(4)お仕置きの時間~チャンミンversion~

 

 

「...チャンミン...俺はがっかりだよ。

キスしたんだって!?

信じらんねーよ...」

 

ユノはぺたりとその場に座り込むと、両手で目を覆ってしまった。

 

(ユノ...泣いてるの...?)

 

「んん(ユノ)...」

 

チャンミンは腰を上げ、ダイニングチェアを引きずってユノに近づく。

 

「んん(ユノ)、んんんんんん(泣かないで)」

 

両手を拘束されているチャンミンは、足先でユノの膝をつんつんする。

 

「んっんん、んんん、んんっんー」

 

「何言ってるか、分かんねーよ」

 

ユノは立ち上がり、ずいっと顔を寄せ、至近距離からチャンミンと目を合わせた。

 

「彼女と...ヤッたのか?」

 

チャンミンは真正面からユノの視線を受け止める。

 

「ヤッたのか?」

 

「......」

 

「吐かせてやる!」

 

ユノはTVの音量を上げると、再びどかっとチャンミンの足元に胡坐をかく。

 

女の猫みたいな声と男の荒い吐息が(隣室から苦情が出てもおかしくない程のボリュームで)、リビング中に響く。

 

「うっわー、女のアソコ、丸見えだぞ~?

どうだ、チャンミン?

こら!

目を反らすな!」

 

ユノはバッと立ち上がり、つかつかとチャンミンの背後に回った。

 

「ちゃんと最後まで見るんだ!」

 

「んーーーー!」

 

ユノはチャンミンの両耳を左右に引っ張った。

 

「んーー!!」

 

「あの子と何回した?」

 

「んんんん、んっ!」

 

「何だって?

......100回!?」

 

「んーー!!」

 

ぼろぼろと涙を流して、チャンミンは首を千切れんばかりに横に振る。

 

「エロいよな、この2人。

チャンミン...お前も、こんな風にヤッたわけ?」

 

「んんんーん!」

 

チャンミンは両足を踏み鳴らした。

 

「あの男...」と、ユノはTV画面を顎でしゃくって言った。

 

「見れば見るほど、チャンミンに見えてくる...。

あのなで肩...頭の形...」

 

ユノはバッと、後ろにとびすさり、目を大きく見開いて口を手で覆った。

 

「ま...まさか!

こいつ...お前なのかっ!?

チャンミン...お前、盗撮されてたのに気づかなかったのか!?」

 

「んーーー!!!」

 

チャンミンは、床をドンドン踏み鳴らした。

 

「くそっ...モザイクで形が分からない!

チャンミンなのかどうか、確認がとれねぇ」

 

「んんーー!!」

 

TV画面の二人は無事、フィニッシュを迎えたようだった。

 

ふうふう言う男の荒い吐息と、恍惚の表情を浮かべた女の顔のアップ。

 

「......」

 

「......」

 

ぷつりと映像は切れ、TV画面はブルースクリーンに切りかわった。

 

「......」

 

「......」

 

ユノの眼が三日月形になる。

 

チャンミンの後頭部で固く結んだネクタイを、ユノは外してやった。

 

そして...。

 

「コングラチュレーション、シムチャンミン!」

 

ユノはチャンミンの両頬を包み込み、チュッチュッとキスの雨を降らした。

 

「チャンミンの無実は証明されました」

 

「......」

 

「疑って悪かったな」

 

「......」

 

「あれ?

チャンミン...怒ってる?」

 

「......」

 

「いやあ、チャンミンは凄かった。

あんなエロ動画見せられて、チャンミンのムスコはびくともしないんだ。

女の裸見ても勃たないなんて...すげぇよ」

 

「あったりまえでしょう!

女の人に興味がないってこと、ユノがよーく知ってるでしょう?」

 

「でもさ、あの子と...俺が紹介した子といちゃいちゃしてたらさ...嗜好が変わるかもしれないじゃん」

 

「イチャイチャなんかしていないよ!」

 

「うむ。

そこは信じてやろうではないか」

 

「ユノの馬鹿!」

 

「『僕も挿れてみたいなぁ。女の人とするのって、どんなんだろう』って、興味持つかもしれないじゃないか?」

 

「持たねーよ!」

 

(チャンミンの乱暴な言葉遣い...萌える)

 

「そもそもさ、浮気しろって言い出したのは、ユノでしょう?」

 

「そうだよ。

ジェラシーって、恋の炎をメラメラさせるじゃん?」

 

「あの子を紹介したのはユノでしょう?

『デートしろ』なんて...」

 

「なかなか絶妙なラインをついてきただろう?

絶妙過ぎて、人選誤ったか!...って。

チャンミンが堕ちてしまったんじゃないかって...怖かったよ」

 

「堕ちるかー!」

 

「それにさ...俺たちって付き合いが長いだろ?

俺に飽きてきてもおかしくないだろ?」

 

「ユノは僕のことを、ぜーんぜん分かってないですね。

僕はね、ユノがいいんです」

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか...」

 

「『浮気ごっこ』なんて...必要ないのに、さ...」

 

「でもさ、1か月も会わなかったのって、初めてだっただろ?

チャンミンのありがたみが、よーく分かったよ。

...ん?

どうしたチャンミン...むすっとした顔しちゃって?」

 

「ユノ...あの動画は、どうやって手に入れたんですか?」

 

「...え?」

 

「男優が僕そっくりで、すごい嫌なんですけど?」

 

「チャンミンにそっくりなのを、探したんだよ」

 

「ってことは、いくつもいくつも、エロ動画を見たってことですよね?」

 

「ああ。

それのどこが、問題なんだよ?」

 

「ユノこそ...女の人に目覚めたんじゃないでしょうね?」

 

「き、気持ち悪いこと言うなよなー!

俺はね、チャンミンがいいの!」

 

「ホントに?

...あれ?

ユノ...顔が怖いよ?」

 

「...チャンミン。

女とキスしたんだって、なあ?

スルーするところだったよ。

どういうことだ?

ああん?

お仕置きしなくっちゃな?」

 

「...嘘に決まってるでしょう」

 

「嘘!?」

 

「うん。

ユノにヤキモチを妬いてもらいたくて、嘘ついてみました」

 

「デートはしたんだろ?」

 

「食事に1度行っただけです」

 

「だけ?」

 

「はい。

ユノとのLOVEライフを惚気てやったんです。

彼女、引いてました」

 

「......」

 

「だーかーら。

僕は真っ白なんです。

ユノ、残念でしたね。

『浮気ごっこ』は失敗です。

ユノったら...ぷぷっ...騙されちゃって、可愛いんですから」

 

「......」

 

「早く、これを解いてください!」

 

「...ちょろいな」

 

「?」

 

「チャンミン...ちょろいんだよ」

 

「?」

 

ユノはびしっと真っ直ぐ腕を掲げ、リモコンをTVに向けた。

 

TV画面に映し出されたもの。

 

「!!!!!!」

 

ユノは目を細め、唇の片端だけでニヤリと笑う。

 

「ジェラシーに苦しみ、怒り狂う俺を見たいからって、

してもない浮気を、したフリなんかしやがって!

浮気が本気になったフリなんかしやがって!

俺を負かしたと得意になってるんだろうがなあ?

ちょろいんだよ、シムチャンミン!」

 

大画面TVに、映し出されたもの。

 

「お仕置きの時間は、まだ終わってないんだよ!」

 

「!!!!」

 

「目をつむるんじゃない!

よーく見るんだ。

チャンミンのイキ顔...エロいなぁ」

 

「い、いつ撮ったんですか!?」

 

「『浮気ごっこ』決行の前の日。

当分出来ないからって...燃えたよなぁ...。

あらら...自分から腰振っちゃって...エロいなぁ」

 

「もう!

消してよ!

恥ずかしいからっ!」

 

「チャンミン...綺麗だよ。

すげぇ、色っぽい」

 

「ユノの...変態...」

 

「変態なのはチャンミンの方だよ。

ほら。

お前のムスコ...凄いことになってるよ」

 

「...だって...ユノが...」

 

「俺のことがよっぽど好きなんだなぁ。

お!

縛って悪かったな。

お仕置きの時間は終わりにしよう」

 

ユノは、チャンミンの手首を締め付けていたネクタイをほどいてやった。

 

「うわっ!?」

 

ユノの手首は「あっ!」という間にチャンミンに捉えられ、ぎりりとねじり上げられた。

 

「ちょろいな」

 

「?」

 

「ちょろいんですよ、ユノ」

 

「!?」

 

「僕を甘く見てたら、火傷しますよ」

 

「こら!

チャンミン!

何すんだ!」

 

「お返しです。

ユノにも『お仕置き』をしてあげないと、ね」

 

 

 

(おしまい)

 

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