うつもりでいるよ」

 

「売り切れてるかもよ」

 

「えっ!?」

 

「だって、学科の奴らみんな、同じこと考えてるって。

長靴を買おうって。

ほら、白衣の時もそうだったじゃん。

売り切れちゃってさ」

 

「確かに...。

どうしよう...」

 

「そんなこともあろうかと思って...」

 

ユノはクローゼットの扉を開けて、中から箱を取り出す。

 

ごたごたと物を押し込んだ棚から、コートや漫画本やらが落下してユノの肩に当たる。

 

「チャンミンの分も買ってきたんだ」

 

じゃーんとばかり、箱の中身を披露する。

 

「ユノ!」

 

ユノの優しさに感動したチャンミンは、両手を合わせた。

 

「でさ、サイズが合うかどうか心配でさ。

ちょっと履いてみて」

 

そう言ってユノは、チャンミンの手を引いて立ち上がらせた。

 

フローリングの床に置かれた新品の長靴に、チャンミンは足を入れる。

 

「あ...。

ぴったり」

 

「!!!!」

 

ユノは長靴を履いたチャンミンの姿に、卒倒しそうだった。

 

 

(やべー!

 

エロい!

 

滅茶苦茶エロい!

 

まっぱに長靴は...エロ過ぎる!)

 

 

「ユノ、ありがと」

 

足元を見下ろしていたチャンミンは、弾ける笑顔でユノを見ると...。

 

「ん?」

 

片手で口を覆って、笑いを堪えているユノが...。

 

「わっ!!」

 

チャンミンは、全裸で長靴を履いている自分に気付く。

 

慌てて両手で股間を隠す仕草も、ユノにしてみたら欲情を煽る要素になってしまうのだ。

 

チャンミンは、ぎらぎらと妖しい光をたたえたユノの目から視線を外せずにいた。

 

ごくりとのどが鳴った。

 

(つづく)

 

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