「...チャンミン...俺はがっかりだよ。
キスしたんだって!?
信じらんねーよ...」
ユノはぺたりとその場に座り込むと、両手で目を覆ってしまった。
(ユノ...泣いてるの...?)
「んん(ユノ)...」
チャンミンは腰を上げ、ダイニングチェアを引きずってユノに近づく。
「んん(ユノ)、んんんんんん(泣かないで)」
両手を拘束されているチャンミンは、足先でユノの膝をつんつんする。
「んっんん、んんん、んんっんー」
「何言ってるか、分かんねーよ」
ユノは立ち上がり、ずいっと顔を寄せ、至近距離からチャンミンと目を合わせた。
「彼女と...ヤッたのか?」
チャンミンは真正面からユノの視線を受け止める。
「ヤッたのか?」
「......」
「吐かせてやる!」
ユノはTVの音量を上げると、再びどかっとチャンミンの足元に胡坐をかく。
女の猫みたいな声と男の荒い吐息が(隣室から苦情が出てもおかしくない程のボリュームで)、リビング中に響く。
「うっわー、女のアソコ、丸見えだぞ~?
どうだ、チャンミン?
こら!
目を反らすな!」
ユノはバッと立ち上がり、つかつかとチャンミンの背後に回った。
「ちゃんと最後まで見るんだ!」
「んーーーー!」
ユノはチャンミンの両耳を左右に引っ張った。
「んーー!!」
「あの子と何回した?」
「んんんん、んっ!」
「何だって?
......100回!?」
「んーー!!」
ぼろぼろと涙を流して、チャンミンは首を千切れんばかりに横に振る。
「エロいよな、この2人。
チャンミン...お前も、こんな風にヤッたわけ?」
「んんんーん!」
チャンミンは両足を踏み鳴らした。
「あの男...」と、ユノはTV画面を顎でしゃくって言った。
「見れば見るほど、チャンミンに見えてくる...。
あのなで肩...頭の形...」
ユノはバッと、後ろにとびすさり、目を大きく見開いて口を手で覆った。
「ま...まさか!
こいつ...お前なのかっ!?
チャンミン...お前、盗撮されてたのに気づかなかったのか!?」
「んーーー!!!」
チャンミンは、床をドンドン踏み鳴らした。
「くそっ...モザイクで形が分からない!
チャンミンなのかどうか、確認がとれねぇ」
「んんーー!!」
TV画面の二人は無事、フィニッシュを迎えたようだった。
ふうふう言う男の荒い吐息と、恍惚の表情を浮かべた女の顔のアップ。
「......」
「......」
ぷつりと映像は切れ、TV画面はブルースクリーンに切りかわった。
「......」
「......」
ユノの眼が三日月形になる。
チャンミンの後頭部で固く結んだネクタイを、ユノは外してやった。
そして...。
「コングラチュレーション、シムチャンミン!」
ユノはチャンミンの両頬を包み込み、チュッチュッとキスの雨を降らした。
「チャンミンの無実は証明されました」
「......」
「疑って悪かったな」
「......」
「あれ?
チャンミン...怒ってる?」
「......」
「いやあ、チャンミンは凄かった。
あんなエロ動画見せられて、チャンミンのムスコはびくともしないんだ。
女の裸見ても勃たないなんて...すげぇよ」
「あったりまえでしょう!
女の人に興味がないってこと、ユノがよーく知ってるでしょう?」
「でもさ、あの子と...俺が紹介した子といちゃいちゃしてたらさ...嗜好が変わるかもしれないじゃん」
「イチャイチャなんかしていないよ!」
「うむ。
そこは信じてやろうではないか」
「ユノの馬鹿!」
「『僕も挿れてみたいなぁ。女の人とするのって、どんなんだろう』って、興味持つかもしれないじゃないか?」
「持たねーよ!」
(チャンミンの乱暴な言葉遣い...萌える)
「そもそもさ、浮気しろって言い出したのは、ユノでしょう?」
「そうだよ。
ジェラシーって、恋の炎をメラメラさせるじゃん?」
「あの子を紹介したのはユノでしょう?
『デートしろ』なんて...」
「なかなか絶妙なラインをついてきただろう?
絶妙過ぎて、人選誤ったか!...って。
チャンミンが堕ちてしまったんじゃないかって...怖かったよ」
「堕ちるかー!」
「それにさ...俺たちって付き合いが長いだろ?
俺に飽きてきてもおかしくないだろ?」
「ユノは僕のことを、ぜーんぜん分かってないですね。
僕はね、ユノがいいんです」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか...」
「『浮気ごっこ』なんて...必要ないのに、さ...」
「でもさ、1か月も会わなかったのって、初めてだっただろ?
チャンミンのありがたみが、よーく分かったよ。
...ん?
どうしたチャンミン...むすっとした顔しちゃって?」
「ユノ...あの動画は、どうやって手に入れたんですか?」
「...え?」
「男優が僕そっくりで、すごい嫌なんですけど?」
「チャンミンにそっくりなのを、探したんだよ」
「ってことは、いくつもいくつも、エロ動画を見たってことですよね?」
「ああ。
それのどこが、問題なんだよ?」
「ユノこそ...女の人に目覚めたんじゃないでしょうね?」
「き、気持ち悪いこと言うなよなー!
俺はね、チャンミンがいいの!」
「ホントに?
...あれ?
ユノ...顔が怖いよ?」
「...チャンミン。
女とキスしたんだって、なあ?
スルーするところだったよ。
どういうことだ?
ああん?
お仕置きしなくっちゃな?」
「...嘘に決まってるでしょう」
「嘘!?」
「うん。
ユノにヤキモチを妬いてもらいたくて、嘘ついてみました」
「デートはしたんだろ?」
「食事に1度行っただけです」
「だけ?」
「はい。
ユノとのLOVEライフを惚気てやったんです。
彼女、引いてました」
「......」
「だーかーら。
僕は真っ白なんです。
ユノ、残念でしたね。
『浮気ごっこ』は失敗です。
ユノったら...ぷぷっ...騙されちゃって、可愛いんですから」
「......」
「早く、これを解いてください!」
「...ちょろいな」
「?」
「チャンミン...ちょろいんだよ」
「?」
ユノはびしっと真っ直ぐ腕を掲げ、リモコンをTVに向けた。
TV画面に映し出されたもの。
「!!!!!!」
ユノは目を細め、唇の片端だけでニヤリと笑う。
「ジェラシーに苦しみ、怒り狂う俺を見たいからって、
してもない浮気を、したフリなんかしやがって!
浮気が本気になったフリなんかしやがって!
俺を負かしたと得意になってるんだろうがなあ?
ちょろいんだよ、シムチャンミン!」
大画面TVに、映し出されたもの。
「お仕置きの時間は、まだ終わってないんだよ!」
「!!!!」
「目をつむるんじゃない!
よーく見るんだ。
チャンミンのイキ顔...エロいなぁ」
「い、いつ撮ったんですか!?」
「『浮気ごっこ』決行の前の日。
当分出来ないからって...燃えたよなぁ...。
あらら...自分から腰振っちゃって...エロいなぁ」
「もう!
消してよ!
恥ずかしいからっ!」
「チャンミン...綺麗だよ。
すげぇ、色っぽい」
「ユノの...変態...」
「変態なのはチャンミンの方だよ。
ほら。
お前のムスコ...凄いことになってるよ」
「...だって...ユノが...」
「俺のことがよっぽど好きなんだなぁ。
お!
縛って悪かったな。
お仕置きの時間は終わりにしよう」
ユノは、チャンミンの手首を締め付けていたネクタイをほどいてやった。
「うわっ!?」
ユノの手首は「あっ!」という間にチャンミンに捉えられ、ぎりりとねじり上げられた。
「ちょろいな」
「?」
「ちょろいんですよ、ユノ」
「!?」
「僕を甘く見てたら、火傷しますよ」
「こら!
チャンミン!
何すんだ!」
「お返しです。
ユノにも『お仕置き』をしてあげないと、ね」
(おしまい)