会社員-愛欲の旅4-

 

「ちょっと熱があるだけだよ!」

 

俺の額に当てられたチャンミンの手の平に異常に照れてしまって、払いのけてしまった。

 

直後、「しまった!」「フォローせねば!」と思ったところ...。

 

(チャンミンはガラスのハートの持ち主なのだ。俺基準だと)

 

「おおっ!?」

 

視界が1段下がり、俺の両足が空に浮いた。

 

「待てっ、チャンミン!」

 

チャンミンの奴、俺をお姫様抱っこしたのだ。

 

「暴れないで下さい!

ちゃんとつかまって!」

 

びしっと言われて、俺は大人しくチャンミンの首に腕を回した。

 

玄関先からベッドまでのわずか数メートルを、なぜかお姫様抱っこで運ばれている俺。

 

鍛えているらしいチャンミン、長身の俺を軽々と持ち上げた。

 

チャンミンは俺をベッドに下ろすと、

 

「ユンホさん。

このシムチャンミンに全てをゆだねて下さい」

 

と、「任せとけ」とばりに胸を叩いてみせた。

 

重病人扱いされているが、実は大してキツくないとは言い出せない。

 

「滋養に満ちたものを作りますね」

 

チャンミンは腕まくりをし、持参してきたエプロンをつけた。

 

鼻歌を口ずさみながら、スーパーの袋の中身をキッチンカウンターに取り出している。

 

「ホームパーティでも開くのか?」レベルの食材の多さは予測通りだったが、ボストンバッグから土鍋を出してきた時には、「マジか...」とつぶやいてしまった。

 

(バスタオルに包んだ黒い土鍋を目にした時、一瞬スッポンかと思ってしまった。

 

『滋養』の言葉と、何事も極端なチャンミンならスッポンくらい調達してくるのでは?と。

 

『ユンホさん。

スッポンの生き血は精力に効くそうです』

 

『俺はただの風邪。

精力つけてどうすんだよ?』

 

『そうりゃあ、もう...ごにょごにょ...』

 

『え!?

そのつもりだったの?』

 

『ユンホさんの、馬鹿ぁ。

そうに決まってるじゃないですか。

ぼ、ぼ、僕らも、そろそろ肉体関係を結ぶステージに来ていると思うのであります』

 

『よ~し。

これを飲んで、体力回復、精をつけるよ』

 

『ぐふふふ。

ユンホさんが激し過ぎたら...大丈夫かなぁ、僕?』

 

...みたいな?)

 

妄想力がすごいな、俺...熱に頭をやられたんだな。

 

ベッドに横になっていなければならない程、体調が悪いわけじゃない。

 

食事が出来上がるまでの間、TVでも観ながら待つか。

 

俺が住んでいるアパートは、カウンターキッチンになっている。

 

だから、クッキング中のチャンミンを存分に観察できるのだ。

 

「ねぇ、チャンミン。

何作ってんの?」

 

「内緒です」

 

「ふぅん、楽しみだなぁ」

 

料理本まで持参してきたようで、各工程ごとに手を止め、レシピを確認しているようだ。

 

この時、眉をひそめ、ぶつぶつとつぶやきながらだったから、俺にはメニューがバレバレなのだ。

 

「輪切りにしたキュウリを塩と胡椒で味を調え...三倍酢で和えてごま油で(サラダか?)...香りづけに柚子皮を...ええっ、柚子なんて聞いていませんよ...うーん、オレンジでいいでしょう。

 

くし切りした玉ねぎを透けるまで炒め...乱切りにしたジャガイモと人参を加えて...別のフライパンで焼き色をつけた牛肉を...どうしてここで肉が登場するんですか!?...火を消して、牛肉を炒めましょうか...(カレーか?)

 

弱火にしてヘラ等で焦げ付かないようかき混ぜる...アルコールの香りが消えたところで、あらかじめ溶かしておいた小麦粉を加える...漬け置いたおいたラム肉を(いつの間に!)...落し蓋で煮込んだのち...180℃に温めておいたオーブンで...もぉ、もっと早く教えてくださいよ(一体何を作っているんだ?)

 

あちっ、あっちちち!

 

チーズおろし器で...困りました、持ってくるのを忘れました...普通のおろし金で代用...ごそごそ...ユンホさんちには無いんですか!?...ふむ、根性で刻みましょう。

 

ニンニクをよく炒め、湯通ししておいたウナギに...ふふふ、バッチリです...4の工程で揚げた牡蠣を...4の工程?おお!見落としてました...ざく切りしたニラをさっと炒め...最後に素揚げした丸ごとニンニクを散らす(チャンミンよ...俺に精をつけさせて、どうするんだよ)」

 

風邪っぴきの俺の為の、消化の良いお粥はどこいった?

 

土鍋はどこで使うんだ?

 

「盛りつけたら最後の仕上げ。

LOVE注入...ぐふふ...なぁんてね」

(古い!古いよ)

 

俺と目が合ったチャンミンはペロッと舌を出してみせた。

 

か、可愛い...。

 

 


 

 

「...ユノ。

チャンミン君が手料理を振舞ってくれた...私はね、そ~んな話を聞きたいわけじゃないのよ。

のろけ話をどれだけ憎んでいるか、あなた知っているでしょう?」

 

前置きがやたら長いチャンミンの癖が移ってしまったみたいだ。

 

「悪い。

お前はトラブル話が三度のメシより好きだからなぁ?」

 

「人聞きの悪いこと言わないで頂戴。

私が聞きたいのは、チャンミン君があなたにソーニューしたのかどうか!

ここ『だけ』を微に入り細にわたって教えて欲しいのよ」

 

「お、俺がなんで『ウケ』なんだよ!?」

 

「...面白いから」

 

「おい!

俺とチャンミンで好き勝手に妄想するんじゃない!」

 

「小鹿みたいな可愛い子ちゃんがね、オラ系のあなたにぶち込むのよ。

きゃあぁぁぁ、これぞBLの醍醐味」

 

ここで俺ははたと気付かされる。

 

そっか...俺とチャンミンの恋は、ノーマルな者から見るとマイノリティに属するのか。

 

俺には全く抵抗がない。

 

だって、好きな気持ちは止められない。

 

俺がチャンミンに惹かれるようになった最初のきっかけはルックスだ。

 

綺麗なものは綺麗なのだ。

 

ところが早い段階で、見た目以上に彼のキャラクターから目が離せなくなったのだから。

 

 

(つづく)

 

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