会社員-情熱の残業14-

 

 

「何、ボーっとしてんだ?

とっととオレにキスをしろ!」

 

シートに横たわったチャンミンは、俺をギロリと見ると目をつむってしまった。

 

俺からのキスを待っているらしい。

 

真一文字に引き結ばれたチャンミンの唇を前に、俺は「うーむ」と悩んでいた。

 

チャンミンの急変についていけなくて動揺していたのもそうだし、「伸るか反るか」激しく迷っていたのだ。

 

なぜなら、チャンミンのアソコに俺の視点が数秒間、ロックオンされてしまったからだ。

 

(俺は、チャンミンに食われてしまうかもしれない...!)

 

頼りないルームランプの下でもよく分かる。

 

チャンミンの細身のスラックスの...あの辺り...盛り上がっている...アレの形まんまに。

 

俺はゴクリ、と唾を飲み込んだ。

 

どうやらチャンミンは、性的に興奮しているらしい。

 

ちょいダサで真面目で、ちょっとズレてるけど頭の良い、ヲタ気味の実は美青年の、元気なアソコを目にするのは感慨深いものがある。

 

「まだか!?」

 

鋭い声にビクッとした俺は、チャンミンの股間から彼の顔に視線を移した。

 

俺をギリリと睨みつけている。

 

丸いカーブを描いたまぶたと、濃いまつげ、ふっくらとした涙袋。

 

なるほど、チャンミンを可愛らしく見せているのは目の形なんだな、と心のチャンミン録にメモをした。

 

見た目は可愛いのに口調だけが乱暴で、なかなかキスをしようとしない俺に焦れて、口を尖らせた様子はいつものチャンミンだ。

 

眉根を寄せて俺を睨んでいるけど、全然怖くないわけでして。

 

(ヤバイ...可愛いんだけど!)

 

こみ上げる笑いに耐えきれなくなって、「ププー!」と吹き出してしまう。

 

「オレを馬鹿にしとるんかぁ!?」

 

キレたチャンミンにシャツの衿をつかまれて、上下にシェイクされた。

 

「してませんしてません」

 

チャンミンとしては、もっと乱暴なことをしたいんだけど、根の優しさがそれを邪魔しているんだろう。

 

そんなチャンミンが愛おしい。

 

「キスしろ!」

 

俺はチャンミンにのしかかられた格好になっている。

 

「ユンホ!

ズボンを脱げ!」

 

「わっ!

待て!」

 

俺のベルトを外そうとするチャンミンの手を、全力で阻止する。

 

「離せ!」

 

「チャンミン...一度、落ち着こうか?」

 

「ああん?」

 

ギロリと睨まれ、「チャ、チャンミン様!」と言い直す。

 

「お前...バージンか?」

 

(バージン?

男の俺が、『バージン』?)

 

「!!!」

 

チャンミンの言う『バージン』が、何を指すのか分かって、真っ青になった。

 

「...はい」

 

俺の返事に、チャンミンはなぜか安心したようで、俺のベルトから手を離すと自分のシートに戻った。

 

「ユンホはバージンか...ぐふふふ」

 

ひとり気持ちの悪い笑みを浮かべるチャンミンに、冷や汗が流れた。

 

ズボンを脱げ発言といい、バージン発言といい...。

 

「社用車の中で、チャンミンはコトを成そうとしているのでは!?」の予感しかしない。

 

これまで恋愛関係になったのは女性とばかりだ。

 

そんな俺がチャンミンと出逢ったことで、相手の性別にこだわらなくてもいいのでは?と思うようになった。

 

前にも言ったことだけど、綺麗なものは綺麗だ。

 

綺麗なものに惹かれる気持ちに、ブレーキはかけられない。

 

チャンミンの場合、ユニークなキャラクターが俺の好き度を上昇させるのだ。

 

とは言え、恋人同士になった大人がハグとキスだけで満足していられるわけがない。

 

俺だって人並みに性欲はあるし、好きになった奴の裸を見てみたいし、触りたいし、俺の身体を触って欲しい。

 

アソコとアソコを繋げたいなぁ、と望んでしまう。

 

困ったことに俺もチャンミンも男だから、女性相手のようにはいかないのだ。

 

ちらりと隣のチャンミンの様子を窺うと、買い物袋の中を漁っている。

 

(腹が減ったのか?股間は相変わらず逞しくさせている...この後の為にエネルギーチャージしているのか?)

 

俺の『バージン』は、チャンミンに捧げることになるのだろうか?

 

いや...待てよ...?

 

チャンミンが話を持ち出してくれて助かった。

 

チャンミンと恋愛するにあたっての重要事項、つまり...チャンミンには男との経験があるのかどうか?

 

たまにカマっぽい言動をすることがあって、それがよく似合っているが、それイコール『経験有』と言いきれない。

 

(ずっと気になっていたんだよなぁ)

 

「あのー、チャンミン様。

ひとつお尋ねしたいことがありまして...」

 

「ああん?」

 

ポテトチップスをむしゃむしゃ食べるチャンミンは、ぎゅっと眉間にしわをよせて俺を横目で見た。

 

油でてらてらとさせた唇の端に、ポテトチップスの欠片を付けている。

 

(か、可愛い...)

 

「何ぼーっとしてんだ。

質問するのなら、早うせい!

とろくさい奴は嫌いなんだ!」

 

「へ、へい(お前は岡っ引きの手下かよ...)

チャンミン様の方こそ、『バージン』なんですか?」

 

「......」

 

チャンミンは、次のひと口を放りこむ格好のままフリーズしている。

 

固唾を飲んでチャンミンの回答を待っていると...。

 

薄暗い車内でもはっきりと分かるほど、チャンミンの顔が一瞬、青くなったかと思うとみるみる赤くなってきた。

 

(ん?)

 

「ざけんな!

オレ様にしていい質問と、絶対禁止の質問があるんだ!」

 

興味津々な俺は、もう一度尋ねてみる。

 

「チャンミン様は...バージンなんですか?」

 

「ノーコメント!」

 

チャンミンの動揺から判断する限り...駄目だ、ア○ル経験有りとも無しともどっちでもとれる。

 

もう一歩踏み込んでみよう。

 

「俺には経験がありませんので...。

チャンミン様に是非、ご教授いただければと思いまして...」

 

「ふっ。

オレ様の身体で教えてやるよ」

 

チャンミンは唇をべろりと舐めると、ベルトを緩めファスナーを下ろし始めた。

 

(しまったー!

スイッチを入れてしまった!)

 

「チャチャチャンミン様!

ここは車の中です!

思い出してください、今は勤務中、残業中、出張中ですよ!

チャンミン様はその辺、けじめをしっかりとつけてらっしゃるお方だと思っていましたが」

 

外は氷点下。

 

窓ガラスは白く曇っている。

 

全身からかっかと熱を発散するチャンミンによって、車内は蒸し風呂のようだった。

 

なんだよ、この滅茶苦茶な展開は...。

 

(そうだ!)

 

 

「お!

電話だ、こんな時間に何だ何だ?」

 

鳴ってもいないスマホを耳に当てた。

 

邪魔が入ってムッとしたチャンミンに、片目をつむって謝ってみせた。

 

俺はチャンミンに背を向け、スマホを素早く操作してウメコへ電話をかけたのだ。

 

俺たちの任務が完了するまで、熱くなったチャンミンとの2人きりは辛すぎる。

 

チャンミンを虎にする呪文があるのなら、それを解く呪文もあるはずだ。

 

「ウメコ、俺だ、ユノだ」

 

『ユノォ、今夜は暇なのよ。

ただ酒飲ませてやるから飲みに来ない?

面白いアクセサリーを作ったから、ユノに試してもらいたいのよぉ』

 

「アクセサリーとか酒とか、今はそれどころじゃないんだ!

お前のみょうちきりんなもののせいで、こっちはエライことになってるんだ!」

 

『あらあら』

 

「この前、俺を元気づけるとか、癒すとかいうおまじないを俺に教えただろ?

紙に書いて渡してくれたヤツ」

 

『試してみた?

効果抜群だったでしょ?』

 

「効果があったのかなかったのかを確認する前に...結局アレはどういった類のおまじないなんだ?」

 

『元気付けて、同時に癒してくれる、と言ったら、アレしかないじゃないのよ』

 

「俺になぞなぞはいいから、ズバリ教えてくれよ」

 

『いちいち教えなくても、身体の変化で分かるでしょ?

ユノのセックスライフを充実させてあげる呪文よ』

 

「はあぁぁぁ!?」

 

 

 

(つづく)

 

 

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