キスから始まった(2)

 

 

一度意識しだすと、チャンミンの所作のひとつひとつが気になる。

 

チャンミンの立ち居振る舞いに全神経を注いでいる自分がいた。

 

フライドポテトをつまむ手の小指が立っている、ティッシュで口元を拭く手も小指が立っている、ビールの缶を持つ手も小指が立っている。

 

胡坐をかくのでもなく、女の子みたいに足を横に崩した座り方をしているせいで、腰をひねったウエストから腰へのラインが色っぽい。

 

そっち系か?と勘違いしてしまうではないか。

 

お粗末なえっちをする彼氏に幻滅したのか、チャンミンに対するDの物言いに棘がある。

 

これは今日の昼間から気付いていたことだ。

 

買い物中、「喉が渇いた」だの「足が痛い」だと、チャンミンに不満ばかりこぼしていて、彼はDの買い物袋を全部持ってやり、飲み物を買ってやったりと、かいがいしく忙しい。

 

こんな関係性って、なんだかなぁ。

 

チャンミン、お前はこれでいいのか?

 

 

 

 

女子たちは、トッピングモリモリのクレープの写真撮影に夢中になっていた。

 

トイレに立った時、チャンミンは洗面所に両手をついて、がくりと首を折っていた。

 

具合でも悪いのかと声をかけようとした。

 

チャンミンは「はあぁぁぁぁ」と深い深いため息をついていた。

 

俺の存在に気付いたチャンミンは困り顔で微笑んで、肩をすくめてみせた。

 

「疲れるよな、分かるよ」の意味を込めて、俺の方も肩をすくめてみせた。

 

Aも我が儘な方だけど、美人に類するルックスが性格をカバーしてくれている。

 

Dは地味な顔立ちで、大人しそうな優しそうな子に見えるのに、彼氏の前だと不平不満と不機嫌ヅラ。

 

Dとチャンミンカップルが気になって仕方がない俺。

 

まさか俺がこっそり観察しているとは、彼らは思いもしないだろう。

 

俺はDのような女は嫌いだ、と思った。

 

Dの我が儘を野放しにしているチャンミンもチャンミンだ。

 

「別れたい」と思わないのだろうか?

 

...Dに惚れきっているのなら、多少の我が儘も可愛く映っているんだろうか。

 

初顔合わせが昨日だった俺たちだ。

 

第3者の俺が心配することじゃないし、余計なお世話だろう。

 

でも。

 

なんとなく気付いていた。

 

俺の背中は、ある視線を感じていた。

 

振り向くと、チャンミンと目が合うのだ。

 

互いの視線がぶつかった時、互いにすいっと目を反らし合う。

 

チャンミンがDのご機嫌とりに必死になっている間、俺は彼を観察していた。

 

反対に、「これとこれとどっちが可愛い?」と、バックルのデザイン違いの2つのバッグを掲げてみせるAに付き合っている(どうせ俺のジャッジなど無視するくせに。女の子はさっぱり分からない)間など、俺のうなじは視線を感じているのだ。

 

なんだこれ?

 

俺たちは何を意識し合ってるんだ?

 

このチープな飲み会中、チャンミンが皆の世話焼きに徹している間、俺は彼の股間が気になるし、やたら整った彼の横顔も気になるしで落ち着かなかった。

 

料理の味が分からないくらいに。

 

俺の左隣に座るDの面白くもなんともない失敗談に笑ってみせ、右隣に座るAの方へ顔を傾けた時、チャンミンの視線をかすめていた。

 

俺は確信した。

 

俺たち...意識し合ってる。

 

互いの彼女が隣にいるにもかかわらず。

 

だから先ほど、バチっと目が合った時、目を反らすことなく邪気のない笑顔を見せられて、俺はドキリとしたのだった。

 

「こいつ...俺のことが好きなのか?」と。

 

立てた小指と横座りから判断した俺は、偏見の塊だな。

 

「男が好きな質なのか?」と。

 

驚いたのは、男に好かれて気味が悪い、とは感じなかったことだ。

 

にっこり笑ったチャンミンに応えて、俺も微笑を返した。

 

「でも、彼女持ちだしなぁ...」と、複雑な心境だったけれど。

 

そして、風呂に入った後もばっちりメイクのAを、「どうなんだか」と意地悪な目で見てしまっている俺にも驚いた。

 

 

 

 

ベッドの上に並べたものがあらかた無くなったころ、「追加で何か買ってこようか?」と俺は立ち上がった。

 

アルコールでぼうっとしていたし、話題も尽きたし、気分転換を兼ねて、ひとり夜風に吹かれたくなった。

 

Aは「デザートがいいなぁ...プリンとか」と所望した。

 

「Dちゃんは?」とチャンミンの彼女にも、お義理で声をかけた。

 

Dは「いえ...私は大丈夫です」と、小さく首を振って遠慮がちだ。

 

「チャ、チャンミンは?」

 

どもってしまったのは、チャンミンの名前をはっきりと口に出したのが初めてだったから。

 

おかしいなぁ、なんでだろ。

 

「僕も一緒に行きます」

 

チャンミンはプラカップに注いだワインの残りを飲みきると、ベッドから下り、スマホを後ろポケットに突っ込んだ。

 

ちょっと嬉しかったりして...。

 

一度、2人きりで話もしたかったし...と自分に言い訳してみたりして。

 

さらに、チャンミンの方も俺と2人きりになりたかったのでは?なんて、都合よく思っていたりして。

 

 

 

 

「意外に外、暖かいね」とか「明日は晴れるかなぁ」とか「サークルは何やってるの?」とか、当たり障りのない会話ののち、俺たちの間にしばしの沈黙タイムが訪れた。

 

だからと言って、無理やり話題を探すことはしなかった。

 

AとD(Dは何もいらない、と言っていたが、気を利かせたのだ)のためにプリン、追加のアルコール類とおつまみ、お茶を買って、俺たちはコンビニエンスストアを出た。

 

この辺りはビジネスホテル街で、他所の地にいるのにそんな気がしない。

 

人通りは少なく、コンビニエンスストアとホテルの看板の灯りが歩道を明るく照らしていた。

 

俺とチャンミンは並んで歩いていた。

 

俺たちは背丈が同じで、歩幅も同じだが、互いの歩くペースにそれとなく気をつかっていた。

 

こんな感じ...経験したことがあるぞ。

 

意識し合ってることなんて分かりきっている者同士、互いに興味しんしん、好意を丸出しにしないよう小出しする。

 

全身で相手の存在を意識しているのだ...こんな感じ。

 

車道側を歩いていたチャンミンの脇を、タクシーがかすめるように通り過ぎた。

 

俺はとっさにチャンミンの腕を引き、彼を歩道側に俺は車道側にと入れ替わった。

 

俺に突然二の腕をつかまれて、驚いたチャンミンの「ありがと」はつぶやき声だった。

 

この程度の気配り、俺にしてみたら大したことない。

 

女子といる時、例えその子が恋人じゃなくても、これくらいの気配りができない男はダサいのだ。

 

ん?

 

隣のこいつは男だけど、俺と並ぶと守るべき存在に見てしまうのかなぁ?

 

俺とチャンミンは、無言で歩いている。

 

無言が辛くない。

 

チャンミンの後ろポケットで、スマホ着信音が鳴った。

 

いい感じの時間が断ち切られてしまった。

 

困惑した表情と話し方から、Dからの電話だったようだ。

 

「...うん...雑誌?

雑誌って...ああ、アレか。

ごめん、買い物は済んだよ。

え...でも、もうすぐホテルに着くんだ。

どうしてもいるの?

...戻れってこと?

...うーん...そっか、うん...うん」

 

ふぅとため息をついたチャンミンは、スマホをポケットに戻した。

 

「ごめん、ユノ。

もう一回コンビニに行ってくる」

 

そもそも、何もいらないと言っていたのはDだ。

 

むかぁっとした。

 

言いなりになっているチャンミンに対しても苛立った。

 

「わざわざ行く必要はないさ。

無視しようぜ」

 

俺の言葉にチャンミンは、困り顔だ。

 

普段もチャンミンとDは、こんな感じなんだろう。

 

「でも...怒られるし。

後々、面倒になるし...。

ユノは先に戻ってて」

 

きびすを返したチャンミンの手首をつかんだ。

 

「ユノ!?」

 

「無視だ、無視!」

 

チャンミンの手を引いて、ホテルへの帰り道を急いだ。

 

 

(つづく)

 

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