キスから始まった(3)

 

 

昼間は汗ばむほど温かい陽気だったからか、夜になっても長袖Tシャツ1枚で十分だった。

 

夜気は生ぬるく湿っている、明日は雨になるかもしれない。

 

明日はテーマパークで馬に乗る予定になっていたから、Aは残念がるだろうな。

 

俺は雨が降ろうが晴れようが、どっちでもいい。

 

そもそも、最初から気乗りのしなかった旅行なのだ。

 

彼女と共に過ごす時間を楽しむ、というより、いかに彼女を楽しませ、満足させてあげられるか...この旅行での俺の使命はここなのだ。

 

機嫌を損ねてしまったAと...チャンミンの彼女Dの気分を盛り上げるために、俺とチャンミンは気をつかわなければならないだろうな。

 

俺自身が楽しんでいないじゃん。

 

いいのかよ、それで?

 

エレベーターの中でも俺は、チャンミンの手首から手を離さなかったし、チャンミンも握られたままでいた。

 

女子と付き合うのはウンザリすることも多い、でも恋人は欲しいんだよねぇ同士。

 

それだけじゃないってことは、俺もチャンミンも気付いていた。

 

なぜだか目で追ってしまい、目を離せなくて、見入ってしまう者同士。

 

ろくな会話を交わしたわけじゃないが、空気というか相性というか...こいつとは親友になれそうな予感がした。

 

俺が手を離したのは、俺とAの部屋のドアの前でだった。

 

俺とチャンミンは顔を見合わせ、肩をすくめ合って、笑い声をあげてしまうのを堪えた。

 

くしゃっと笑ったチャンミンに、「お、笑顔が可愛いな」としみじみ思ってみたりして。

 

俺たち男どもが気を利かせて買ってきたものに、どうせ散々文句を言うだろうなあ、って。

 

チャンミンの場合、Dから責められるだろうな。

 

その時は、「俺が早く帰りたいと、チャンミンが店に戻るのを止めたんだ」とかばってやらないとな。

 

持ち歩いていたカードキーをプレートにかざし、カチリと開錠する音の後ドアノブをひねった。

 

 

 

 

 

「...2分とか3分だったのよ。

これって...早すぎだろ~?」

 

俺とチャンミンの足が止まった。

 

部屋の構造的に、彼女たちがいるベッドからは入口はちょうど死角になっていた。

 

「早いと思う。

遅すぎてもヤだけどねぇ」

 

「あたしなんて、えっえっえっ、何これ状態よ。

でね、ほら...指でやるでしょ?

なんかねぇ...やり方が凄い変なの」

 

彼女たちが誰のことを話題にしているのか直ぐに分かった。

 

「え~、何々?

詳しく教えてよ?」

 

「絶対にAVの見過ぎだと思う。

こんな風に...変でしょ?

マジ勘弁、あたし的に無理ってなってきて。

そんなんで挿れようとするから...いってぇよ~!」

 

「あはははは!

ウケる~。

でもさ、CってDが初めてじゃないんでしょ?

前にも彼女がいたんだよね?」

 

彼氏の暴露話では、チャンミンのことを『C』と呼んでいることは、今朝のひそひそ話で知っていた。

 

俺は後ろに立つチャンミンを振り返れない。

 

「って聞いてるけど。

見た目がいいからモテたと思うけど、アレがあれじゃあねぇ」

 

「カッコいいのに、勿体ないねぇ」

 

「そうなのよ。

これで顔がブーだったら、即行別れてた」

 

「でもさ、優しそうじゃん」

 

「言い方変えると、気弱。

Aはいいなぁ

Y君、気が利くし男らしいし。

上手そうだし」

 

(Y!?

俺のことか?

...なるほど、彼女たちは彼氏のことをイニシャルで呼んでいるんだな)

 

話題が俺のことに移ったようで、緊張してきた。

 

「う~ん...そうなんだけどねぇ。

テクが凄いから。

Yの前カノ知ってるんだけどさ、その子、超胸がデカいの」

 

(!!!)

 

「Aも胸が大きいもんね」

 

「胸狙いなんじゃないかって思うのよ。

だってね...」

 

(!!!)

 

「なになに~?

教えて教えて?」

 

「Yってね、しつこいの。

C君の真逆かもね。

スタートから終わるまで1時間とかよゆーなのよ。

私、途中で疲れてきてさ、寝ちゃいそうになったこともあるもん」

 

(!!!!!!)

 

「Y君はAが寝落ちしかけてるのに気づかず、必死でヤッてたりするんだ?

しつこいのもだるいよねぇ。

胸フェチってことは、揉み揉みもしつこいんじゃないの?」

 

「そうなのよ。

しつこいよぉ。

お前は赤ちゃんか!って」

 

(!!!!!!!)

 

「きゃあぁぁぁ!

ウケる~」

 

手を叩いて爆笑する女子二人。

 

全身からどっと汗が噴き出してきた。

 

「こんな話、Dにしか言えない」

 

「あたしも、Aにしか言えないよ。

あれぇ、まだ帰ってこないのぉ?

おっせーよ!って」

 

「何やってんだろね。

...Dどうする?

コンビニでアレを買ってきたら?」

 

「ヤル気満々じゃん。

買ってこられても、ご遠慮させていただきますわ」

 

「かわいそ~!」

 

「酒がね~ぞ!

早く帰ってこいよな~」

 

「ねぇ、D。

飲み過ぎじゃない?

頭揺れてるよぉ?」

 

「昨夜があんなじゃ、飲みたくなるってば!

え~、今夜、Cと寝るのやだぁ」

 

「よしよし。

じゃあさ、この部屋で寝なよ」

 

「え~、悪いよ。

Y君はどうすんの?」

 

「C君と一緒に寝てもらえばいいじゃないの~。

男同士ダブルベッドで寝てもらおう」

 

「Y君さ、Aと寝れないって寂しくなっちゃって、Cを襲っちゃったりして」

 

「やめてよ、気持ち悪い。

私のYがそんなことするわけないって。

...でも、そうなったら漫画だね」

 

俺は踵を返し、立ち尽くしていたチャンミンの肩を押して、入り口ドアへ促す。

 

買い物袋からプリンを2個取り出して、ドアの前にスプーンも添えて置いた。

 

そして、音をたてないようドアをそっと閉めた。

 

 

 

 

猛烈に気まずかった。

 

俺のえっち事情もバレてしまったが、俺の場合は大したことない。

 

気の毒なのは、チャンミンなのだ。

 

知るべきじゃないことを知ってしまった。

 

自分の恋人がどんな人物なのか、どんなデートをしてどんな喧嘩をしたか...友人相手に話題に出すな、と言いたいのではない。

 

頼むから、俺たちの耳に入ることは絶対にないところでしてくれ。

 

俺たちは今、Wデートとやらをしてるんだぞ?

 

互いの彼氏の欠点を披露し合う場面じゃないだろう?

 

俺が耳にしてしまうという恥を、チャンミンにかかせた彼女たちに心底腹が立った。

 

「......」

 

「チャンミンの部屋に行こう」

 

「えっ...でも」

 

「女子会は朝まで続くだろうよ。

俺たちも男子会を開こうぜ」

 

俺は片手に下げた買い物袋を掲げてみせた。

 

酒もつまみもたっぷり用意してある。

 

小腹が空いた時用の菓子パン(ゴムは買ってきていないが)もある。

 

チャンミンの固い表情がほどけて、半分泣き出しそうなものでも笑顔が浮かんだ。

 

よかった。

 

ゴムを使う流れになるなんて、この時はあり得ないと思っていた。

 

昨日知り合ったばかりのチャンミンと2人、男子会を始めようか?

 

 

(つづく)

 

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