義弟(21)

 

 

~チャンミン16歳~

 

 

一向に射精の時が訪れず、僕は焦って遮二無二に腰を動かすだけだった。

 

「今日はここまでにしよう」

 

Mはそう言って、僕の下から抜け出した。

 

よほど情けない顔をしていたんだろう。

 

「チャンミン、変だよ。

何があったの?」

 

Mの口調が優しくて、こみ上げてきたものを見せたくなくて、僕は俯いて腿に置いた両手を握りしめた。

 

「...別に..」

 

「やだな...泣いてるじゃないの」

 

「...っ...泣いてなんかっ...」

 

Mから顔を背けて、こぶしで両目をこすった。

 

義兄さんに無茶苦茶にされるはずだった熱を、Mの身体で冷まそうとした僕は最低だ。

 

2度も義兄さんの左手の中で達し、その度に精を吐き尽くして空っぽになったはずなのに、満たされなくて。

 

義兄さんは多分...僕とヤルのが嫌なんだ。

 

僕は男だし、義兄さんは結婚してるし。

 

僕が義兄さんの立場だったら...駄目だ、全然想像できない。

 

義兄さんだって興奮していたじゃないか。

 

あそこを固くさせてたじゃないか。

 

僕とエロいキスをしていたくせに、本心では、“そういう気”はなかったんだ。

 

必死な僕を憐れんで、僕の性欲を満たしてあげるために僕のものをしごいてくれたんだ。

 

勇気を振り絞ってした告白、「ずっと、義兄さんに触って欲しかった」を受けて、義兄さんは困ってしまったんだ。

 

車の中でのことは義兄さんのお遊びに過ぎなかったのに、本気で迫ってきた僕を可哀想だと思ったんだ、きっと。

 

子供にするみたいに頭を撫ぜられて、僕の心は屈辱でいっぱいだった。

 

...でも。

 

『結婚してるかどうかは関係ない』の義兄さんの言葉。

 

あれはどういう意味だったんだろう?

 

 


 

 

キャミソールを頭からかぶるMの背中に、話しかけた。

 

「Mちゃんはどうして僕とヤルの?

義兄さんのことが好きなんだろ?」

 

Mは僕の問いにすぐには答えず、長い髪をひとつにまとめると、TVの電源を入れた。

 

隣の居酒屋から漏れる騒々しい笑い声が、バラエティ番組から流れるけたたましい笑い声でかき消えた。

 

ビニールクロスの壁にセロハンテープで留めた、名前の分からない名画のポストカードや、窓際に立てかけた何枚ものパネルボード...Mは芸大生なのだ。

 

かつて行った義兄さんのマンションや、大型の作品に溢れた義兄さんのアトリエを思うと、今自分がいる場所が子供ったらしくて、哀しくなってきた。

 

義兄さんとエロいキスを交わしたのに、ますます手が届かない存在に遠のいた。

 

「だってチャンミン、下手なんだもん」

 

「下手...って」

 

「じゃあどうして、僕とヤるんだよ?」

 

「怒った?」

 

「...ううん...」

 

はっきり指摘するMに腹は立たなかったし、「下手」と言われてショックも受けなかった。

 

「チャンミンはきっと...向いていないんだよ」

 

「向いていないって...セックスに向き不向きがあるの?」

 

「あるよ。

チャンミンは向いてない。

だから、何回ヤッても下手くそなまま」

 

『向いていない』の意味が分からずあやふやな顔をしていたら、Mは話題を変えた。

 

「今付き合ってる人...45歳の人なんだけど」

 

「不倫?」

 

Mと初めてヤッた時は確か、別れたばかりと言っていたから、新しい彼氏のことかな、それとも2股、3股目の人のことかな、と思った。

 

「バツイチ。

お腹も出ているし、頭も薄くなりかけてるの」

 

中年男とピンク色の髪をした若くて可愛いMとの組み合わせを思い浮かべてみた。

 

「でもね、テクが凄いの」

 

「!」

 

「私みたいな若い子が、中年の俺とヤッてくれるなんて、って有難そうにしてるの。

そう思うと、自分がとても貴重なものに思えてくるの」

 

Mの言葉に、義兄さんに抱かれる自分を思い浮かべてみた。

 

綺麗な義兄さんだから、僕を抱いて有難がるなんてあり得ない。

 

「じゃあ、どうして僕と?

僕は下手くそなんだろう?」

 

Mはクスっと笑った。

 

「それはね、チャンミンが綺麗だから。

それから...年下の高校生と子とやるなんて...興奮する。

何度でもできるしね。

それに...ほっとけないし」

 

僕の恋心は、Mしか知らない。

 

僕の初恋ともいえるこの恋は、相手が男だという時点で内緒ごと。

 

誰にも言えないし、誰にも理解してもらえない。

 

義兄さんとつながりのあるMといれば、義兄さんを感じられる。

 

「ユノさんとのエッチ...気持ちがいいだろうなぁ...」

 

「えっ!」

 

Mの言葉に、絶句してしまう。

 

「あんなに綺麗な人だよ?

テクもすごそうだし...いいなぁ...」

 

そうだろうなぁ、と思った。

 

「チャンミンはユノさんとどんな感じ?

私が見るところ、ユノさんもその気があると思うんだなぁ。

好きって告白した?

それとも、キスくらいはした?」

 

「!?」

 

義兄さんとしたキスと、股間のしごき、胸先を吸われた記憶に浸っていたから、素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

「...やっぱり、そうなんだぁ...」

 

バレバレな僕の反応に、Mは両手で口を覆って目を見開いている。

 

「えっと...」

 

今さらだけど、Mと僕はライバル同士なんだと気付いた。

 

僕の思いを読んだかのように、Mは肩をすくめてみせた。

 

「悔しいけどね。

でも、嫉妬の気持ちはないの」

 

「......」

 

「私ね、この前ユノさんにキスしたの」

 

「えっ!?」

 

驚いたけど、嫉妬の念は湧かなかった。

 

「ユノさんったら、全然驚かないの。

『おやおや』って感じ。

ユノさんみたいなカッコいい人にとって、若い女ってだけじゃ太刀打ちできないの。

だから、チャンミンが羨ましい」

 

僕の方に分があると、Mは言いたいらしい。

 

「チャンミンがユノさんとキスしたって聞いても嫉妬しないの。

不思議よねぇ。

チャンミンが男の子だからかなぁ...」

 

Mは僕の隣に、仰向けに寝転がった。

 

「いつか三人でできるといいね」

 

「はあ?」

 

耳を疑うようなMの発言に、僕は目を剥く。

 

「冗談よ。

チャンミンは挿れる側じゃないことは確かだから」

 

「それって...?」

 

ドキリ、とした。

 

「女二人に男一人は、つまんないもの。

片方の子が挿れられている時、私は暇でしょ」

 

「......」

 

「チャンミンが、エッチに向いていない、って“そういう意味”よ」

 

「......」

 

「私とヤッてても、気持ちはどっかにいっちゃってるでしょう?

図星、でしょ?」

 

「......」

 

「チャンミンも分かってるでしょう?

ユノさんと“そういう関係”になるってことは...そういうこと。

チャンミンは、ユノさんにヤラれる側なの。

それ以外は考えられない」

 

「でも...義兄さんは...。

男となんて、変だろ?」

 

「...変じゃないよ」

 

「どうして?」

 

「さっきも言ったけど、チャンミンは綺麗なんだもん。

ユノさんがチャンミンとヤリたいと思ったとしても、驚かないなぁ。

チャンミンだって、ユノさんが男だから好き、っていうわけじゃないでしょ?

ユノさんって美人過ぎるんだもん。

女でも男でも、ユノさんを好きになると思うよ。

あ、この『好き』は恋愛感情のことね。

だから、チャンミンが羨ましい...」

 

僕が半年近く、ぐちゃぐちゃと思い悩んでいたことを、まとめあげたMを見直した。

 

単純なことだったんだ。

 

「...義兄さんは、僕とはイヤみたいなんだ」

 

ずっと僕の胸をシクシクさせてきたことを、Mに暴露した。

 

「イヤだって、はっきり言われたの?」

 

僕は首を横に振った。

 

「もし私が、ユノさんとそういう関係になったらどう思う?」

 

「...え?」

 

「挿れる場所が違うから、チャンミンがヤキモチ妬く必要はないからね」

 

「......」

 

「チャンミン、急がないと!

これもさっき言ったことだけど、ユノさんを好きになる人はいっぱいいるハズ。

奥さんがいるとかいないとか、関係ないのよ。

ユノさん、盗られちゃうよ」

 

 

 

(つづく)

 

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