~チャンミン17歳~
僕はもちろん義兄さんも、一糸まとわぬ姿になることはほとんどない。
アトリエで抱き合う時は、限りある1,2時間を惜しんで、下を脱いだだけの...義兄さんなんて前を出しただけの...繋がるだけが目的のものだった。
あそことあそこさえ露わにすれば事足りるんだから。
時間を気にしなくてもいい今、僕らは全身の肌と肌が密着し合う感触を愉しんだ。
体毛が掠るくすっぐたさ、汗とともに発散させる匂い。
義兄さんは着やせする。
盛り上がった大胸筋や、脇腹に斜めに走る筋肉の凸凹に、僕の呼吸は荒くなるのだ。
ああ、この人に組み敷かれたい...そう望む僕は、男らしくない精神の持ち主なのかもしれない。
頑丈そうな腰骨や、Ⅴ字の茂みから屹立するものを前にしたら、もう...たまらない。
細いのに強靭な腰、僕のものよりぷくりと柔らかそうな胸の先端、すべてが神々しく僕の目に映っている。
・
マットレスに肩を落とし、お尻を高く突き出した僕。
僕の腰に食い込む義兄さんの指。
義兄さんは僕を欲している。
義兄さんの低い唸り声、いいところに当たるとそれにため息が加わる。
僕はそれを聞いて、『感じて』しまうのだ。
打ちつけられる義兄さんの腰の動きに合わせて、僕は女の子みたいな声をあげている。
深々と突き立てたまま、小刻みに揺らして僕が弱いところばかり攻める義兄さんはずるい。
「跨って」
仰向けになった義兄さんの身体を挟むように、言われたように膝立ちした。
義兄さんの手が伸びてくるかと思ったら、その手を頭の後ろに組んでしまった。
「?」
「自分で下りておいで」
「...え?
恥ずかしい...」
「ふぅん。
じゃあ、夕方の時みたいな恰好がいい?」
「...それは」
数時間前の性急なセックスで、オムツを交換する時みたいな恰好をさせられたのだ。
あの体位は恥ずかしすぎる...。
今日の義兄さんは、とてもいやらしい。
付いていた膝を立てしゃがんだ姿勢になり、義兄さんの胸に両手を当てて身体を支えた。
またがり直した僕の入口を、義兄さんったら、手を添えたそれで焦らすようにくすぐるんだもの。
ゆっくりと沈め、僕のお尻が義兄さんの腰に着地した直後、真上に突き上げられた。
「...んあっ!」
その衝撃と、脳天まで貫いた痛いくらいの痺れに、とんでもない大声をあげてしまった。
「...そんなっ...奥...ダメ...おくっはっ...!」
怖くなって膝を閉じようとしたら、
「チャンミン、ダメだよ。
脚を広げて?」
義兄さんの言う通りにしたら、バランスを崩して倒れてしまう。
僕は前のめりになって、義兄さんの肩に身を伏せた。
「ひっ...無理っ...やっ...あ...!」
自ら腰を振る余裕なんかなくなって、義兄さんに支えてもらうのだ。
僕の腰は引き落とされたまま、大きなスライドで叩きつけられた。
「...チャンミンっ」
呼ばれて僕は、「義兄さん」と答える。
「義兄さん...じゃなくて、名前を呼んで?」
「...そんな...無理っ...あ、そこは...ダメ」
1年以上前。
義兄さんに絵のモデルを頼まれた日。
僕は自室で、義兄さんの名前をつぶやいたんだった。
『ユノ』と呼んで生意気だと思われたいと...それから、発した音の響きに、甘やかな気持ちになったんだった。
「ほら...呼んで?」
義兄さんは僕の義理のお兄さん。
「恥ずかしがらないで、呼んで?
呼ばないと、こうするよ?」
「...んあっ!」
『ユノ』のひと言が口に出来なくて...恐れ多くて、口ごもっていると義兄さんは、ひっくり返るくらいの勢いで僕を揺するんだ。
観念して、ぽそり、とつぶやいた。
「...ユノ」
「いいね。
今度から二人でいる時は、そう呼んで?」
義兄さんはそう言ってくれたけど、それは出来そうにないと思った。
義兄さんは、僕にとってずっと『義兄さん』で...でも『兄さん』ではないんだ。
黙りこくってしまった僕に、義兄さんは謝った。
「今は無理だよな...ごめん。
『義兄さん』じゃなくなるよう、準備するから」
指の背で唇をやさしく撫ぜられた。
姉さんと別れないでと頼んだのは、僕だった。
義兄さんは同意してくれたけど、僕の真意を見抜いてくれたんだろうか。
義兄と義弟の関係性に頼らない、強固な繋がりを僕らは結べるだろうか。
義兄さんに値する男になれるだろうか。
僕に足りないのは、自信なのだ。
「え...?
あっ...ダメっ...それ...!」
全身がびくびくと痙攣する。
リズミカルだった喘ぎ声も、次第に声をあげっぱなしになってしまい、終わる頃には掠れ声になっていた。
「好き...好き、好き」
狂ったように「好き」を連発して、義兄さんの肩にかぶりついた。
頬を濡らす熱いものは僕の涙?
酸素を求めてぱくぱくする口は、義兄さんの唇でぴたりと塞がれる。
前を刺激しなくても、僕はいくらでも絶頂を迎えられる。
何度でも。
・
貫かれたばかりだから、義兄さんの指を容易に飲み込む。
バスタブの縁に手をついて、高くお尻を突き出した格好になっていた。
義兄さんの2本の指で押し開かれ、僕の入り口はきっと、ぽっかりと口を開けている。
水圧の強いシャワーを注がれたそこは、じんじんと熱を帯びている。
「...いいよ、いきんで」
「汚いから...嫌です」
恥ずかしくて我慢しても、結局は耐えきれなくなってしまうのだけど。
「綺麗になったかな?」
ぐりりと固く敏感な箇所を、こすられてのけぞってしまう。
「あ...っは」
かと思ったら、熱くぬるついたもの...義兄さんの舌...が、僕の入口で遊びだした。
「...やっ...ダメ...ダメ...!」
「ダメ」や「やめて」は義兄さんを煽る言葉。
バスタブに腰掛けた義兄さんの上に、後ろ向きに重なる。
「せっかく洗ったのに...」
真っ白な床に、血色のよくなった僕らの肢体が生々しかった。
シャワーを浴びたばかりなのに、舐めた義兄さんの肌がしょっぱい。
ちゃぷちゃぷと肌同士がを大理石張りの浴室に響く。
明日の夜もこうやって、義兄さんと重なりたい。
しこりとなっている物事を片付けて、晴れ晴れとした気持ちで。
・
閉じたまぶたの向こうが白く透けて、そうっと目を開けた。
お尻にシーツが直接触れるから、僕は何も身につけていないみたいだ。
浴室でも繋がって、腰がたたなくなってしまった僕を義兄さんはベッドまで運んでくれたんだっけ?
喉はひりひりするし、全身がだるい。
これは風邪をひいたわけじゃなくて、つまり、昨夜の名残なのだ。
閉めたカーテンの隙間から、外の景色を覗く義兄さんの背中。
布団から目だけを出して、上半身裸でベッドの前を横切った義兄さんを目で追った。
TVをつけて慌てて音量を下げている(眠る僕を起こさないように)、ごくごくと水を飲んでいる(喉が渇いているんだね、僕も喉がからからだ)、シャツに腕を通している(糊のよくきいたシャツ。もう出かけるのかな)
急に寂しくなって、薄目で義兄さんを観察していられなくなって、僕は勢いよく起き上がった。
「...いた!」
腰も股関節もギシギシと音がしそうだった。
僕のうめき声に気付いて、義兄さんは「起きた?」と、僕に手を貸してくれる。
引っ張り起こされて、「義兄さんのせいですよ」と恨みがましく言ってみた。
義兄さんはベッドに腰掛けて、「おはよう」って僕の頬を撫ぜた。
揃って朝を迎えたのは...初めてだった。
義兄さんのシャツにしわを付けるわけにはいかないから、押し倒すことはできない。
映画で観たことがあるシーン...お昼過ぎまでぐずぐずといつまでもベッドの中で過ごす恋人たち...こんな感じなのかな。
僕たちは...恋人同士なのだろうか。
...そうとも言えるし、そうじゃないとも言える、曖昧な関係だ。
・
今日の義兄さんは、夜までびっしりと予定が入っているのだそう。
「観光しておいで」と義兄さんは言ってくれたけど、僕にはやることがあった。
今夜、義兄さんとこの部屋で合流したら、彼に渡したいものもある。
ドアが閉まる音を確かめて、バッグからスマホを取り出した。
『今日、会えますか?
話があります』
メッセージを送信した。
(つづく)