~チャンミン16歳~
「行きましょうか?」
席を立つMを追う。
腰までの長さのコートから、Mの形のよい生足が伸びていた。
Mを裸にする光景を想像した。
上手くできるかは自信がないけど、きっとMがリードしてくれるはずだ。
Mはテキパキと手慣れた風に部屋を選ぶと、僕と腕を組んでエレベーターに乗り込んだ。
僕の肩あたりにMの頭のてっぺんが来ている。
この2、3か月で背が伸びて、あともう少しで義兄さんに追いつきそうで、嬉しかった。
「年下で、それも高校生となんて、初めてかも。
あ、チャンミンはまだ中学生か!」
「...もう卒業したよ。
ところで、Mちゃんは、初めてはいつだったの?」
「うーんと、17歳くらい」
エレベーターのパネルの階数ランプをぼーっと眺めていた。
「相手は?」
「バイト先の先輩...27歳だったけな、フリーター」
「ふぅん。
別れたって言ってたけど、Mちゃんは彼氏がいたのに義兄さんのことが好きだったんだ?」
「私はね、同時進行派なの。
あ、この階だよ」
僕らは腕を組んだまま、エレベーターを降りた。
タバコのすえた匂いがしみついているが、想像していたより清潔そうでシンプルな内装だった。
「同時進行って、二股とか三股ってこと?」
「一般的な目でみたらそうなるけど、私にしてみたら、そうじゃないんだなぁ」
「どういう意味?」
「私ね、一人だけ、は怖いの。
全身全霊こめて、その人を好きになるでしょ。
もし、フラれるか何かしたら、全部を失くしてしまうでしょ?」
「それって...ズルくない?」
「やっぱり、そうよねぇ。
これは表向きの理由。
ホントの理由は、他にあるの」
全てが物珍しくて、僕はキョロキョロしていた。
ベッドヘッドのティッシュケースの隣に置かれたコンドームに、ぎょっとしてしまう。
実物を見るのは初めてだった。
「ホントの理由って?」
Mの方を振り返って、僕はもっとぎょっとしてしまった。
ブラジャーだけになったMが、スカートのホックを外していた。
手足は華奢なのに、濃いピンク色のブラジャーに包まれた乳房はふっくらと大きい。
「私って欲張りだから、いろんな人と繋がりたいの。
彼氏がいたのに、ユノさんが好きなのもそう」
Mの足元に、パサリとスカートが落ちる。
濃いピンク色の小さなショーツのⅤゾーンに、目が釘付けになる。
なだらかな丘に釘付けになった。
「ユノさんは結婚しているから、気を遣わないとね。
でも、『妻がいる画家』って、ドキドキする」
Mはベッドカバーをはがすと、シーツの間に下着姿を滑り込ませた。
「年下の男子と一度ヤッてみたかったんだよね」
思いきりのよい行動にあっけにとられていたら、Mは僕の手をひいた。
「チャンミンも早く脱いで。
それとも、私が脱がせてあげようか?」
シーツから抜け出たMは、僕の背後に回ってのしかかるように僕に腕を回した。
Mの胸のふくらみを背中で受けとめて、その柔らかさを感じて腹底がぞわりとした。
Mに見つめられる中、僕はパーカーとパンツを脱いだ。
義兄さんの前では堂々と全裸をさらせるのに、Mの前だと猛烈に恥ずかしかった、何故か。
あばらの浮いた胸や、細すぎる脚...といった自分の身体が不格好に思われて仕方がなかったんだ、何故か。
もつれ震える指でMのブラジャーのホックを外し、下着は各々で脱いだ。
ここまで来てようやく、僕らは唇を合わせた。
誰かとキスをするのも初めてだったし、女の子の裸をナマで見るのも初めてだった。
緊張のせいか僕のペニスは萎れたままで、焦ってしごく。
「手を離して。
私がやってあげる」
横座りしたMは、くたりとした僕のペニスを小さな白い手で握ると、ゆるゆると上下させ始めた。
「...っ...」
僕のものではない手で...それも女の子の手で...しごかれる様を、僕は黙って見下ろす。
「...っ...あ...」
覆っていた皮を、Mはじわりと剥いてゆき、亀頭が露わになった。
「可愛い...」
たまらず、かすれ声を漏らすと、Mは僕を見上げてにっこりと笑った。
Mの手の中で徐々に膨らんでいき、亀頭の先端から透明な雫がぷくりと浮いた。
その雫をペニス全体に塗り広げて、Mの手の動きが早くなる。
もし。
柔らかそうなこの手が、義兄さんの手だったら...。
大きな義兄さんの手だから、きっと...僕のものはすっぽり収まってしまうだろう。
絵の中の女性の肌を、緻密に描く義兄さんの手。
きっと、その手を巧みにうごめかせて、僕を絶頂まで導いてくれるだろう。
そんな妄想をしたら、Mの手の中でぐっと膨張したのがよく分かった。
ぎちぎちに硬く、天を向いたのを確認して、Mは仰向けに横たわった。
僕は吸い寄せられるように、Mの上に覆いかぶさる。
温かい肌同士がさらさらとこすれ合うのが、気持ちがいい。
そっか...だからみんな、裸で抱きあうのか、と。
ふうふうと息が荒い。
女の子に最も敏感な部分をいじられたことに興奮したのか。
それとも、義兄さんから与えられる行為の妄想に興奮したのか。
どちらなんだろう。
Mは僕の手を取り、自身の両腿の間に触れさせた。
「......」
温かく、ふっくらと柔らかく、ぬるりとしていた。
その指を動かせなかった。
愛撫の仕方が分からないせいじゃない。
ショックだった。
自慰の際に、さんざん思い浮かべて欲情してきたところなのに。
僕とMはしばし目を合わせたままだった。
そうだ、コンドームを付けないと。
指が震えて中身が取り出せずにいると、Mの手が伸びてそれを取り上げた。
手際よく僕のペニスに装着してくれた。
ありがとう、と言う代わりにMをじっと見たら、彼女は何てことないわよ、って感じに肩をすくめた。
Mの身体...女の子の身体に衝撃を受けたにもかかわらず、一度火がついた男の性は止められない。
濡れたあそこに埋めたいより、パンパンに張り詰めたものを解放させたい。
Mはくすりとほほ笑むと、上になった僕の腰を挟むように、自ら足を広げた。
そして、僕のペニスに手を添えて、「ここよ」と言うように挿入する箇所まで導いてくれた。
入り口は狭く、そこを通過する際に気持ちが良すぎて、切ないうめきを上げてしまう。
瞬間、股底が緊張したのちに弛緩した。
「...っあ、ああぁ...っ」
「...チャンミン?」
Mの上に倒れこんでしまった僕の背中を、彼女は優しく撫ぜてくれた。
Mの首元で、僕ははあはあ荒い呼吸を整えた。
挿入5秒でイッてしまった僕を憐れむことも、からかいもしなかった。
「...どう?
復活した?
もう一回やろう」
そう言ってMは、僕の胸を押して仰向けに突き倒した。
横たわる僕の上に、Mはまたがる。
・
下から腰を打ち付けるごとに、顔をゆがませ、ふにゃふにゃとした甲高い声を上げるM。
妙に醒めた気持ちで、僕の動きに合わせて揺れるMを見上げていた。
首をのけぞり喘ぐMの姿が、僕自身に見えてきた。
僕のものは気持ちがいいし、喘ぐMが僕に見えてくるし、腰を振る僕自身が義兄さんみたいで。
こんなに気持ちいいことを、義兄さんは女の人としていたのか。
義兄さんに抱かれる女の人が羨ましい。
義兄さんの手や口やそれで、気持ちよくしてもらえる女の人が羨ましい。
義兄さんを受け入れられる、柔らかい穴を持つ女の人が妬ましい。
・
「チャンミンはユノさんとヤること、考えてたりする?」
僕らはめいめい、だらしない姿勢で汗だくになっていた。
隠しても仕方がない、「うん」と認めた。
「チャンミンは男の子だからねぇ。
難しいね」
「うん」
「私とどれだけヤッたって、ユノさんには近づけないわよ」
Mは醒めた目で僕を見る。
「......」
Mの質問の答えを、僕は持っていなかった。
義兄さんしか知らない身体なんて、フェアじゃないと思っていた。
まっさらな自分を差し出すのが癪だった。
義兄さんを見返したかったし、実際の行為を通して見つけたいものがあったんだ。
Mの裸やよがる仕草と声に興奮したことと、女の子の中は確かに、気持ちがいいと知った。
ハマってしまうのも、仕方がないな。
この日、枯れるまで精を吐き出してみたけれど、それだけなんだ。
何かが足りない。
根本的に足りていないものとは、明白だ。
こういうことをするのなら、僕は義兄さんとしたい。
Mには申し訳ないけれど、Mとの行為はスポーツみたいだった。
「チャンミンのおちんちんって、可愛い」
Mは僕のペニスを指先で持ち上げると、くるくると指でくすぐった。
もう僕の中は空っぽだったから、もう反応しない。
男の象徴を可愛いと言われたのだから、普通だったら屈辱に感じるだろう。
大きく太く長いと言われるのが褒め言葉なのだから。
でも、可愛いと言ってもらえて嬉しかったのだ。
おかしいだろう?
さらに。
貫かれるMが羨ましかった。
義兄さんに同じことをされたかった。
僕も女の子のようになりたい。
(つづく)
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